こういう言い方は無礼かもしれないが、日本ではかつて左派勢力が、歴史歪曲を行ってきた。正確には今も、だろうが。
そして、21世紀を迎えた現在では、左派勢力も目に見えて衰えてきた。
それ自体は誠に結構なことなのだが、しかし今度は、右派的な虚偽が、目立って来るようになった。「実は、日本は正義だったのだ」という種類の虚偽が。
だから、ここではその虚偽を、批判しておきたい。
なお、注記しておく。
そもそも私は、イデオロギーなんかには興味がない。学術的意味での真実を、求めたいと思っている。
ここで右派的な虚偽を批判するのも、単にそれだけの理由である。それが、確認できる事実と相違する虚偽であるからだ。
それから、2ちゃんねらーの方々は、ここでの記述と類似する書き込みを、ご覧になったことがあるはずだ。
それは、他でもない、この私の書き込みである。これも念のため、申し上げておく。
<1:「正当性」という言葉の意味>
これは、辞書で「正当性」という言葉を引いてもらえれば、手っ取り早いだろう。
だいたい、『法律または社会的通念に照らし合わせて理があると認められる』という意味のことが、そこに記されているはずだ。
「正当性」という言葉とは、そもそもそういう意味である。
ただし、ここではの論点(満洲事変)は、国際問題である。
だから、その正当性を論じる場合には、『国際法または国際的通念に照らし合わせて〜〜』ということになる。
逆に言えば、もしそれが国際法または国際的通念に合致しているのなら、満洲事変は正当だったということになる。
そして、そうでないのなら、正当性はないって事になる。
ところが、以上のことを誤解している方が、ちまたには結構多い。
つまり、「日本の利益になったから、満洲事変は日本にとって正当だった」なんて主張する人が、少なくない。
ただしこれ、単純に「正当性」という言葉の意味を知らないだけの、戯言でしかないのだ。
「日本の利益になったから〜」なんてのは、正当性を主張する論拠には、そもそもなり得ない。
付け加えるに、それは「いかなる悪事・違法行為を働こうと、自分の利益になりさえすればいいのだ」という、幼児レベルの主張である。
私としては、こういうことを耳にするたび、非常に情けない思いである。かくも低レベルの言動を、しかもそれが正しいと信じて行う日本人がいるのか、と。
また、日本の戦争の正当性を否定することを、あたかも日本という国自体の存在を否定することであるかのように、誤解する人もいる。
これまた喜劇的な誤解と言わざるを得ない。そもそもの話、<国そのもの>と<国が行った行動>とは全く別だろう。
いうなれば正当性とは、<国そのものではなく、その行った行動の方>を、前述の通り、<国際法または国際的通念>という限られた観点に照らし合わせて、判断するものである。
すなわち、<国そのもの>については何の判断も下すものではない。
類似の話として、日本の戦争の正当性を否定することを、あたかも過去の日本を<責める>行為であると、誤解する人もいる。
しかし、これまた喜劇的な誤解である。
例えばの話、何らかの相談を受けた弁護士が、法的見地からそれが合法か違法か判断したとする。それ自体は、違法と判断した場合でも、決して<責める>ことにはならないだろう。単に、あくまで主観を廃して客観的に、法という明示的な尺度から、判断を下しただけのことなのだから。
では、過去の日本の正当性についての議論は、どうか?
