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ペットロスという言葉 |
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最近、雑誌やテレビなどのメディアで「ペットロス」という言葉を耳にすることが多い。日本語に直訳すれば「愛玩動物の喪失」。ペットロスとは「ペットとして飼っていた動物を失う体験の総称」であるが、今の日本では「ペットロスによって引き起こされる人間の症状」を示す言葉として使われていることが多いように感じられる。
個人的には「ペットロス」イコール「ペットが死んでしまい悲しみにくれて普通の生活ができなくなってしまうような状況のこと」と勝手に解釈していたが、これが正しいのかどうかよくわからない。
ではいったい「ペットロス」とは何なのか。調べてみようと思ったが、日本の本屋ではそれをきちんとわかりやすく説明してくれる本を見付けることはできなかった。
横文字の言葉だけが先行して知られているものの、それが示す内容をきちんと説明できる人はほとんどいないという、誠にありがちな新種外来語の輸入パターンといったところである。 |
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欧米では認知度も高い心の問題 |
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しかもこの言葉、実際に新しい言葉であった。ペットの死別の研究は1977年、イギリスの精神医学の雑誌に3例の症例報告として載せられたのが最初なのだという。
その後70年代の終わり頃から英語圏の一部の関係者によってペットロスという言葉が使われるようになり、欧米では80年代に研究が進められた。一般の人にも読みやすいガイドブックが1982年に出版されているし専門書も出ている。獣医師を養成する大学などでは必ず授業の一部として組込まれているテーマであると聞く。
また現在、全米各州には専用のサポート・ホットラインが設置されていて、ペットロス・カウンセラーがその対応にあたっているのだそうだ。ペットを失った人の苦しみを重要な社会問題としてとらえ、それをケアするシステムが確立されているというのは驚きである。
ちなみに日本では、ようやく一部の獣医大がペットロスの講義を授業に採用する動きを見せているという段階である。その背後には、ペットをなくした人の心を救おうという考え方自体がまだまだ社会的に浸透していないという現実がある。 |
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日本に紹介されてまだ数年 |
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ペットロスのケアでは欧米に比べ、10年は遅れている感のある日本で、独自のホットラインを開設しているカウンセラーがいると聞き、さっそく取材のお願いをしてみた。臨床心理士という立場でペットロスの問題にも取り組んでいる、マインドセラピーセンター百合丘の吉田千史先生である。
「ペットロスという言葉が日本に紹介されてまだ数年。一般に使われるようになったのはここ1年くらいのことですね」と先生は言う。1年前、日本の現場ではまだ事例の調査も研究も手つかずであり、ケアのためのサービスもほとんどないような状態にあった。
「だれかがやらなくては、とずっと思ってはいたのですが、いつまで待ってもだれもやらない。それなら『遅ればせながら』自分が」ということで、96年の11月に「ペットロス110番」のホットラインを開設。臨床心理士という忙しい本業のかたわら、全国から寄せられるペットロス相談の電話に答えている。 |
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ペットロスを乗り越えるための相談窓口として |
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吉田先生がホットラインを開設するにあたり書かれた文書を見せていただいた。
「ペットロス110番」の下に「コンパニオンアニマルロス・サポート・ホットライン」という文字がある。「コンパニオン」という英語はもともと「仲間」「友人」「話し相手」といった意味を持つ言葉である。私たちが「コンパニオンアニマル」という言葉を使う時、さらにもっと深いつながりで結ばれた伴侶としての動物、というニュアンスを含んでいるようだ。
そんな特別の愛情を注いでいたペットをロス(喪失)した飼い主の声を聞き、心をサポートする(支える)電話相談のサービスである。
以下に先生の挨拶文を引用させていただく。
『ペットロスとは大切にしていたペット動物を失う体験を言います。それはペットの死別のこともあるし、生き別れのこともあるでしょう。このホットラインは、ペット動物との別れに伴って起こるさまざまな心の問題に対処し、それを乗り越えていくために設置されたものです。動物と深く交流し、動物によって瘉されていた人ほど、それを失った時の悲しみや精神的動揺は大きくなるものです。ペット動物・コンパニオンアニマルの喪失により苦しんでいる方あるいはペットロスについてさらに知りたい方、お電話ください。』
月曜日〜土曜日、午後0時〜午後9時。
TEL 044-966-0445。FAX 044-966-7807 |
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全国から寄せられる心の叫び |
