インド国民軍 ―もう1つの太平洋戦争―
発行:岩波書店 著者:丸山静雄
1985年9月20日 初版発行 更新 2002年5月9日
太平洋戦争が始まった時、日本軍には(日本の傀儡かはさておき)数多くの同盟軍がいました。
代表的なものをあげれば、中国の汪靖衛軍や満州国軍、タイ軍などがそれにあたります。
これらは、立場的には日本に完全に従属した形ではありましたが、大戦以前から自身の国土を持ち、その政府の意向に従う形で、日本軍に協力しました(少なくとも大戦末期までは)。
しかし、これらの同盟国軍とは違い、他国によって支配されている祖国の奪還を願い、まったくゼロの状態から軍隊を創出し、そして日本軍とともに共闘した人々の軍もありました。
それが、緒戦の南方作戦において得たインド人捕虜達が主力となって組織された、インド国防軍です。
インド国防軍の発端は、開戦直前、東南アジアに存在した反英インド人組織「インド独立同盟」と、インドの英米からの切り崩しをはかるために組織された「藤原機関」――通称F機関が、接触を持ったことから始まります。
英国と戦端を開くに当たり、両者は利害を一致させ、マレー戦においてインド兵の投降の呼びかけを行い、多くの捕虜を得ました。
インド独立同盟は、これらの捕虜にインドの完全なる独立を目指す為の「インド国民軍」への参加を呼びかけ、そしてそれを成功させました。
ここに「日本軍と対等の立場にある」外国軍、インド国民軍が誕生したのです。
しかし、マレー作戦やビルマ作戦が終了すると、日本軍とインド独立同盟との間には、目的の不一致による衝突が始まりました。
あくまで祖国奪還を目指す独立国軍としての立場をとりたいインド国民軍に対して、日本軍にとって彼らの存在は、単なる軍事上のコマの1つに変化していました。
この両者の不協和音は、インド国民軍指揮官のモハンシン少将(元英軍所属インド人大尉)の解任にまで発展しますが、日本が新たにドイツからチャンドラ・ボースを招き、自由インド仮政府(領土はアダマン・ニコバル諸島)の樹立を認めたことで、危機的状況は回復させることが出来ました。
そして1944年、様々な苦心の末、捕虜達から3個師団(!)を設立し、内2個師団を実戦投入可能としたインド国民軍は、ある壮大な作戦へと参加し、祖国への道を切り開こうとしていました。
その名はインパール作戦。牟田口中将の第15軍の指揮下に入った彼らは日本軍と共に密林へと進撃を始め、同時に特務部隊による英軍インド兵の切り崩しを図り始めます。
それが、後に待ち構える悲惨なる退却戦の序曲だとは知らずに……。
本書は、以上のように述べたインド国民軍の設立と、太平洋戦争におけるビルマでの戦い、そして戦後の彼らの運命を追ったものです。
内容的には、彼らの戦歴というよりは、その興亡といった形の構成で、インパール作戦やビルマ作戦において彼らがいかなる戦闘を行ったかについては、あまり詳しく述べられていません。
しかし、祖国奪還というナショナリズムと、日本軍という実質的な「管理者」、その両者の板ばさみとなって苦闘するインド国民軍の姿は、明瞭に描かれています。
それにしても、本書を読むと、異なる文化同士の軍隊の共闘というのが、純軍事的な部分以外においてもいかに難しいかというのがよくわかります。
例えば、インド国民軍にはヒンズー教徒やイスラム教徒だけでなくシーク教徒もいたわけですが、日本軍は髪やヒゲを決して剃らない彼らに散髪をして制帽を被せてしまったり、インパール作戦では日本軍でさえも食糧不足に喘いでいるのに、インド国民軍は米ではなく(彼らの主食)チャパティを作るための米と油を要求したり。
同盟国軍の種類がそれほど多くなかった日本軍でさえ、いろいろと苦労しているのに、実質的な欧州の多国籍軍であるドイツは、どうやってやりくりしていたかのかと思います(笑)。
あと酷いのが、日本のインパール戦後の態度。
インパール戦が惨敗に終わるころになると、もはや日本にとってインド国民軍は興味ある存在ではなくなっており、乱雑な扱いを受けるようになります。
日本軍は、インパール作戦によって13000人から2000人に磨り減った(消耗率60%以上)国民軍をイラワジ会戦に出撃させ、それに敗れた後はラングーンに敗走したインド国民軍を無視する形で撤退し、ラングーンにおける撤退処理をすべて押し付けてしまいますし。
兵器不足に陥った時など、インド国民軍から武器を譲ってもらったりしています。
小国を下に置く大国の態度などどこも似たようなものですが、その大国が日本であり、そして滅びゆく国であったことが、インド国民軍の悲劇と言えるでしょう。
彼らにとっての唯一の救いは、日本の敗戦後、英国主導で行われたインド国民軍の裁判の結果がインド国民の怒りを爆発させ、結果的にそれが独立への起爆剤の1つとなったことでしょうね。
日本の同盟国軍は、ドイツの同盟国軍とは違い何故かあまり取り沙汰されませんが、本書はその一端を窺い知ることが出来る数少ない資料の1つだと思います。
なお、僕がこの本の存在を知ることが出来たのは、MURAJI's Book Pageの管理人である、MURAJI氏の紹介があったからこそです。
氏にはこの「インド国民軍」の他にも多くの貴重な情報・資料を紹介して頂いており、ここに改めて感謝の意を記したいとおもいます。