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富野由悠季「戦争と平和」について





●この本について●

 この本は我等が富野御大将が、主に件の「アフガン戦争」について(論壇回りが垢抜けない社会派サークルがつかう「9.11」という言い方は大嫌いなので使わない)「気鋭の評論家」たちと約十時間も語り通したという「対談本」だ。
 この「気鋭の評論家」というのは本サイトでもお馴染みの大塚英志、その大塚と共に講談社新書(だったかな?)から昨年「教養としてのマンガ・アニメ」を上梓、独自の富野論を展開し「ガンダム以降の富野作品は超越者(ニュータイプとかイデとか)を出して話をまとめようとするところが安易だ」みたいなことを書いていた徳間出身のライター、ササキバラ・ゴウ。そして論壇オタの間ではそれなりに有名な「踊る(左翼社会学者」上野俊哉である(「紅のメタルスーツ」の人、って言えば思い出せるかな・・・?)
 
 そんな全日本に100人くらいは居ると思われるガンオタ兼論壇オタには堪らない布陣で世に放たれたこの「問題作」・・・結論から言うと「あまり話が噛みあっていない」。
 いや、正確に言うと話そのものは噛みあっているのだが、なんとか「反米」「反小泉」の方に話を持っていこうとする3人の「評論家」のみなさんに対して、御大将は「∀」論とか、いつもの富野節全開の文明批評(!!)ばかりをしたがるという「噛みあわない構図」が全体を通じてものすご〜く消化不良な印象を与える一冊になってしまっている。

 だがその反面、アニメ雑誌的(氷川・小牧的)な文脈でしか語られてこなかった御大将の作劇論や「∀」の話が、もう少し裾野の広いところからたっぷりと聞けるので富野ファンなら迷わず「買い」の一手でしょう。正直言って「∀」以降やたらと活字媒体の露出が多くなった御大将のインタビューは微妙に文化人臭くて好きじゃなかったが、これは久しぶりに「買って良かった」と思えた。16、7の頃から御大将のインタビューが載っている雑誌は10年以上前のアニメックまで買い漁っていたバカ野郎が言うのだから少しは信憑性が・・・あるといいなあ(笑)
 ともかく、簡単に概略を記すとこれは「こんな本」である、と。


●上野俊哉について

 内容について具体的に触れる前に上野俊哉について補足説明。
 和光大学(切通理作や「奇生獣」の岩明均が出た大学・・・なので妙に朴訥でひたむきなイメージが)の助教授を(今は)やっているこの人を始めて知ったのは、件の「ジャパニメーション」騒動のころ(「エヴァ」「攻殻」の95年辺り)、これまた伝説の(各地の図書館で盗難が相次いだという)「ユリイカ」(という気持ち悪いインテリ雑誌があるんです)の「ジャパニメーション特集」の号だった。そこで上野俊哉は佐藤健二(「ゴジラとヤマトと僕等の民主主義」の著者で、左翼崩れの作家の革命幻想をあげつらうのが得意・・・な、せいで宮崎信者からは毛虫のように嫌われている評論家)や岡田斗司夫を冒頭から散々罵倒し「アニメ評論なんてやる奴はロクでもない」みたいなことを口走ったあげく「なら俺がうんざりするほど愚直な左翼を演じてやる」と左翼系アニメ評論をやることを(なんだそりゃ、と正直思ったが)声高らかに宣言していたのを覚えている。その後、上野俊哉は押井、富野作品らを扱った「紅のメタルスーツ」や「ニュータイプ」連載の「ガンダムフィックス」のオマケ短文を担当したりしてオタ業界的にも割と見かける存在になった(ああ、この文「辞典」にそのまま使おう・・・)

 で、そこで痛切に思ったのは「ゲ、こいつ真に受けてやがる!」ということだった。あれは確か「ニュータイプ」の連載だったと思うが、「Zガンダム」の話にかこつけてかの有名な元セルビア大統領を「ほとんどジャミトフ・ハイマンみたいなやつ」と罵り、自分たちが「独裁者の暴虐から可哀想な人々を救う」ための運動をしていることを宣伝しちゃったりしていたのが、この社会学者さんだ。個人的に上野俊哉は面白いと思うし、それほど熱心ではないとはいえファンの一人のつもりだったが「これはちょっと見苦しいんじゃないかな」と思わずにはいられなかった。それは当時の「ニュータイプ」でカッコイイ市民運動の宣伝をしてしまうという、まるで「ゼミの飲み会でいきなり天下国家について意見を述べだしたりしちゃうような(=「つくる会的」な)」痛々しさであり、加えて「まるで銀英伝を読んで民主主義って最高とか言っちゃうような」軽薄さであった。今思うと上野は全て確信犯だったのだろうが田舎の高校生はやっぱり「こいつ、真にうけちゃってるなあ・・・」と思ったものだった。

