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<日 記> 私のトイレの愛読書(「アイドクソ」と読むなよ!)に、「日本百景百釣叢書」というのがあります。
これは昭和39年に刊行された古今東西の釣りに関して紹介しているシリーズ物で、当然、今は絶版となっており、神田の古本屋街でもまず見付けることの出来ない希覯本なのです。
さて、その中の一冊「釣技体系〜海水魚篇其ノ弐〜」にこんな記述があります。
概ね、海上における遊漁的釣法には「能動型」と「受動型」の二通りに大別される。
「能動型」に該当するのは、(イ)常に誘い続けなければならない白鱚・皮剥・穴子・飯蛸等の小型魚、(ロ)撒き餌を散布するという動的行為で集魚効果を狙う鯛・鯵・伊佐幾・鰤一族、(ハ)終始仕掛けに生物的躍動感を与えることが不可欠な槍烏賊・鯣烏賊・煽烏賊等の烏賊類などである。
「受動型」は、海老餌の鱸・真鯒・鰈・鮃などに見られるような、誘いを全く入れず、餌が棚または底にあり、対象魚が食いつくことを信じて専ら待機している釣り方を指す。
また、一部には「半受半能型」と呼ばれる技法もある。それは仕掛けを棚に合わせた後、若干の誘いを入れ続けるか若しくは、其のまま魚信を待ち続けるか曖昧である釣法である。対象となるのは笠子・目張・雌鯒等、極めて稀である。
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ちょっと、漢字が多すぎて読んでいて眠くなるという難点はありますが、40年前の沖釣りの世界が仔細に書かれてありますので、興味のある方は脚を棒にする覚悟で探してみて下さい。
さて、上記で紹介したように釣り方を「能動型」と「受動型」に分けるならもちろん私は、「能動型」を選びますね。
いつ訪れるか分からないアタリを待ち続けるよりも、自分から積極的に誘いを入れ、魚を掛ける釣り。
こちらの方が断然、「釣った」って感じが致します。
どうも、誘わない釣り・置き竿の釣りって面白くないのです…。
そこには「腕」とか「技」の介入がほとんど無い気がするのですよ(ええ、私自身に「腕」も「技」もありませんが…)。
そうはいっても、アワセや掛けたあとのやり取りという点では今までの経験則が要求されるのでしょうけど、私の場合、良型の魚ともあまり縁が無いし…。
ですから私は「待っているだけの釣り」が好きではありません。
つまり、本日ボウズを食らったアコウ釣りなどはキライな釣りの最たるものです。
もうホント、キライですアコウ!!間違いなく今日からキライになりました!!
あのバカみたいに目玉を飛び出させて上がってくるまぬけヅラを見るとムカムカします(他人が釣った場合は特に…)。
あの真っ赤っかな体色を見ると、「お前、本当は合成着色料赤色104号とか使ってんだろ!?」と難癖をつけたくなります。
「一生、深海暮らししてろ!暗い世界で生まれて暗い世界で朽ち果てろ!!」と憤怒の念が込み上げてきます。
ということで、これから書くのはそんなアコウがキライになった私の顛末記なのです…。
■ KOBUさんの重装備
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| <つ、ついに禁断の深場の道具を…> |
KOBUさんは、今日のアコウ釣りに向けてにタックルを購入していた。
竿はアルファタックルのスーパーディープクルーザー200W。
リールはミヤエポックのCX-4HP。
アコウ釣り2回目にしてこのセットを調達する彼の豪胆さは他の追随を許さないものがある。
引きかえ、私などは海の物とも山の物ともつかない(海の物ですけど…)アコウのためにそこまで揃える度胸がなかった。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあり」
「リスクなくしてリターン無し」
これらの言葉が真実なら、今回、憧れのアコウを手にするのは私ではなく、KOBUさんのはずであった。
それなりの代償を支払った者にこそ、海の神様は微笑まなければならない。