これも同じである。
それは主観を廃して客観的に、当時の国際法または国際的通念に、当時の日本の行動を照らし合わせてみようというだけのことである。それは決して非難でも、また問責でもあり得ない。
なのだが……
こういったあたりを誤解する人は、どうも少なくないように思う。おそらくは、法に対する知識・理解が未熟であるが故の、誤解だろう。
<2:「他国も侵略はしてるのに、なぜ日本だけが責められるんだ?」という誤解>
上記の通り、ここでいう「正当性」とは、『国際法または国際的通念に照らし合わせて理があると認められる』という意味である。
そして、国際法も国際的通念も、時代とともに変化する。
簡単に言えば、人類の歴史上、長い間、侵略が違法であるとは、規定されてこなかった。
ところが第一次世界大戦後、それは変化する。
具体的には、国際連盟規約や不戦条約により、明確に侵略は禁じられるようになったのである。(中華民国の主権尊重・領土保全については、さらに九カ国条約が加わる)。
そして、そのように世界が変化してしまった後に、日本は満洲事変、およびそれ以降の侵略を行ったわけである。
つまり、日本の戦争の正当性が否定されるのは、単にそれが侵略であるからではない。
侵略を禁止する国際法の成立後に、それを破って行ったから、である。
法的な考え方というのは、そういうものである。
これに対し、欧米諸国も世界各地を植民地としたわけだが、それは国際連盟規約も不戦条約も何もない頃の話である。それを禁ずる法が存在しないなら、それが違法行為であるはずが、そもそも無い。
ただし、それが道義的な善悪ということなら、もちろん、また別の話となるわけだが。
まあとにかく、要は、それだけの違いである。
つまりは時代が変わってしまい、法も変わってしまったって事。だから、それ以前と以後では、同じ行為(侵略)も、違った判定をされてしまうって事である。
これに関連することだが、「欧米が勝手に決めた国際ルールに従えるか!」なんて誤解を叫びたてる人もいる。
どうやら、「日本の意向は完全に無視し、欧米諸国だけで勝手に国際法を作り、日本に対しそれに従えと強制した」ものと、思い違いしているらしいのだが。
しかしだな。
国際連盟規約にしろ不戦条約にしろ九カ国条約にしろ、日本はそれに調印しているのである。もちろん、自発的にね。
そして調印してしまった以上は、当然、遵守する義務がある。それを自分の勝手な都合で破るなんざ、文明国のやることではない。
そして、だから当時の日本も、「自身の行動は正当である、国際法違反はしていない」と、強弁し続けたのである。
<3:「現地住民が自発的に独立した。だから正当だ」という強弁>
満洲事変当時、日本は、「それは現地住民の自発的な独立である」と主張した。だから侵略ではない、ということである。
けれどもこの主張は、リットン調査団が現地を調査して、否定している。
具体的には、以下のような文言がある。(ビジネス社『全文リットン報告書』より抜粋)。
「宣戦を布告することなく、疑いもなくシナの領土である広大な地域が日本軍隊によって強引に押収・占領され、その行動の結果その地域がシナの他の地域から分離され、独立を宣言するに至ったのは事実である」(P307)
「(前略)したがって現在の政権(満洲国)を純粋かつ自発的な独立運動によって出現したものと考えるわけにはいかない」(P240)
「(リットン調査団は)シナ人が絶対多数を占める各省の人民はいまだかつてシナの他の地域から分離するのを欲すると表明したことがないことも明らかにした」(P305)
「われわれ(リットン調査団のこと)は「満洲国政府」は、地方のシナ人からは日本の手先と見られ、シナ人一般に何らの支援を与えるものではない、という結論に達した」(P271)
つまり、
中華民国領である満洲が、日本軍により占領され、満洲国として独立を宣言した。
ただし、現地住民が独立を声明したことはかつて無い。
そして満洲国は、日本人の利益のために、日本人が支配するものである。
と、そういうことになる。
なお、リットン報告書を意図的に曲解し、巧妙な嘘をついて日本を正当化しようという人も、いる。
それは、拙論『東條英機宣誓供述書』でも述べたとおりだ。自説に適合する一部分の事実のみを、巧妙に選択し提示することにより、読むものに錯覚を起こさせようという、詐術である。
もともとリットン調査団報告書は、日本の行動の正当性(および満洲国建国の正当性)は認めていないが、しかし日本の要求をむげに退けるようなことも、していない。
だから、その箇所だけ読めば日本の主張を認めているかのように読むことも出来る文言も、その中には出てくるのである。ただしこれも、あくまで<その箇所だけ読めば>でしかなく、その前後をきちんと読めば、そうではないことは容易に分かる。
しかしながら、「日本は正しかった」と事実をねじ曲げたい人々は、その前後は省いて、単に<その箇所>だけを、提示するのである。これは、巧妙な嘘と言わざるを得ない。
また、リットン調査団報告書中には、日本側の主張をそのまま掲載している箇所が、少なくない。そして、それを利用して虚偽を吹聴することは、容易なことである。
例えばの話、だ。
「日本側の主張では、『満洲国は、現地住民の自発的な独立の結果である』」という文章から、<日本側の主張では>という部分を取り去り、残りの文章のみを「リットン調査団報告書にはこういう文言がある」と抜粋して提示したら、どうなるか?
