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<日 記>
これは釣りを趣味として選び、魚と対峙することを志した者にとって憧れの終結です。
「釣れ過ぎ」という言葉には「豊漁」「爆釣」「満足」「充足」「過分」「安堵」「幸福」「満杯」「氷追加」などの明るいイメージがありますよね。
それに引きかえ、「早揚がり」には「強風」「暴風」「高波」「荒天」「大荒れ」「警報」「危険」「撤収」「無念」「割引券」などの負のイメージが付きまといます。
ところが、このふたつの言葉が合体すると途端に輝かしい語句に化けるのです。
「早揚がり」のマイナス素因が「釣れ過ぎ」というプラス素因と出会うことで、まったく逆の性質に変化し、お互いを高め合う結果となるわけです。
さらに、「早揚がり」には、「予想外に早く帰宅できる」といった付加価値があるのも周知の事実。
クーラーは大量の魚でビッシリ、夕方に帰宅するはずがお昼には家でビールを飲める幸せ、ついでにゴロンと横になって昼寝も出来ちゃう喜び。夢のような一日ではありませんか…。
私はいつかそんなヨロコビに満ちた日が訪れることを願っているのです。わはは。
■ 謙虚な目標
先週に続いて、今週も南房は太海にある聡丸さんでの釣行。
前回は仲間内だけの仕立てであったが、今回はKOBUさんと二人でお邪魔した。
先日の場合、屋形船と化した船上で飲んだり食べたり笑ったりの「3たり」状態。しかし、今回は釣る気満々の戦闘モード。
何故ならそう、クロムツを釣るという一大リベンジがいまだに達成されていないから。
この一年、鴨川市漁業協同組合太海地区におけるクロムツの売上に貢献し続けてきた私たち。
我々のおかげで、同地区におけるクロムツの市場価格が高騰したとの噂もあるほど(まったくのウソです)。
そんな事情から、今日の私の目標は「クロムツ1尾」(って目標、小さすぎますか…)。
中盤から後半にかけてのスルメイカとかオニカサゴは二の次三の次。私はクロムツさえ釣れれば満足なのだ!(かなりキッパリ)
午前1時。迎えに来てくれたKOBUさんの車に乗り込み、いざ決戦の地、太海へ。
アクアラインを170km/h前後の高速で一気に駆け抜け、1時間少々で聡丸の駐車場に到着。
KOBU式法定速度を使えば、南房は鴨居大室あたりと変わらない1時間圏内。
さて、出船時間までだいぶ時間があるので、私たちは岸壁に登って海を眺めたり、フナムシを蹴っ飛ばしたり、HPに書けないような話題で盛り上がったりして時間を潰す。
気象庁は午後から雨が降るとの予報を発表している本日。
夜明け前の空は一面雲に覆われ、猛暑に喘ぎながら釣りをしないで済みそうなウレシイ予感。
午前3時過ぎ、忠夫・聡両船長と新旧両女将さんが到着。
受付けで釣り座を確認すると、私たちは左舷ミヨシ1〜2番目。
「タカギさん、どうぞミヨシへ座って下さい」とKOBUさんがオモテを譲ってくれる。
「ん!?あっそうか!波があるからね…」と私。
「ええ、酔うかも知れないので…」
我々は、磯に打ち寄せる波の状態から、どうも今日は海が悪そうな気がしていた。
早速、乗船して釣りの準備をしていた私。
近くにいた聡船長に思わずこう訊いてみる。
「今日は乗るんですよね!?」
前回、聡船長不在の船に乗った私は、大都会に紛れ込んだ子猫のように怯えていた。
そのときの不安感を思い出し、ついつい確かめてしまったのだ。
「はい、乗りますよ」
「(先週は)投入、大丈夫でした?」と、聡船長。
「お陰さまで問題なく出来ました!」と、私。本当は指で冶具から一本一本ハリを外したことは黙っておいた(ダメじゃん、俺…)。
午前3時半、定刻どおりの出船。
「よおし、今日こそは釣るぜ、クロムツ!」
「毎回、そう思っているけど今回だけは本気(「マジ」と読みましょう)だぜ、クロムツ!」
「竿をガクガクいわせるぜ!ナメンナヨ、太海の海め!」
そう、口には出さず、誓った私。
なんとなく、釣れそうな予感がしていたのだ(って、いつもそう思ってますが…)。
■ ガクる!
