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<日 記> もう随分と前の話になりますが、「隔週刊つり情報」6月1日号(No.619)に掲載されていた「F・キャスター大塚貴汪の泳がせ12番勝負」に内房館山沖のマゴチ釣行のレポートが載っていました。
シコイワシで狙う、内房のマゴチ。
外道にはヒラメやホウボウも上がっております。
しかも水深は浅く、使用するオモリは15号。
会社向かう通勤途上でこの記事を読み、私はハゲシク反応しました。
目はギラつき、口元は半開きとなり、雑誌を持った手は小刻みに震えたのです。
朝の混みあう通勤電車内で、こんなにも興奮している人は痴漢か私くらいなものでしょう…。
「ヤリたい、イキたい、泳がせたい!」激情は最高潮に達しました。
「もうダメ、我慢出来ない…」キモチの高ぶりは臨界点です。
「今すぐにでも俺の竿を出したい…」釣り雑誌を持っていなければただの変態です。
私の前に立つOL(28歳・独身・旅行会社勤務・血液型A・冷え性・彼氏無し。以上推定)は自分の背後にいる鼻息の荒い小太りのオトコ(私のことね)から発せられる殺気と興奮と震えを感じ取ったのか、チラチラと後ろを振り返ります。
私は雑誌から目を上げ、薄笑いを浮かべながらこの釣りを現実のものとするための算段をします。
「KOBUさんにメールしてみよっと!」この珠玉の思いつきに私は小さく頷きました。
「まっちゃんも食い付くかも知んないな…」3バカの一人、まっちゃんの顔が頭に浮かびました。
「分け前が減るから三人くらいがちょうどいいな…」理想的な人数まで弾き出します。
前述のOLは横目で私を警戒することを怠りません。
彼女は背後にいる口元の緩んだ小太りのオトコ(私のことね)が、自分の身体かカバンの中身に興味を持ったと勘違いしているようです。しかし、私の興味はマゴチやヒラメだったのです。
朝の京浜急行通勤快速車内で、私の脳内にはドーパミンの奔流が駆け巡っていたのでした。
■ 三ツ星の港
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本日の午前4時、富浦港に到着したKOBUさん・まっちゃん・私の「トリオ・ザ・釣りバカ」。
早朝の富浦港は清々しい空気に包まれ、日の出前の薄暗がりの下に広がる眼前の海は、湖のように穏やかだった。
母なる東京湾にはふたつの顔がある。
生活廃棄物のたゆたう、汚濁したお馴染み顔。
そして、水が透き通り人間の吐き出した残滓に汚されてない清らかで豊潤な内房の顔。
ここ富浦港の海は、房総半島の先端部分に近いことから、その清秀さはさらに突出しており、私たちの心を穏やかにさせた。
海と反対側にそびえる、緑に覆われた山では野鳥のさえずりが鳴り渡り、陽が昇るよりも早く、我々に朝の到来を告げていた。
「海の色が違うねぇ!」とKOBUさんは目を輝かせた。
「そうだね…」二日酔いのまっちゃんの目は眠そうだった。
防波堤から竿を出している数人の釣り人を横目に、私たちは本日お世話になるゆたか丸が停泊する船着場まで行く。
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| ▲「チューボーですよ!」状態のKOBUさん |
周囲には陸っぱりで釣り上げられたのだろう、無数のヒトデがカラカラに乾燥して転がっている。
それを三つ拾ったKOBUさんが一言、
「ホシ、みっつですぅ!!」
と、この港を評価した。
前日、会社の宴会に出席し、血液中にアルコールが残留していたまっちゃんも次第に回復してきたようだ。
集合時間の4時半を回った頃、ゆたか丸の古内船長が到着。
挨拶を済ませ、高まる期待を胸にそそくさと乗船。
釣り座は左舷にまっちゃん、右舷ミヨシがKOBUさんでその隣りに私。
そう、このゆたか丸は仕立船である。つまり私たち三人だけの貸し切りなのだ。しかも、乗船料は二人までが2万円。一人増すごとにプラス2千円(エサ代別)。
本日のお会計、ジャスト2万2千円(どこがジャストだ?)。ああ、なんとリーズナブルな料金設定。
私たちは各自、竿を2本ずつ出し、物量作戦を展開することにした。
今日のメインターゲットはマゴチ。ただですら型を見るのが難しい魚である。竿の本数を増やすに越したことはない(それに私の場合、マゴチ狙いって初めてだしね…)。