顔を見れるか見れないかのシビアな釣り物なら尚更、その道理は通るべきである。
ところが、結果的に私たちは二人ともボウズという憂き目を見た…。
当わはは爆釣隊の別ユニット、とほほスソ隊の主要メンバーであるこのコンビがボウズという結末に至ったのは自然な成り行きかも知れないが、だからといって納得出来るものでもない…。
アコウ釣りは前述のように仕掛けを投じた後、釣り人は成す術なく、指をくわえて見ているだけの傍観タイプの釣法である。「受動型」釣行のまさに決定版。
やることといったら時おり底ダチを取り直すだけ。
しかも、一日の投入回数は限定されている。
今回の葉山あぶずりのまさみ丸においては投入回数合計8回。
8回仕掛けを沈め、8回巻き上げるだけ。
それ以上投入することも、それ以上巻き上げることも厳禁・ご法度・ルール違反。
そのような限られた状況でありながら「釣行感」を高めたいがため、這わせるとか叩くとかシャクる等の誘いを入れることもままならない(いや、やってもいいとは思いますよ。250号のオモリぶら下げた大型電動リールのタックルでヤレるのなら…)。
つまり、私たちがボウズを食らったことは決して、「釣りがヘタ」とか「ダメな人間だから」ではないのである。
ただ運がなかっただけなのだ(そう信じたいです、ホント…)。
では、その証拠を下記に明記したい(今回はいつも以上に言い訳がましいな…)。
■ トウジンへの涙
第一投目、船長の合図と共に私はオモリを投じる。
250号の鉛の塊は、蒼く澄んだ葉山沖の海に沈んでいった。
水深400m以上の深場に着底するには数分の時間を要する。
しばらくして、オモリが底に着いたことを知らせる糸フケが出て、正確な底ダチを取るため数m巻き上げ、落とし直しをする。
ところがその時、リールをフリーにしても、一向に沈む気配が訪れない…。
ついさっきまでは順調に送り出されていた道糸がピクリとも動かない…。
250号のオモリが付いているわりには竿がピンと真っ直ぐなことにヤな胸騒ぎを覚える…。
いさぎよく、この回を諦めた私は電動のスイッチを入れ、仕掛けを回収。
相変わらず目の前の剛竿は海面と平行関係を保ち、30代後半の自分自身を彷彿させた。
「な、なんだぁ、仕掛けが切れちゃったのかぁ!?」
私は限定8回の投入の内、1回を棒に振ったことが無念でならない。
12.5パーセントの損失である。痛い数字だった…。
ようやく上がりきった道糸。
ところが、意外にもその先にあるはずの仕掛け全部が消えていた…。
いや、仕掛けだけではなく、コウさんから以前貰ったキャラマンリングやヨリトリチェーンも無くなっていた…。
さらに付け加えるなら、道糸数10m分から下が一切合財、消失していたのだ…。
今日一日の釣果を占うといっても過言ではない第一投目から原因不明の高切れ。
12.5パーセントのチャンスと共に、仕掛け一式を失った私は呆然とした。
私が得た物といえば次投までの空虚な時間のみである…。
基本的にヒマな人となった私。
缶チューハイを呷(あお)り、傍らにいるKOBUさんにチョッカイを出す。
「私が今、酒飲みながらやっていること分かります?」
「なんですか?」
「この回、誰もアコウを上げるなと呪いをかけてるんです!」
タチの悪い釣り人である…。
そしてようやく船長から巻き上げの合図。
KOBUさんは新品の竿先にわずかなアタリがあったことを視認していた。
もしや赤い魚が付いているのだろうか。
KOBUさんが買ったリール、CX-4HPの「HP」とは「ハイパワー」の略だそうだ。
さすがにハイパワーだけあって巻き上げが速い。
私が使っているレンタルのCX-8よりも格段にスピーディである。
そしてついに、その高性能のリールが深場から引きずり出してきた魚体が海面に上がった。
以前のアコウ対戦のときも周囲で上がった外道、トウジン(※1)である。
KOBUさんは今回、このトウジンを持って帰り、食べる予定だった。
ところが、取り込む間際に口からハリが外れ、プカプカと海面を漂ってしまうことに…。
一投目から上がった第二の本命、外道とはいえ、ややKOBUさんも無念そうだった…。