航程約40分で釣り場に到着。
程なくして出た忠夫船長からの合図で戦闘が開始。
最大の難関、Fサビキ仕掛けの投入も無事に終わり、サミングしながら着底を待つ。
約90mダチと、前回と同じ浅場からのスタートとなった。
私は、セオリーどおりに2m巻き上げてから誘いを入れる。
出船前、KOBUさんが言っていた、
「今日こそはガクりてぇ〜っ!!」
は嘘偽りのない心の叫び。私も当然、同様の思いである。
一流し目はアタリもなく終了。
最初からアジだのサバだのブルーランナー系が竿を叩いてもおかしくないのだが、今日に限っては魚信ゼロ。
「ありり、もしかして…」
と、弱気になりそうなキモチを奮い立たせ、次投でも前向きに頑張る自分(もちろん缶チューハイは飲んでますが…)。
海面に向けた竿先をゆっくりと聞き上げたその瞬間、
「ガクガクッ!」
唐突に竿先がガクった。
しかし、一年以上クロムツを釣っていない私は、このアタリが本命なのかアジ・サバなのか今イチ自信がない…
数メートルほど手で巻き上げ、電動のスイッチをオン。
「ガクガクッ!」
なおもガクり続けるマイロッド。
隣りにいるKOBUさんが不穏な巻き上げをしている私に気付き、「ガクりました!?」とガクり確認を行う。
断続的に訪れるガクガク感、「もしかして!」と高まる期待感、「でも上げてみたら青物だったりしてね…」という青物感。様々な感情が交錯した…。
仕掛けの幹糸を手繰り、一本ずつハリを回収してみる。
すると海中から1尾の良型が姿を現した。背中の色は見慣れた青ではなかった。
私は不思議にも冷静に、「クロムツっていうけど、実際はこげ茶なんだよね…」と考えていた。
「ああっ、クロムツだ!!」
KOBUさんが私の魚を見て叫んだ。
その13ヶ月ぶりに出会ったクロムツは、丸々と太って旨そうだった。
すかさず聡船長が飛んできて記念撮影。
そして今度はKOBUさんがガクる。
今まで、荒天なるときも、極寒なるときも、酷暑なるときも、貧果なるときもお互いに励まし続けてきた戦友KOBUさん。
Fサビキを下ろすことさえも出来なかった日もあった。その、苦渋に満ちた13ヶ月に終止符を打つときがきたのだ。
「ク、クロムツだ〜ッ!!」
「やった〜ッ!!」
私たちの歓喜の声は早朝の太海の海に響き渡った。
■ 聡船長の腕
船内では他の人たちにもクロムツがヒットしていた。
KOBUさんは、連続でムツを食わせる快進撃。底から3シャクリくらいでヒットするらしい。
ところが、私の場合はそのヒットレンジでアジやサバが掛かってくる。
青物系の私に反して、KOBUさんは一切外道の交じらない黒物のみ。
彼のクーラーの中はクロムツ一色。
片や私はクロ2色の青5色。
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| ▲笑っていますが、このあと笑えない試練が… |
午前5時45分、前半戦が終了。
結局、KOBUさんはクロムツ5尾と大満足な釣果。
「5年分のクロムツを釣っちゃいましたよ!」と最高の笑顔。
「タカギさんはクロムツいくつ?」と聡船長が訊いてきた。
「ふたつ…。あとはアジとサバ…」嬉しいような悲しいような複雑な思いの私。
しばらくして聡船長が私のクーラーにクロムツを2尾入れてくれる。
「家族で1匹ずつ食べて…」
「ありがとうございます!」
「俺、17匹も釣ったよ!」とニカっと笑う聡船長。
「ジュ、ジューシチ!?」私は愕然。
「聡船長、間違いなくみんなの面倒見てましたよね…」KOBUさんが呟いた。
「ええ。なのにそんなに釣ったんだ…」腕の違いをまざまざと見せられた気がした。さすがプロである…。
船はスルメのポイントに移動を始めた。
しかし、私たちにとって今日一日はすでに完了しているも同然だった。
■ 天候急変
第2回戦が始まった。
それと同じくしてポツポツと雨が降り出してきた。予報よりも大分早い。
ところが、今度は風まで吹き始める。
「もう、揚がってもらってもイイんですけどねぇ」そんな冗談を飛ばす私。