午前5時、ベタ凪の沖に向かって、船は粛々と走り始めた。
■ 命の代償
まずは館山港内にあるイケス横に停泊。
ここで本日のエサであるカタクチイワシを積み込むらしい。
エサ屋のおやじさんがイケスに配合飼料「黒潮」(商品名なんてどうでもいいんですが…)を撒き、ボイルしたイワシをタモですくう。
それを船長が受け取り、船内のイケスに移す。
都合、タモ二杯分のカタクチイワシが納品された。
三人で使うには潤沢過ぎるほどのエサ。あり余る資源、あふれるイワシ。それだけで私たちの気持ちはユタカになった…。
まずはその館山真沖からスタート。
ここは以前にKOBUさんが真澄丸のマゴチ釣行で、本命の入れ食いを決めた好ポイントである。
冒頭で紹介した大塚貴汪氏のレポートに載っていたイワシマゴチ仕掛け(もちろん自作)を取り出し、2本の竿に装着。
ハリを下アゴから上アゴにかけて刺し通し、優しく海中へ沈めると約20mほどで着底。
タナは船の揺れでオモリが底に着くか着かないかの位置にしてみる。
開始からしばらく経った頃、私の手持ちの竿先が「ククン、ククン…」とお辞儀をした。
「KOBUさん、見て見て。当たっているよっ!」と突然の魚信に浮かれる私。
「おっ、いきなり来ましたか!?」と隣りでKOBUさん。
私はこのとき、内房はマゴチの魚影がソートー濃いんだと確信した。
テキトーにやっていても間違いなく型が見られるのだと楽観した。
まさかこれが最初で最後のハイライトになるなんてこれっぽっちも思わなかった。
「あれ、マゴチっていつアワセるんだっけ…」
手に伝わる魚信を感じながら基本的な部分が分かっていないことに気付く私。問題意識が低すぎである…。
「そろそろアワセてみっか…」
このなんの根拠もない判断で竿を聞き上げてみた。
「すぽっ…」
イワシを捕捉し、咀嚼途中にあった未知の獲物はエサを放した…。
食事の途中で急に上へと移動をしたイワシに見切りをつけたのだ…。
不信と疑惑と警戒の念を抱いた相手は、二度と食い付こうとはしなかった…。
回収したイワシは、腹部中央部分に大きな裂傷を負っていた。これが致命傷となったのは明白だった。
目は真っ赤に充血し、身体は冷たくなり、息も絶え絶えである。
「重体」「重篤」「瀕死」そんな言葉が脳裏をよぎった。
「おい、しっかりしろ!」私は必死に呼びかけた。だがイワシからの返事はない。
声援も虚しく、蘇生しないまま永眠したイワシ。
私は小さな命と引き換えに大きな教訓を得た。
「マゴチは食い込むまで待て」と…。
■ お約束の展開
それ以降上がった魚といえばKOBUさんの釣ったカサゴのみ…。
私たち3人の緊張感は次第に緩み、置き竿にして様子をうかがうようになる。
アタリが無いからヤルこともなく、缶チューハイを飲んだり、タバコを吸ったり、尻を掻いたりして過ごす私。
「晴天」「ベタ凪」「仕立て」。なんとなく「大人の贅沢な休日」を醸し出す風情だが、別の視点からは「ヒマを持て余した大人の怠惰な休日」とも取れるだろう…。
そんなとき、KOBUさんが先ほど釣ったカサゴを捌き始めた。
新鮮なカサゴを刺身にして食べようということだろう。
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| ▲腸がビローンですぅ |
KOBUさんが持参してきた醤油をたらし、出来上がったカサゴの刺身のお裾分けにあずかる。
身がコリコリとしてほんのりと甘味のあるそれは絶品だった。
私はクーラーから新しいチューハイを取り出し、ヤケクソ気味に呷った…。
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| ▲カサゴの内臓は意外と珍味(ウソです…) |
そのKOBUさんにアタリが訪れた。
ハタから見てもハッキリと分かる明確なシグナル。
これから我慢と忍従の長い時間が始まるのだ。
「あれ、引かなくなっちゃったな…」KOBUさんがボソっと呟いた。
魚が付いているか確かめたいところではあるが、もしも今、食事中であればヘタな動きをした途端、地雷を踏むことになる。
「……………………。」
待ち望み、耐え忍び、夢をあきらめないでいる時間は長く感じた。
だが、KOBUさん本人はさらに永遠にも感じただろう。
船上は張り詰めた緊迫感が支配し、まっちゃん・私・船長全員の視線が釘付けとなった。
「もういいかな…」