「KOBUさん、あそこに浮かんでいるトウジン、カモメに凌辱されてますよ…」と私。
「あっ、ホントだ。可哀想に…」
思えば、あのトウジンも悲運である。
深海で慎ましい生活を営んでいたところ、たまたま目の前に落ちてきたエサに誘惑され食ってしまったが最後、口中を貫いたムツ針に自由を奪われ、さらには高速で巻き上げられたと思ったら、潜水病に加え内臓が飛び出るという二次災害にも遭い、挙句の果てに身も心もボロボロで海面に漂えば海鳥たちに生きながらにして食われ、非業の最期を迎えることになったのだから…。
私があのトウジンの立場であったら、そう叫ぶに違いない…。
ふと、自分の今の状況はまだマシだという気になってきた…。
8回のチャンスの内の1回を失敗したことなど、意識があるのに内臓をハグハグされることに比べたら、なまやさしい…。
私はトウジンのご冥福を心からお祈りした…。
■ 美徳的忘却
第二投目からはなんのトラブルもなく粛々と進行した。
もちろん、トラブルがないかわりに魚信もなかった。
今日一日を振り返ると、二投目以降の釣りに関する記憶が喪失していることに我ながら驚く。
思い出せるのは、KOBUさんと交わした楽しくも真面目な会話のみ。
家庭のこと・育児のこと・仕事・将来・女性問題・世界情勢・年金問題・雇用問題・政治・経済・スポーツ・芸術・音楽・文学・歴史(なんだか「クイズグランプリ」の出題みたいだな…)。
「受動型」の釣りであるから時間はたっぷりとあった。
私たちは様々なテーマに対してお互いの意見をぶつけ合った。
「今月からカミサンが実家に帰っていて、家ではやりたい放題なんですよ、私」とKOBUさん。
「おっ、いいですねぇ。私の家内も今月末に帰省するんですけど5泊で戻ってくるらしいんです…」と私。
「あらら、それは短いですね…」
「ええ、久し振りの独身生活なのにね…。でも、一人暮らしだとトイレのドアを開けっ放しでウンコ出来たりしてイクないッスか!?」
「そうなんですよ、開放感があって最高です!!あ、そうだ、デリヘルでも呼ぼうかな…」
私たちの高尚な会話は静かな船上に大きく響き渡った…。
左舷のオオドモで本日初のアコウが上がったようである。
さらに、私の左隣りにいた方も本命を手にしていた記憶もある。
乗船者10名の中で選ばれた2名の幸運な人たち。確率2/10のラッキー・ロシアンルーレットで大当たりの実弾が脳天を直撃した人の顔には嬉しさが滲んでいた。
そして、残りの敗北者たちの表情には諦観と失望と嫉妬の思いが色濃く支配し、貧乏クジを引いた自分の運の悪さを呪っていた…。
午後2時。船長から出された終了の合図。
「ヤレヤレ、やっと終わった…」既に勝負を諦めていた私に相応しい消極的な感想。
早速、電動リールのスイッチを入れ、仕掛けを回収する。
結局、今回私が釣った魚といえば、精液のような白濁した液体を分泌するホラアナゴ一本のみ。私やKOBUさんからはザーメンウナギと命名された不憫な生物だけだった。
「あれタカギさん、何か付いてますよ…」KOBUさん。
「あっ、ホントだ…」
「トウジンじゃないですか。持って帰ったら?」
「イヤ、クーラー汚したくないからリリースしますよ…」いかにも負け犬らしい理由付けである。
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| <満身創痍なトウジン> |
「ポイ…」と捨てられた深海の住人は、スクリューで泡立つ航跡に飲み込まれ、海と同化していった。
漆黒の闇の世界で過ごしていたトウジンが元の住処に戻ることは出来ない。
最初で最後に見る海抜0mの別世界。春光を浴びて意識が遠のく刹那、彼は「こんなハズじゃなかったのに…」と思ったのかも知れない。
私も同じ意見だった。
そして、無性にシロギスが釣りたくなった。
飽きるほど誘って、小物との真剣勝負を満喫したくなった。
丸一日、置き竿にしていたのに、何故か私は疲れ切っていた…。
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