 と、いうことでこの上野俊哉、お陰様ですっかり「辺見庸+サブカルな」イメージが出来上がっていたのだが、どうもそういう「左翼」とはちょっと違うぞ(という話は聞かされていたんだけど)というのを始めて確認した。まずその手の「進歩派」で「ラディカルな」(ようするに左翼だってこと)相変わらず御大将自信が明らかに忘れているような「イノセントとシビリアン」(ザブングル)や「エルガイム」のドラマツルギーなどにイチイチ御大層な意味をつけようとする所はアレだが、それこそ辺見庸チックな「俺は海外の可哀想な人を観てきたんだ」節に嫌悪感を示す左翼活動家とは思えない美意識の発露(失礼!)や、「自分と違う物語で生きてる人がいてもいいと思うべき(当然そこには上野自信は大嫌いと思われる「つくる会」やセルビアの民族主義者も入るのだろう)」なんて発言は6年前に佐藤健二を罵倒していた頃のイメージとは随分違う、正に「∀」的な人のように見える。多分、あの「うんざりするほど典型的な左翼を演ずる用意がある」宣言は「左翼」よりも「演ずる」の方に重点が置かれてたのかなあ、とか今更思ったり。
 

●内容について

 長々と上野俊哉について書いちゃった(なんせ久し振りだったもので)が、やっと内容の話。
 先述したように、この本、仕掛け人と思われる大塚英志が目論んでいた(らしい)「アフガンの戦争って、アメリカも悪いよね」「それに荷担する自民党も悪いよね」「だからみんなもっと日教組教師のアジを真に受けて、選挙で社民党や共産党に投票しようよ」という路線には全く誘導できず(ちなみに大塚英志はこの路線を「プロレス的に」やっていると思われる)、結局、気がつけばいつもの御大将の、

 「バカな奴はいつだっているもん、絶対に」
 「だからなの、庶民、愚民どもにハイテク与えたからって意味ねぇんだからやめればっていうんだけれども」
 「だって、セルの絵の女の子が好きだけれども、三次元の女は嫌いという奴が現に居るんですもん。そういう現実にバーンと突き当たった時に、僕は本当に驚きました。それがリアルか? ほんとにお前等死んじゃえ!」


 ・・・という富野節大爆発だった訳なので、正直安心した(笑)
 もう、あのお調子者の御大将のことですから、すっかりのせられて「アメリカというものにある種の危機感を覚えるっていう感覚がね、それこそグローバルな形で共有されてもいいなって感覚はありますね、特にこの国では」みたいなことを口走ってしまうのではないかと心配していたのだが、杞憂だったようだ。

 が、当の大塚英志はこのことが相当不満だったらしく、あの多弁な男が御大将の相手をほとんど他の二人に任せてしまい、半ばいじけているような印象さえある(ただの編集の都合かもしれないが)

 なんせ角川でハードカバー一冊出してまで(「サブカルチャー反戦論」)「これは戦争ではない」「美名に基いた暴力を許すな」と息巻いていたのにあっさりと、

富野「テロに対しては実力行使で潰すしかありません」

と断言されてしまって果たしてどんな心境だったことやら(全く予想していなかったとは思えないのだが)

お陰でこの本はそんなAERAでSAPIOで23な社会派トークというよりは、

ササキバラ:(略) ギャルゲーの世界とかがそうで、以前はエッチな画面がたくさん出てくるものが流行りだったのが、最近はむしろ純愛ものであるとか、胸がしめつけられるような展開になるものが主流になっているんですよ。
富野:もう勝手にやってくれー
全員:(笑)


 と、いった感じの「富野御大将VS若手評論家の文化座談会」みたいな感じになっている。
 そういった意味ではこの本の「戦争と平和」というタイトルは「看板に偽りアリ」である(まあ、そこまで離れちゃいないんだけど・・・)

 あとせっかくなので具体的な内容についてもう少し。
 ここはこの本の一番の味噌だと思う(致命的なネタバレになる)ので詳しくは書かないが、個人的にはこの前後のやりとりに関連した「黒歴史の年表を思わず作ってしまう連中の感性」に関するやりとりが(特にそれまで大人しかった大塚英志とのやりとりが一番面白かった)。ああ、だから自分はガンオタが嫌いなんだなあ、と改めて思った(笑)

 確かにあのテロとか、アフガンの戦争とか、少し前なら「教科書問題」とかに入れ込んじゃう連中と「痛いガンオタ」のメンタリティはソックリだと思う。ついでに言うと「自分語り」にしか興味がないサブカル系ライターとか大学の哲学・心理学キャラとかも(笑) 宇宙世紀の年表作りは面白いけど、所詮「一生懸命」やってる連中は嫌いだなあ、という印象が前からあったので基本的には痛快な本ではあった、と思う。

 あと余談だが対談中、大塚英志がこの本の巻末に付いている富野御大将の経歴と、社会的な事件をミックスした略年譜をつくるように出入りのライターに命じたら「出来ません」と泣かれたことを嘆いていた。
「これだから若い奴らは」と言いた気だったが、それは明らかにこのライターの責任。
だってあんなもの筆者程度の人間でも10分もあればもっと立派なのが出来ちゃうもの。その程度には「オタク力」があるつもりなんだけどね、「我等の世代」も(笑)

 まだまだ書き足りないことはあるけど長くなりすぎたので今回はこの辺で。
 「ガンダム・パトロール」の話とかもしたかったなあ、と思うけどそういうのは2chのシャア専用板で、ということで(笑)


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