いよいよ、一瞬の永遠に終止符の打たれるときが来た。
思いっきり大アワセを決めたKOBUさん。
そして振り上げた竿は根掛かりをしたかのように大きな弧を描いた。
「乗った!!」思わず私は叫んだ。
まっちゃんが駆け寄り、タモを構えて回収のアシストに就く。
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| ▲画的にはまっちゃんが釣ったようですぅ |
ついに、本日船中初の本命が上がった。
わはは爆釣隊最年少でありながら、釣りのセンスはピカイチのKOBUさん。
彼はヤルときはヤル男である。
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| ▲KOBUさんは終始、大活躍でした |
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| ▲寝不足と二日酔いで笑顔に覇気がありません… |
そして、今度は「わはは爆釣隊のイカキラー」と定評のまっちゃんに魚信。
船長が移動を告げる直前、左側の竿先に表れたアタリにリーリングを開始するが、巻き上げの途中で軽くなる。
ところが、本当のマゴチは右側の仕掛けに食っていた。
KOBUさんの差し出すタモには内房からの贈り物、マゴチが収まる。
これで私以外は全員、型を見た。
「タカギさん、頑張って下さいよ」KOBUさんが叱咤激励をする。
「そーだよ、全員が釣れたらマルイカやるんだから!」まっちゃんが私の尻を叩く(もちろん、実際には叩いてませんが…)。
私も起死回生の一尾を手に入れたいところではあるが、泳がせ釣りなので、どう頑張っていいのか分からない。
こうなったら私の代理人(いや「代理魚」か。なんか「代理妻」みたいだな…)カタクチイワシ君の活躍に期待する他はないのだろう…。
ところが、皆さんの応援とは裏腹に、私に訪れたのはアタリではなく、睡魔だった…。
■ 予告焼肉
突如、船長からの指示でマルイカも狙えるポイントに来たことを知る私(それまで寝てました…)。
足元のタルにはKOBUさんお手製の直結マルイカ仕掛けが収まっていた。
そう、ヒマな時間を利用して私のために船上で作成してくれた物である。
私たちは仕掛けをチェンジし、今期好調のマルイカ狙いへと作戦変更。
いわゆる「お土産作り」なのだ。
ところが、いくら叩いて聞き上げようとも一向に乗りは到来しない…。
船長は「今日は潮が動いてないなぁ…」と思わず天を仰いだ…。
それでも、イカ釣りのスキルに長けたまっちゃんが渾身の1杯を上げた…。
あまりの乗りの渋さに船長は再度、マゴチ場へと移動を決意。
後半戦はKOBUさんの独壇場。
ポツポツながら魚信が訪れ、ついに2尾目のコチを手に入れる。
そして午後12時、納竿の合図。
最終釣果。KOBUさん2尾、まっちゃん1尾&マルイカ1杯、私0尾。
わざわざ富浦まで来たのにボウズの私。
それでも案外、気持ちはサバサバとしていた。
初挑戦であるマゴチ、いきなり最初から型を見られるほど簡単な魚ではないと覚悟していた。
それに、前日に私は焼肉用のホットプレートを新調していた。
家内には…、
「明日の晩メシは焼肉にすっかんな!」
と厳命していたのだ。
なんの前触れもなく目の前に置かれたホントプレートを見て、家内はすべてを理解したようだ。
「でも、お刺身じゃないの?」などと不粋なことは訊かない。
「じゃあ、いいお肉を奮発するわ」と笑顔で応じた。彼女も次第に釣り人の妻としての自覚が芽生えてきたのだろう。
「タカギさん、一匹持っていって下さいよ」KOBUさんが憐れな私にコチを差し出した。
「イヤ、いいですよ。今日は焼肉だし…」
「ウチは二人だけだし」お子さんはまだ魚を食べないのだろう。
その夜、熱々の肉を頬張りながら長男が言った。
「父ちゃんが釣りの日って最近、いつも焼肉だよね!?」と。
私は返す言葉が見付からず、家族のために購入したホットプレートを見詰めた。
家内は気まずい雰囲気を感じ取り、「いつもお魚ばかりでしょ…」とフォローした。
「そんなことないよ…」
息子のその一言が心に重く圧し掛かった。
新品のホットプレートから立ち昇るケムリが目にしみて、涙が滲んだような気がした…。
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