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●呉智英(くれ・ともふさ ご・ちえい 両方可)

 言論界のトリックスター。
 ユーモアとエスプリとを散りばめた文章で「民主主義」の一言で思考停止に陥る脆弱な言論空間をこき下ろす筆致は読んでいて愉快。
 ただし、彼の確信犯的トリックスター振りを理解せずに真に受けたりすると、何より呉智英師匠本人に笑われるだろう。
 
 早稲田大学法学部に在学中、学生運動に熱中するあまりに逮捕される。
 弁護士を雇う金がなく(?)仕方がないので自分で自分を弁護、そのあまりに見事な弁舌に「君は弁護士を目指しなさい」と裁判長に言われるが有罪判決が出る。

 出所後、弟子の浅羽通明とは違い司法試験に失敗、二留だが三留だかして結局サラリーマンになる。

 しかし、呉智英師匠はここからがすごい。

 その後、あの貸し出し手続きが複雑で有名な国会図書館に通いつめ、本人曰く「正真証明のインテリゲンチャ」になる。

 そして「封建主義、その情熱と論理(うろ覚え・現「封建主義者かく語りき」)」で論壇デビュー。
 進歩史観に悪の根源として葬り去られた「封建主義」を敢えて持ち出すことで、民主主義それ自体がイデオロギーでしかありえないことを抉り出し、言論空間の自覚を促すというスタンスは現在まで一貫している。

 小林よしのりの初代ブレーンを務めたり、浅羽通明大月隆寛を弟子にもつなどマイスターとしても一流。
 よく「噂の真相」辺りに「新保守評論家の黒幕」と書かれる事が多いがそれほど間違いじゃない。

 ただ、この呉智英、文章にも書いている内容にも洒落っ気がありすぎて(なんせ標榜しているのが「封建主義」なのだ)、イマイチ業界受けがよくない。
 要するに、「評論家の本とか読んでる自分はカッコイイ」とか思ってる頭でっかちな学生などにはあまり受けがよくないのだ、「やり口」があまりにふざけすぎて(下品で)。
 まあ、そういう連中がたどり着くのは最近では決まって宮台真司(読めないくせに柄谷行人とかも)だったりするんだけど。

 呉智英のこういう「変化球しか投げない態度」を、論敵達の多くは「卑怯だ」と罵るが、少なくとも筆者にはこの呉智英の態度は例えば永年中国を「支那」と呼びつづけながら「つくる会」には冷笑的であるというような・・・冷静な「線引き」ではないかと思う。
 少なくとも目の前の事象をイチイチドラマチックに捉え、「物語はいらない、でも・・・」と自分語りしかしようとしない他の論壇人より、呉智英はその認識において一段上に居るのではないだろうか?

 
 そんなこんなでフツーの「評論家」としては今イチメジャーになりきれない呉智英だが、彼のもう一つの顔「マンガ評論家」としての力量は誰もが認める所である。って、いうか「マンガ評論」というものをマトモに始めたのがこの呉智英を始めとする、70年代後半の一部の若手モノ書きたちだった。

 去年発足した「日本マンガ学界(それなりに大掛かりなものだが出版社は今のところ静観)」でも研究スタッフの主力として、破格の待遇を受けている。一番目にし易いのはあの「ダ・ヴィンチ」(大嫌いな雑誌だけど)連載中の「マンガ狂につける薬」だろうが、これは無理に活字の本に結び付けようとしていてとっつきにくいかもしれない。
 オススメなのは90年代半ばからブームが再燃した「マンガ文庫」の終わりについている「解説」。
 これを読むと、一見俗悪なものの代名詞である「マンガ」にもそれなりの文脈や背景があり、何より自分がこのマンガを「面白い」と思うその「面白い」の内容が一体何なのかを自分で考えてみるそのヒントが与えられる。
 「批評」でも「感想」でもない「解説」をあれだけ器用に、そして明晰な文章でこなしてくれる評論家は呉智英以外にはいないのではないだろうか?(文責:善良な市民)

 

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