もちろん、これは意図的に文意をねじ曲げる嘘って事になる。
そして、リットン調査団報告書を利用して「日本は正しかった」と言っている人は、すべてこういう種類のことがらを行っているのである。少なくとも私の見てきた限り、例外はない。
なお、これに関連し、やや高度なテクニックを使う人もいる。
すなわち、全文を掲示はするものの、しかしその一部分だけを殊更に強調することにより、読者に誤った印象を植え付けようというものである。
これには、意図的に文章の一部だけ色を変えるなり太字にするなりして強調し、読者に錯覚をおこさせようとするもの。および、偏向した解説を付記することにより、やはり読者に錯覚を起こさせようとするもの。そういったものがある。
どちらにしても児戯に類するものなのだが、しかしそれに騙される人は後を絶たないようだ。残念なことに。
<4:「中国人は、日本に支配される事を望んでいた。だから正当だ」というトンデモ>
世の中にはいろんなトンデモ説を唱える人がいるもので、「中国人は、日本に支配されることを望んでいた」なんて書き込みを、私は見たことがある。
なんでもその御仁によれば、「日本人は豊かであるから、中国人はそれにあこがれていた」とのことなのだが。
まあ、これは、いうまでもなくトンデモ説には違いない。
そして、例えて言うなら、婦女暴行で逮捕された男が「あれは合意の上だった」と主張するような、卑劣さと情けなさを感じさせる。
それはともかく、ここは少々、まじめに記しておく。この機会に、当時の日本について、少々記しておきたいことがあるからだ。
そもそもの話、その御仁は、当時の日本が貧乏国であることを、見落としている。ま、そもそもそれだけの知識など無かったんだろうけどさ。
つまり、日本が技術大国・経済大国となったのは、敗戦後、経済復興を成し遂げて後のことである。
当時の日本は、欧米諸国と比べたら貧乏国であり、その技術力・科学力も見劣りするものであった。当時の「メイド・イン・ジャパン」は、現在とは違い、粗悪品の代名詞だったのである。誤植ではない。本当に、粗悪品だったのだ。
だから、もし豊かな国に支配されるのを望んでいたのなら、日本ではなく、イギリスやフランスやアメリカなどに支配される方を、望んでいたはずだって事になる。
そしてもうひとつ、植民地支配体制の違いって事も、指摘できる。
つまり欧米諸国の場合、植民地へは支配階級にあたる人間しか、派遣しなかったのだ。(厳密には、プラス将兵って事になるが)。そしてもちろん、それは本物の上流階級であり、本物の金持ちである。
ところが日本の場合は、異なる。つまり、一般の庶民までもが、日本の場合、植民地へと渡っていったのである。日本で食い詰めて、しょうがないので海外に渡ろうと考えた、財産など皆無の貧乏日本人までもが。また、海外に渡って商売しようとした日本人娼婦もいるのである。いや、その是非をどうこう言うつもりはない。歴史上の事実として、とにかくそういう人々が実在したってことである。
厳密には、当時の中華民国は植民地ではない。なのだが、このようなスタイルは、そのまま共通する。つまりは、中国人と同レベル、あるいはそれより下の生活水準の日本人が、当時の中華民国には大勢いたって事なのである。欧米諸国の場合とは違って。
で、だ。
本物の上流階級である欧米諸国の人間を見て、それに憧れを抱くと言うことは、ありえるかもしれない。
しかし、だ。財産など皆無の日本人大陸浪人が、憧れの的になるなど、ありえるだろうか? あるいは、嬌声をあげ商売に精を出す日本人娼婦が? 自分たちよりなお下のレベルの連中に、どうして憧れを抱くのだろうか?
そして金持ちなら、外国人を捜すまでもない。中国人の中にもいるのである。なのにどうして、わざわざ外国人に憧れるのか?
