
『偽満州国論』(武田徹著。中公文庫)
おすすめ度・非常に力の入った思想関連の本。私としては非常に興味深い。
タイトルで損をしている本だと思う。
というのはこれ、実は「偽満州国」の歴史書というわけではない。人工的に作られた国家・満州国を参照しつつ、<国家>というものを考察してみようという内容である。
(ちなみに「偽満州国」というのは、「満州国」の中国側の呼び名。中国は「満州国」を国家として承認しておらず、頭に「偽」をつけて呼んでいる)。
この本は、「はじめに」でその旨を注記した後、いきなり衝撃的な記述にはいる。
甘粕正彦と大杉栄の架空対談である。(ただし引用)。
歴史上の事実では、憲兵だった甘粕正彦は、関東大震災の時、無政府主義者・大杉栄を殺害し、その罪により投獄される。
そしてここで引用される架空対談では、その獄中の甘粕正彦の元、殺害された当人の大杉栄が訪れるのである。
いや、もちろん、ホラーなんかじゃない。そこで展開されるのは、政治・思想談義である。
そして<国家主義者・甘粕正彦と、無政府主義者・大杉栄は、その根底部分は同じなのだ>と話は続いていく。何がどう共通しているというのか、それについては是非、この本を読んで確かめて頂きたいのだが……
私的な感想だが、それを読んで私は思わずうなった。
というのは、このページを読んでいる貴方なら、よくお分かりだろう。この私はかねがね、「右翼も左翼も全く同じだ。上っ面の主張が相違するだけで」と言っている。
それと共通する記述であったからだ。
そしてこの『偽満州国論』は、その後、様々な事柄に触れていく。
新京という都市、満映(満州映画協会。甘粕正彦が勤務した映画会社)、日本語教育(「思想兵器となった日本語」)。
そして「国体論と日本語論」、吉本隆明の「共同幻想論」。
さらには経済についても言及し、最後はスペースインベーダーにまつわる話となっていく。(註:誤記ではない。かつて社会現象にもなった、テレビゲームのスペースインベーダーである。これが実は満州と関連しているという話なのだ)。
このあたり、私に論評は難しい。自分がよく知らないことを、批評は出来ない。
ただ、かなり力を入れて書いた本であると言うことは、伝わってくる。
ああ、そうそう。
先に、甘粕正彦と大杉栄の架空対談を紹介した。その対談の最後、大杉栄は「俺は、二、三十年たつて、も一度君のところに来るよ、左様なら……」と退散していく。(ここは武田徹氏の創作ではなく、引用)。
そしてこの『偽満州国論』の「あとがきにかえて」で、再び甘粕正彦と大杉栄の架空対談が行われる。今回は武田徹氏の創作。その場所は、1995年当時の日本。場所は……まあ、ご自分で読んで確かめて頂きたい。
下世話な話だが、実に惜しいと私は思った。
いやつまりそれ、読者サービスのつもりで入れたのだろう。おそらくは。
サービスのつもりなら、最後にちょこっと入れるのではなく、徹底するべきだと私は思う。各章ごとに、その架空対談を入れるくらいのことをしないと。
そして、そうしていたら……。たぶん、もう少しは話題になり、本も売れていたのでは無かろうか?
(2006年5月3日)
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