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裏・日本の歴史
「夜這いの民俗学」赤松啓介/明石書店

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 「北国の小都市に引っ越してきた女学生と金物屋の息子。
二人が話をしているところを目撃されたことから騒動が巻き起こり、ついには退学の危機が・・・。
男女の自由恋愛を汚らわしいとする古い因習に立ち向かう若者たちの青春物語」
いきなり渋い話で申し訳ない。昭和22年に発表された小説「青い山脈」のあらすじです。

これを国語の教材で読んだ少女の私は思いました。
「日本の田舎って、50年ほど前まではここまで保守的だったのか!」と。
そういえば「親の決めた顔も知らない相手のところへ嫁いだ」とか、
「男女七歳にして席を同じうせず」とか聞いたことある。
エライ大人が憂えているように日本人の風俗は戦後大きく乱れてしまったのね。
昔の日本(特に田舎)はみな一律に保守的だったのね。
と、素直に信じていました。この「夜這いの民俗学」を読むまでは・・・。

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著者・赤松啓介は昭和10年代に反戦活動と郷土研究をやっていたという曲者。
特高の目を逃れるために行商人となって各村落をまわりフィールド・ワークを行ったワイルド・ガイでございます。
彼の目を通した村人たちの姿は非常に生々しく瑞々しい。

雨の夜、仲間の家に集まって馬鹿話をする若衆たち。
「お前夕べ、ウチのお袋のとこ来てたやろ」「えー知らんでえ」「ウソ言え。で、どうやった?」
「俺の妹がお前に会いたい言うてたで。最近ご無沙汰らしいな」「いやーお前の妹イマイチやしなあ」
「俺今日留守するから、嫁のとこに来てやってよ」「わかった、行くわ」とまあこんな感じ。
そゆことしてると当然父親不明な子が生まれますわよね。
それを「こいつ全然俺に似てないやろ?」と笑いながら育てる夫。
そうして育った子は13歳になると公式に「大人」の仲間入りをしますが、
いまいちモテない子は、しかたなく父親母親が相手をするという。
まあ村ぐるみで入り乱れております。もちろん一定の規律はありますが。

辛い農作業を助け合って行わなくてはならない人々にとって、手軽な娯楽、
共同体としての一体感を高める手段として不可欠なことだったとはいえ、かなりなカルチャー・ショック。
著者の実体験も交えた微にいり細にわたる描写は都合により割愛させていただきますわ。

しかも彼のフィールド・ワークのエリアは兵庫県、今の姫路市〜神戸市あたり。
もろ私の生活圏内なので生々しさはひとしお。
そうかー、ウチのひいおじいちゃんあたりはやってたってことかー。

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こういう事実が歴史の闇に葬られた背景には、明治維新以降の国の政策があります。
もともと神道には性器崇拝の色が濃いらしいのですが
(みうらじゅんの好きな「とんまつり」とか、各地の秘宝館の収蔵物件になごりが)、
対外政策としてそういうのは「なかったこと」にされたという。この辺は他の本で読んだんですが。

夜這いも禁止されまして、表面的には明治以降の日本は「青い山脈」みたいに
清らかな世界だということになったようですが、そういう風習は禁止されてすぐ無くなるもんではないよね。
場所によっては昭和30年代まで残ってたらしい。でも「遅れた地域」と見なされるのを嫌って、
村人自らその事実を隠蔽したりしたのであまり伝わっていないようです。
昔の物書きは基本的に上流階級の人なので、このあたりの記録が少ないのは仕方ない。

が、著者は「柳田國男が悪い」と名指しで批判。
「姫路出身の彼は夜這いの風習を見て育ったはずなのに、官僚だったためにそれらを一切無視した」とのこと。
日本一有名な民俗学者の思想の影響が今日まで続いてるというのですね。
教科書どおりの純潔教育が、一律に根付いていたかのように錯覚させられていると。

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赤松啓介。一度は忘れられて、最近になって再評価された学者。
この文章の初出は1990年代初頭。今もご存命なのかどうかは知りません。

とにかく私はこれに非常な衝撃を受けまして。
「世の中にはまだまだ沢山のウラが隠されてるに違いない」と思うとわくわくするよね。
価値観変わっちゃいました。それまでは素で純情な少女だったのに。

・・・ウソよね〜。純情な女の子が「夜這いの民俗学」なんて本を手に取るわけがない。

 

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