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8か月の間に受け付けた電話の数227件。相談者の住所は東京、大阪、愛知、福岡などの大都市圏を中心に全国各地に広がっている。死別体験者の平均年齢は46.5歳。その94%は女性である。比較的多いのは既婚女性からの相談だ。
「一応、時間は決めているのですがそれを越えてしまうことも少なくありませんし、電話では対処しきれない例で面接をする方もいます」と先生。
ペットを失ってから電話をかけるまでの経過日数で一番多いのは初めの1週間以内だが、中には30年前の経験を胸の内に抱えて悩んでいる人もいるという。事故死では「自分の不注意で死なせてしまった」という自責の念に苦しみ、安楽死の場合には自らの決断を悔やむ人がいる。行方不明による生き別れも、死別とは異なるつらい経験となる。
そして、相談者の多くが「こんなにも悲しみが深いのはおかしいのではないか、自分は異常なのではないか」という不安を抱えて電話をかけてくる。
「いつまでも悲しい気持ちが続いていることをはずかしくて家族に言えない」という中年の男性。「あまりに失ったペットにこだわる自分を他人が変な目で見る」「バカにされそうで、だれにも本当の気持ちを打ち明けられない」といった内容の告白が少なくない。
「でもあまり心配しないでください。家族のように一緒に暮らした動物がいなくなって悲しむのは自然なこと。大事なのはその感情に素直になれること、素直になれる環境があることです」と吉田先生は言う。 |
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悲しみの感情を外に出すことで解決へ |
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ペットとの別れに遭遇した飼い主は嘆き悲しみ、ふさぎ込み、命を救ってあげられなかったという罪責感や、十分にかわいがってあげられなかったという後悔、さらには不安や怒り、見捨てられ感、虚脱感など、さまざまな感情にさいなまされることになる。そうした精神的な変化に加え、疲労、過食や拒食、頭痛、不眠や感覚鈍麻のような身体的な変調を訴える人も多いという。
特に死別の場合、最初は『死』そのものを認められない(信じられない、信じたくない)といった状態にあることが少なくない。そんな相談者には、例えばペットへの手紙を書くなどの方法で気持ちを整理しながら、まず死別の事実を認めてもらう。それから、先に挙げたような、いわゆる私たちが“ペットロス体験”と呼んでいる悲しみの感情を経てペットとの別れを認め、受け入れ、最後にはあきらめの境地に達して回復する。
「愛するものを失って悲しむのは正常な反応です。ペットロスの体験は人間の近親者を失う体験によく似ていて、普通、回復までに3か月から6か月くらいはかかります。それに、ペットを失った悲しみはその直後だけではありません。何週間もたってから湧く悲しみのほうが、しみじみと深いものなのです」と先生。問題はそれを「いつまで悲しんでいるのか」と非難する人が多いことだと指摘する。
日本人は感情を表に出すのが苦手な人種だと言われるが、先生によればペットロスの一番の解決策は感情を涙とともに外に出してしまうこと。通常のペットロスの体験者には「悲しみを押し殺さないように」と指導する。話を聞いてくれる人を見付けて素直な気持ちを話してみる。感情を外に解放することができないと悲しみが内にこもり、いつまでも消えずに残り苦しみ続けることになってしまうのだという。お墓参りやアルバム作り、ペットの絵を描く、手記を作るなどの作業を、供養の気持ちをこめながら無理のない程度にすることもペットロスの対処として有効だ。 |
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ペットロスを救うのは周囲の理解 |
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大学院で心理学を専攻し、現在は臨床心理士として活躍する吉田先生だが、じつは獣医大学出身だ。学生時代に経験した病院実習でペットロスに苦しむ人の存在を知り、さらに大学院生の時、日本人の動物観を調査した際、ペット霊園で悲しみにくれる参拝者を目の当たりにした。その後も自らの心理臨床経験や獣医療の現場からの声を聞くにつけ、ペットロス経験者の心のケアの必要性を痛感。今の研究につながっているのだという。
先生は機会あるごとに「伴侶動物の死に臨むクライエントへの慎重で手厚い配慮を」と獣医療関係者に呼びかける。「直接ペットの死に携わる現場にいる獣医師や動物看護士こそ、ペットロス体験者の心のケアをするのに最も重要な人たちです」と先生。しかし、獣医師も看護士もペットロスに苦しむ経験者を前にして、“どうしていいのかわからないでいる”というのが現状のようだ。
あまりの苦しみに病院の診療を受けたところ、ペットロスが原因であることを述べたら医療関係者に笑われた、という信じがたい実話もある。
感情を素直に出すことが解決への近道だとわかっても、感情に素直になれない環境にある人も多いだろう。普段からペット友達と交流を持ち、同じペットを愛する者という立場から何かと相談できるような関係を作っておくのもいい。ペットが元気なうちに家族で『別れ』について話し合い、いつか来るその時を覚悟しておくという予防策もある。そして、ペットロスに苦しむ人に対しては素直に話のできる相手でありたい。
「いつまでも悲しんでいるとペットが成仏できないわよ」といった日本的な発想による発言は、相手を元気づけるために言ったつもりでも、逆に大きなプレッシャーになってしまうことがあるし、「別のを飼えばいい」といった無神経な言葉で相手を傷つけたりしないように注意したい。自分がペットロスに苦しんでいる時に無理解や偏見にあっても、それを気にしないことだ。 |
