8.甲状腺の病気とは へもどる

 甲状腺疾患は、日常診療で遭遇する機会の多い疾患です。しかし見逃されたりほかの疾患とみなされて長い間誤った治療をされていることも多く、また念頭に浮かんでも、検査の意義が十分理解されていないため、古い検査、無用な検査が選択されたりしている場合があります。
 治療にあたっても、そのコツがいま一つ飲み込めない、今のコンセンサスがわからないという問題があります。例えば、頻度の高い甲状腺疾患であるバセドウ病では、抗甲状腺薬は適量が決まるまで頻回の通院が必要であり、寛解導入までにもっていく最善の方法、中止時期がわかりにくいということがあります。
 一方、めざましく進歩した診断抜術によって、これまで見逃されていた異常が容易に拾い出されるようになりました。画像診断の機器が普及した結果、触診しえない微小な腫瘍もつぎつぎに見出されています。
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*1 甲状腺とは
*2 慢性甲状腺炎(橋本病)
*3 バセドウ病
*4 甲状腺腫瘍
*5 腺腫様甲状腺腫




1.甲状腺とは
 甲状腺は、首の前にある幅約3cmの臓器で甲状腺ホルモンを産生、分泌しています.甲状腺ホルモンは全身の臓器に作用して、主に代謝作用(基礎代謝促進、体温調節、蛋白・糖・脂質・ビタミンなどの代謝)全身的作用(成長の促進)を担っているホルモンであり、人間が生きていくのに必要不可欠なホルモンです.
 甲状腺には主に以下のような病気があります。
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2.慢性甲状腺炎(橋本病)
 慢性甲状腺炎は自己免疫により慢性的に甲状腺に炎症が起こる病気で、別名橋本病といいます.この病気は頻度が高く、成人女性の10人に1人の割合でみられるという報告もあります.男女比は男:女=1:20〜30と圧倒的に女性に多いです.
 慢性的な炎症のため甲状腺は全体的に腫れて、組織の破壊が進むと甲状腺ホルモンの産生が少なくなり、甲状腺機能低下症になる場合があります.
 症状としては明らかなものは乏しいことが多いですが、甲状腺腫に加え、全身倦怠感、浮腫、前頚部不快感、しわがれ声、皮膚乾燥、寒さに弱い、便秘などがあります.いわゆる不定愁訴、更年期障害と間違えられていることもあり、血液中の甲状腺ホルモン値を検査さえすればすぐわかります。

治療は
1) 甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンの不足)がある場合
 甲状腺ホルモン剤(飲み薬)を患者さんの身体に必要な量だけ補います.甲状腺機能低下症になられてから経過が長いと思われる中高年の患者さんの場合、狭心症などの心臓の病気がかくれていることがありますので、少ない量からホルモン剤を開始して徐々に増やしていきます.甲状腺ホルモン剤は御自身の甲状腺から出ているホルモンと全く同じものを科学的に作っていますので、御自身の身体に合った量を飲まれている限り副作用は御心配ありません
 また、海草類の過剰摂取で軽度の機能低下症になることがあり、その場合は海草類を控えていただいて、経過をみることもあります.
2) 機能が正常の場合
 原則的に治療の必要はありません.しかしながら、甲状腺が大きく圧迫症状がある場合や美容上の理由で甲状腺の縮小効果を期待して甲状腺ホルモンを飲んでいただくこともあります.
 また現在甲状腺ホルモンが正常の方でも、将来的にホルモンが不足になることもありますので、定期的に通院していただきます.

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3.バセドウ病
 バセドウ病は自己免疫疾患に属し、からだの中に自分のからだ(臓器)を攻撃する物質(抗体)ができることによって臓器に障害が生じます。
 バセドウ病の場合、抗TSHレセプター抗体という物質が血中に存在し、それが無秩序に甲状腺を刺激することにより甲状腺機能亢進症(からだの中に甲状腺ホルモンがたくさんありすぎる状態)を引き起こします。症状としては、甲状腺の腫れ、動悸、発汗過多、手足のふるえ、全身倦怠感、体重減少、異常な食欲亢進、生理不順などがみられます。

治療は
1)薬物療法(抗甲状腺薬)
 最初は基本的には薬物療法から開始します。薬を内服するだけですので治療は比較的簡単ですが、甲状腺ホルモンが数カ月の間変動しやすいので内服量を調節するのに専門的な知識が必要になります。この病気が再発しないようにするためには2、3年服用し続ける必要があり、中には長期間(10年以上も)治療を続けなければならない場合もあります
 また薬の副作用として肝障害、薬疹、顆粒球(白血球のうちの顆粒球)減少症などがあり、これらの副作用は内服後3か月以内に起こることが多いので、十分に注意していく必要があります。