「クロムツ、釣れちゃったしね!」KOBUさんも同じ考えのようだ。
しかも、スルメの乗りは前回とまったく違って渋い。
すると突然、忠夫船長からのお知らせが届く。
「勝浦の方では18mの風が吹いています」
「次第に風が強まっていますのでそのつもりでいて下さい」
徐々に、だが確実に雨足と風が強まっていた。
船長の言う、「そのつもり」とはまさに「早揚がり」を指していた。
「他の船も揚がっているそうなので、この流しで終わりにします!」
ついに最後通告が出された。
船中でイカは釣れたのだろうか。
最後と聞くと1杯くらいは欲しいと往生際の悪さをみせる私。
オモリを放り、シャクリ始めたその瞬間。
「はい、巻いて下さい。終わります!!」
あまりにも呆気ない幕切れだった。
しかし、その呆気なさが逆に目の前に迫った危機的な状況を私たちに知らせた。
海況が急変したのだ。
すぐさま港を目指して走り出した船。
ゴム引きのカッパの上から大粒の雨が全身を叩く。その勢いは風によって増幅され、薄着の上半身や太ももに激しく打ちつけた。
「バタバタバタバタバタッ!!」
「痛て痛て痛て痛て痛てッ!!」
「バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタッ!!」
「痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛てッ!!」
雨がこんなにも痛く感じたことは今までなかった。
周りの景色は一面の白。厚く激しい雨のカーテンで閉ざされた自然が嘲笑する排他的な世界。
フードを叩く雨音が鼓膜を揺さぶる。
「バタバタバタバタバタッ!!」
「痛て痛て痛て痛て痛てッ!!」
「バタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタバタッ!!」
「痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛て痛てッ!!」
風雨が弱まる気配は一切ない。
むしろクロムツを釣ったことに対する手厳しい代償の如く強まってきた。
一瞬、「無事に港に着けるのかな」と不安になるが、目の前で舵を握っている海の男に、私は全幅の信頼を置いている。
ようやく、雨に煙る仁右衛門島が見えてきた。
この見慣れた景色がこんなに愛しく感じたことがあっただろうか。
下船完了後、挨拶もそこそこに船を移動させた両船長。
ズブ濡れになって駐車場に向かうと、若い女将さんが割引券とお茶を差し出してくれる。お馴染みの炊き込みご飯は予想外の早揚がりのため、まだ炊けていないのだろう。
KOBUさんと私は、どの車よりも先に駐車場を出た。
午前7時の道は交通量が少なく、数時間前に通った状況と少しも変わっていない。
結局、鶴見の自宅に到着したのは世間の皆様が目覚め始める午前8時30分。
玄関を開けると、家内と子供たちが驚いた顔をしている。
起きてまだ2時間しか経っていない者にしたら釣りをしないで帰ってきたとしか見えないのだろう。
当然、クーラーの中は空っぽと予想したはず。
「途中から風が出てきちゃってさ…」と説明した私。
「そう。じゃあ…」またお土産が無いのという顔をする家内。
「ほれ!」クーラーを開けてみせた。
そこには4尾のクロムツと(2尾は頂き物ですが…)、大きなアジとサバ。
「あら…」家内が嬉しそうに笑った。彼女の好きな青物2種と黒物1種に目が輝いた。
私はその後、道具と身体を洗ってビールを飲み、テレビを見たりといつもと変わらない休日を過ごす。
昼寝に入る布団の中で、今日の釣りを思い出した。
短時間の間に体験したクロムツのガクったアタリ、急変した天気、KOBUさんとの打明け話、どれもが同じ日に起こったことに思えなかった。
「結構、楽しかったよな…」
眠りに落ちる間際、船上で聞いた雨音が、遠くの方から聞こえてきたような気がした。
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