付け加えるに、満洲国では、そういう下の日本人も、支配者然として振る舞った。そしてそれが、日本人に対する反感の一因となった。
おそらくこれは人間の心理だろうが、自分より下の人間に支配されることは我慢しがたかったってことである。
結局、当時の中国人が日本に支配されることを望んでいたなど、ただの戯言でしかないのである。悲しいほどに無知な、当時の実態を全く知らない人間の、戯言なのだ。
なお、これに関連して、日本が行った北支工作に関連しても、同様の主張をする人はいる。
北支工作とは、ここでは簡単な説明にとどめるが、北京のあたりに親日独立政権を作り、中華民国から独立させたものである。
これはもちろん中華民国の主権と領土の侵害であり、侵略と呼ぶべき行為である。そして当時の日本は、さすがに堂々と侵略だったと言うことは出来ず、「現地住民の独立運動だった」といった主張を建前として掲げていた。満洲国を「現地住民の自発的な独立」と主張したのと同様である。
で、当時の日本の主張を真に受け、本当に独立運動があったかのように思っているおめでたい人が、どうも世間には本当にいるらしい。
ただし現実には、独立運動なんか存在していなかった。
そんなものがあったというなら、<いつ、どこで、なんという人物が、どのような独立運動を、なぜ行っていたのか>、きちんと説明していただきたい。
まあ、もちろん、存在していない以上、出来るわけがないのだが。
<5:「中華民国は条約を破っていた。だから日本は正当だ」という無知>
これも2ちゃんねるで見かけたものだが、「当時の中華民国は、条約を破り、日本に損害を与えていた。だから日本はやむなく満洲事変を起こしたのであり、日本の行動は正当だ」という書き込みがあった。
この書き込み、私にしてみれば、いったいどんな条約を破ったのか?というのが、そもそも疑問ではある。厳密に議論しようとするならば、そこも明らかにしなければなるまいが……
しかし、単に日本の行動の正当性についてだけ論じようとするならば、そこまでやる必要はない。
つまり、たとえ中華民国が条約を破り、それにより日本が損害を被ったとしても、その解決は、国際連盟規約および不戦条約の規定から、平和的手段によらなければならないのである。そして、それでなお解決が困難というのなら、国際連盟に対して訴え出なければならない。これは、国際連盟加盟国の義務である。
とにかく、相手が条約を破ったからという理由の武力行使は、国際連盟規約違反・不戦条約違反となり、したがって正当とは認められない。
ここでの話としては、それでお終いである。
そして事実として、満洲事変当時の日本は、そんな主張なんかしていない。「中華民国が条約に違反していたから、日本の武力行使は正当だ」なんて主張はね。そんな国際法無視の主張は、道理の分からない幼児がだだこねてるのと同じだもの。
にもかかわらず、現在の人間が、そういう論拠で過去の日本を正当化することは。それ、当時の人々すら言っていない事柄を、後世の人間が勝手にねつ造していることになる。
つまりは歴史歪曲であり、虚偽なのである。ところが今の日本では、大まじめにそういう主張をする人が少なくない。まことに残念なことなのだが。
<6:「日本は制裁されなかった、だから正当と認められたんだ」>
また、国際関係でいえば、「日本が満洲事変を起こした後、日本は世界から制裁はされなかった。だから満洲事変は正当と認められたんだ」なんて屁理屈も私は見たことがある。
まあ、それは、<正当性>って言葉の意味も知らない御仁の戯言でしかないのだが。
前項でも述べたとおり、ここでいう<正当性>とは、「国際法または国際的通念に照らし合わせて理があると認められる」という意味である。
そして満洲事変に関し日本の主張する正当性は、国際連盟という公式の場で否定されてしまっているわけである。その時点で日本の行動を正当と認める国は、日本以外、ただのひとつもなかった。
では、にもかかわらず、日本に対して制裁しないという諸国の行動は、どういうことになるか?
というと、簡単かつ明白な話でしょ?
それは、違法行為を黙認するという種類の不正な行動だった。そういうことになる。
<7:とりあえず、まとめ>
以上、簡単にまとめると、こういうことになる。
1:ここでいう「正当性」とは、『国際法または国際的通念に照らし合わせて理があると認められる』という意味である。
2:第一次世界大戦以後、国際連盟規約や不戦条約(および九カ国条約)により、明確に侵略は禁じられるようになった。それらには日本も調印している。
3:しかし日本は、満洲事変以降、それらを破り、侵略を行った。故に日本の戦争には、正当性がないと、判断される。
ただし、「侵略ではなく自衛だった」と主張して日本の戦争を正当化しようとする方は、現実におられるわけだ。
そして、それが本当に自衛戦争だったのなら、日本の戦争は正当だったって事になる。国際法でも、自衛戦争は正当な権利として、認められているのだから。
けれども、残念ながらそうとは認められない。これについては、次項で。
| ←7−12:満洲事変(6)−そして日中戦争へ…… |