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病的な悲嘆の場合は専門家のケアを
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「通常のペットロスによって引き起こされる悲しみなど状態は極めて正常な適応的反応であり、それについて特別心配する必要はありません。悲しみの感情を素直に表現し、死を容認すればやがて回復します」と先生は言うが、ごくまれに例外もある。状態像が病的に悪化する例や、通常の回復の期間を過ぎ、何年たっても苦しみから逃れられない例である。
「実際には全体から見ますと本当に少ないケースなので、あまりここを強調されると困るのですが....」と先生は前置きをする。では、こうした病的なペットロスの場合にはどう対処したらいいのだろうか。答は「専門家のケアを受ける」である。
家族や友達が話を聞いてあげるだけでは解決できないような難しい状況であれば、臨床心理士や精神科医などの中で、ペットロスに詳しいグリーフ(悲嘆)セラピストの援助を求めるという手がある。ただし、現在の日本では相談の窓口は非常に少ない現状であるというのも事実。こうしたメンタルケアのサービスが近い将来にも充実されることを期待したいところである。 |
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ペットロス体験の重症化傾向 |
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また、ここ数年で急に「ペットロス」という言葉がクローズアップされている理由の一つには、その深刻化があると思われる。飼っていたイヌやネコが死んで悲しいと思うという感情は昔からあったはずであるが、その重さがかつてとは比べようもなく大きくなっている。
近年、急激に増えた室内飼いで劇的に近付いたペットと飼い主の距離。家族の人数が少なくなった上に家族間の交流も少なく、ご近所の付き合いもほとんどないような暮らしの中で、人間関係に求めても得られない愛や瘉しをペットに求める傾向は強くなる一方である。
ペットを溺愛する人が、唯一のなぐさめであるペットを失えば、そのストレスも大きい。家族のように愛していたペットを失うことは最愛の家族を失うことに等しい。
「動物は神話の時代から母親のイメージで語られてきていることはご存じですか? 動物はグレート・マザー(太母)であり、原始時代、動物は神でした。そもそも神観念の起こりは動物崇拝から来ているんです。動物なしで宗教は生まれなかった。動物愛の起源も宗教と同じくらい古い。また、ペットを擬人化して子供のようにかわいがり、友達のように固い絆を感じ、さらに無意識のうちに母親のように慕っているような場合、ペットとの別れはその人にとって、子と友と母という3人の重要な愛する対象を一度に失うのと同じような体験に感じられてしまうのです。そうなりますと、喪失による衝撃の大きさや深さは想像以上のものとなります。そのような時には、たかがペットの死ではすまされない。親の死よりもつらいと訴える方が確実におられますが、それはこのような心理と関係があると考えています」と先生は分析する。
「ペットを愛するあまりペットが自分の一部、あるいは全部であるように感じているような場合、ペットの死を自分の死と同一視することで、自らの死のように感じ、それが後追い自殺を考えるような動機になる危険性もあります。ペットと自分の間に適度な距離がとれなくなっているような、いわゆる『べったり』の状態にあることが重いペットロスに陥る原因になっているのです」 |
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今からできるペットロスの予防法 |
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ペットを失えば悲しいのは当然であるが、そこから重いロス症状に陥らないために、ペットが元気なうちからできる予防法がある。
「まず、ペットは自分よりも先に死ぬものだと自覚することです」と吉田先生は言う。いくらイヌネコの寿命が延びたといっても10年生きれば結構な長生きである。人間の寿命に比べれば8分の1の短さだ。
「ですが自分のペットだけはいつまでも死なないような錯覚をしている人がとても多いのです」と先生は指摘する。確かに、ペットが絶対死なない(またはいなくならない)といつも思っているわけではいないが、「死(または別れ)」を間近にある現実として特に意識してはいないという人は多いだろう。大家族時代に比べ、人の死に遭遇することが非常に少なくなっている現在に生きる私たちにとって、「死」は経験的に理解することのできない不思議に遠い現象となってしまっているというのも一因かと思われる。
「大切なのはペットに依存しすぎない関係を保ち、ペット仲間を作っておくこと。ペットロスの正しい知識を持っていることも重いペットロスにならないための予防になるはずです」と先生。
ペットとの別れに際し、その死をありのままに受容するために、常日頃から死別のことをよく考えておくという努力。いざという時に親身になって話を聞いてくれる理解者の存在。その悲しみが正常なものであり、3か月くらいで一段落すること、感情を出すことでやがて回復すると知っていれば安心して悲しみを外に出すこともできる。それがペットロスの深刻化を防ぐことになるのである |
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