2)アイソトープ療法(放射性ヨード療法)
 人体に影響のない量の放射線(放射線ヨード)による治療法です。
 身体のなかで甲状腺だけに選択的に放射性ヨードが集まり、徐々に甲状腺の組織を壊していきます。いわば内科的な外科療法というべきものです。実際はカプセルの薬を一回内服するだけで治療が終わります。
 米国では一番よく行われています。中高年の方で、薬が効きにくいとか薬で副作用が出た方が主に対象になります。将来的に甲状腺機能低下症になる可能性があること、治療可能な施設が限られているなどの問題点があります。

3)手術
 若年者、甲状腺がかなり大きい人、長時間定期的に通院が困難な人、薬で治りにくい人、薬で副作用が出た人が手術の対象になります。
 甲状腺機能が亢進している状態で手術をすると、生命に危険を及ぼす状態になることがあるので、まず抗甲状腺薬の服用により甲状腺機能を正常化してから手術を行います。また甲状腺の手術に習熟した外科医による手術が好ましいです。

4)まとめ
 以上の治療のうち抗甲状腺薬による薬物がもっともよく行われています。しかし、これらの治療法にはそれぞれ一長一短があり、患者さんの病態や社会的背景等にあわせて治療を考える必要があります。

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4.甲状腺腫瘍
1)甲状腺腫瘍には、良性と悪性(癌)があります。


甲状腺腫瘍の組織学的分類

氈A良性腫瘍 a. 濾胞腺腫
、悪性腫瘍 a. 乳頭癌
b. 濾胞癌
c. 未分化癌
d. 髄様癌
e. 悪性リンパ腫
2)甲状腺腫瘍の診断は下図のように行われます。
   1. 触診 → 甲状腺エコー → 甲状腺穿刺吸引細胞診
   2. 頚部CT)
   3. 腫瘍 シンチグラフィー(201Tl, 99mTc-MIBI)

3)甲状腺穿刺吸引細胞診は甲状腺の腫瘍が悪性か良性かを診断するのに非常に重要な検査です。この検査には次のような特徴がありあます。
・22〜24Gの針で穿刺をおこなうので患者の負担が少ない
・エコーガイド下-1cm以下の腫瘍性病変の診断も可能
・悪性腫瘍の85%以上を占める乳頭癌の90%以上を診断出来る
・合併症はまれ
・濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別は出来ない

4)甲状腺悪性腫瘍の治療
   a.乳頭癌:原則として、腫瘍側の甲状腺片葉を切除します。10年生存率は90〜93%と予後は良好です。
   b.濾胞癌:基本的には乳頭癌と同様です。癌が進行性の場合では甲状腺全摘術を行います。10年生存率は85%前後と乳頭癌より少し予後が悪いです。
   c.髄様癌:家族性のもの、または他の内分泌腫瘍と合併する疾患では両側性に発生するので、初回から甲状腺全摘術を行い、両側の頚部郭清術を加えます。
   d.未分化癌:残念ながら現在有効な治療法はなく、予後は極めて不良です。
   e.悪性リンパ腫:原則的に手術は行わず、放射線照射、化学療法を行います。

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5.腺腫様甲状腺腫
 甲状腺に腫瘤はあるからといって、すべて癌とは限らず、甲状腺に特徴的な腫瘤を伴う病気として『腺腫様甲状腺腫』があります。
 甲状腺が多発性の非腫瘍性、結節性増殖により腫大している病変です。甲状腺全体がびまん性あるいは多結節状に大きく腫大している場合と、甲状腺のなかに1〜数個の結節あるいは腫瘤を形成している場合があります。
1)診断
・甲状腺エコーにて診断は容易です
悪性腫瘍が合併している症例もあり、疑わしいときは穿刺吸引細胞診が必要です
2)治療
・小さな結節を数個認める程度ならば、エコー、穿刺吸引細胞診で経過観察を行います
・結節が大きい場合は甲状腺ホルモンを内服していただく場合もあります。
・まれに腫瘤から甲状腺ホルモンを分泌している場合や、癌の合併が疑われる場合、美容上手術を希望される場合は手術を行います
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甲状腺には様々な病気がありますので、専門医の診察を受けましょう。

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