突撃砲兵
著者:フランツ・クロヴスキー&ゴッドフリート・トルナウ 訳:高橋慶史
発行:大日本絵画
上巻 2002年3月15日 初版発行 更新 2002年3月18日
下巻 2002年12月31日 初版発行 更新 2003年1月23日
(上巻)
最貧のバイブル的な著作である「ラスト・オブ・カンプフグルッペ」の著者、高橋慶史先生が訳を手掛けた、その名の通り、第2次大戦におけるドイツ軍の「突撃砲」の戦歴を扱った本です。
上下巻構成となっており、今回の上巻は、突撃砲の誕生から、フランス戦、バルバロッサ作戦、クリミア戦、スターリングラード戦、クルスク戦までを扱っています。
また、機械的な考察は極力省き、各突撃砲大隊の戦歴のみを丁寧に書き綴るという形となっています。
なお、この本で扱う「突撃砲兵」とは、あくまで歩兵支援を目的としていた「3号突撃砲」であり、実質的な駆逐戦車である「フェルディナント」などは、扱われていません。
まず圧巻なのは、その戦歴の詳細ぶり。
やむをえない場合を除き、ほぼ全ての突撃砲大隊の戦いを、細かく追っています。
そのおかげで、戦場のなまなましさが充分に描写され、突撃砲兵達の栄光と悲劇を見て取ることが出来ます。
高橋先生が訳を手掛ける以前に、数人が訳を挑み、そして投げ出しているのも肯けます(笑)。
また、「ティーガー戦車隊」などの個人的な戦記では余り語られることのない、通信や訓練の事情、指揮車輌の問題、そしてフォン・ディア・ハイデ博士(降下猟兵のフォン・ディア・ハイデ博士と同名)の記録に代表される衛生部隊の戦い振りなども紹介されており、まさに痒いところに手が届く出来栄えです。
もちろん、大隊の総括的な戦歴だけでなく、突撃砲兵達も個人的なエピソードも多いです。
個人的に笑った箇所を羅列すると……
●あしか作戦の準備中、ボートの上に突撃砲を載せるのははっきりいって無謀だった。
●第192突撃砲大隊のある大尉は、師団本部へ戻った際、押し入ったソ連兵数人と鉢合わせするも、煙草を差し出して逃走に成功した。
●ギリシア戦役時、ユーゴスラビア軍が発電所を破壊してしまったために、町の冷蔵所で冷凍してあった約一万羽のニワトリが台無しになる危機に直面し、大隊全員にチキンが振舞われるも会計上非常に困った。
……なんだか、突撃砲とはあまり関係のない記述に興味がいってますね(爆)。
ま、そういった愉快な描写だけでなく、当然、悲惨な描写も存在しています。
特に、スターリングラード戦などは複数の突撃砲大隊が文字通り全滅し、記録がまったくない大隊が多いようです。
また、当初は歩兵支援の兵器であったはずの突撃砲が、じょじょに万能兵器として用いられ始め、戦場の「火消し役」として質的変化を起こしていく様も(明言はされていませんが)読み取ることが出来ます。
そういった見方でいえば、「突撃砲」という兵器は、激烈な対戦車戦闘が序盤から行われた独ソ戦に投入されたからこそ、数々の戦果を上げ、同時に恐竜的進化(退化?)をしていったのかもしれません。
独ソ戦が発生しなければ、純粋な歩兵支援兵器として発達し、ここまで高い評価を得ることはなかったでしょうしね。
さて、下巻はクルスク戦からベルリン戦までという、末期戦そのものの時期を扱うようですので、無茶苦茶たのしみです(笑)。
(下巻)
下巻は突撃砲旅団/大隊1943年の夏季戦〜ベルリン陥落までの戦いを扱っています。
その戦闘行動は、さすがに笑える戦歴があった上巻のころとは全く違い、苛烈そのもの。
部隊によっては、終戦までに3度も壊滅した旅団も存在するほどです。
それにしても、突撃砲旅団がはじき出すキルレシオは特筆に価しますね。
定数どおりの補充など望むべくもない戦力で、1回の交戦で30〜40の敵戦車を屠ることなどざらですし、終戦直前ともいえるベルリン近郊のゼーロウ高地の戦闘でも、ある旅団はわずか1両の損害で36両のソ連戦車を叩きのめしています。
とはいえ、当然というべきか、ノルマンディー上陸後の西部戦線での突撃砲大隊/旅団の活躍は、低調そのもの。
なかには、フランス製の中古戦車など、胡乱な兵器を編成に組み込んで、米英軍に立ち向かわなければならなかった部隊も存在しますし。
まぁ、ドイツ軍の戦車でさえ連合軍の無数のヤーボとM4という、数の暴力によって大損害を受けている戦場ですから、戦車より融通が利かない突撃砲が活躍する余地は、あまりなかったのだと思います。
さらに西部戦線の場合、多くの教導(訓練)部隊が、無理やりに正規の部隊に組み込まれ、45年の段階で、教育用の短砲身突撃砲を用いたり、座学が終了しても車両欠乏の為に実車訓練が施されていない兵士達を引き連れて戦場に出向かなければならなかったりして、かなり悲惨です。
西部戦線でもっとも印象にのこる戦いを行った突撃砲旅団ってのが、第12軍の指揮下でベルリンへ突っ込んでいった突撃砲旅団「シル」だったりするのは、かなり皮肉ですけど(笑)。
あと、やはり突撃砲大隊/旅団は、戦車師団よりは大切にされていなかったらしく、クーアラントやニコポリなどの、生還を期さない橋頭堡の戦場に叩き込まれまくっていますね。
特にクーアラントは、正規の装甲師団が「本当の」東部戦線などに引き抜かれていく中、6度ものソ連軍の攻勢を終戦の日まで凌ぎきった原動力になっているのにもかかわらず、逃げることも突破することも出来ずに最終的にソ連軍の捕虜となっている部隊がほとんどというのは、なんというか、この橋頭堡がまさに「ドイツ軍によるドイツ軍の捕虜収容所」であることがわかります。
上下巻を読んでみての総論ですが、突撃砲部隊に関して調べるならば、この本以上のものはないと思います。
とはいえ、雑多な部隊や後方の様子が語られている上巻ならともかく、ただひたすらに部隊の戦歴が綴られている下巻は、読むのに多少の根気が必要だと思われますけど(苦笑)。