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独りの零課  〜上〜

 

「困るじゃないか半田君!どうなってるのかね!」


香庵理事官の声が無線機を通して車内に響く。

お小言が長くなりそうだと、運転してる車を路肩に寄せる。

恐らくは素喜多課長の「まぁまぁ」というフォローが入っているだろうが、

こちらには聞こえてこない。

 

半田は理事官の無線を聞き流しながら溜息をついて目を閉じる。

どうせお小言しか無線機は伝えてこないだろうから。

 

〜1週間前〜

年末も迫った12月のある日、話は唐突にあった。

 

「半田君、新潟に行ってくれないか?」

 

この課長からの一言だった。話を聞いてみると・・・

 

「つい3日前、新潟県長岡市でキャトルミューティレーション(動物虐待)があった。

当初、犠牲になっていたのは牛のみと思われていたが、同じ手口、

別の場所で3人の人間が殺されていたのがわかった。

そこでだ・・・」

 

話を区切り半田に向かってニヤリと笑うと、

 

「1課に捜査協力の話が来てたのを、Kaji巡査長のことで経験があるから君にと、

ボクがもらってきたよ。

じゃ、新潟県警長岡署にできてる特捜本部に行ってくれない?ヨロシク〜」

 

その数時間後には課長に指示された大型車で長岡に向かっていた。

 

 

現段階でわかっていることは、被害が牛8頭に人間が3人。犯人の足取りはおろか、

被害者が誰なのかすらつかめていなかった。

そのためにヤキモキした零課からは日に数度の連絡が入る。

 

 

「もし?聞いてる?」


課長の声で気がつく。いつの間にか理事官のお小言も終わり課長が話していた。

 

「今、半田クンの乗ってる車、特注品のテスト車だから。

テストの結果が良好ならば、ファミリー化して特科車両係に配備するかもしれないから。

良好な結果、期待してるから。それじゃ〜」

 

そう言い残すと無線は切れていた。半田は再び溜息をついて車を出す。

半田が係長として所属する異星人犯捜査係にいるKaji巡査長。金星からやってきたのだが、

キャトルミューティレーションしてるところに偶然出くわしたので逮捕できた。

まさか、人混みの多い東京駅のスグ近くで、

居酒屋のゴミを狙って集まってきている猫を大量に殺ってるなんて思いもしなかった。


逮捕のついでに恐喝まがいな勧誘で捜査に協力させている。

今回も犯人に偶然出くわすことができるとは限らない。役に立つかどうか。


おまけに課長から渡された車がまさか特科車両係に配備されるとは・・・

脳裏には日がな洗濯物を乾しながら車両の配備を心待ちにしてる和倉警部補が浮かぶ。

彼のアンニュイな日々もこれで終わりになるかな?なんて思いながらハンドルを回し、

車を出す。テスト車だからだろうか、やはりパワーが桁違いの気がする。だが・・・

とりあえずは・・・暖房がもうちょっと効いて欲しいところかな。

雪こそまだ降っていないが、寒さは厳しくなってきている新潟の冬だった。

 

とりあえず再び現場を見に行こうと移動していたところ、

今度は長岡署の特捜本部から無線が入る。


「特捜本部から全捜査員へ。特捜本部に戻るように。緊急事項を伝達する」


用件は無線では話せないと言う。県警側からこちらに対して呼び出すのは初めてだ。

普段は外様ということもあり特捜本部は居心地が悪いので、

ここ数日は事件現場等を見て回っていた。

県警側も半田に対しての扱いをもてあましているようだ。

県警上層部は経験が豊富な警視庁から応援を呼んだのだから捜査に活用させて

早期解決を図りたいようだが、

現場サイドでは現場の意地やプライドがじゃまをしてなかなか合同捜査に動けない。

しかし、上層部からの意向により警部を捜査から外すことは出来ない。

現場でも半田を外すことは得策でないとわかっているようだ。

半田も県警側の気持ちがわかるから申し入れもしない。

やっぱり、この空気は東京と変らない。


「結局はどこも同じ。縄張意識がじゃましてなかなか動けないってか・・・」


つぶやくと急ハンドルで特捜本部に戻る。

 

特捜本部に戻ると野村管理官を筆頭に特捜本部の首脳陣が待機し、

県警本部からも数名来ているようだ。


その無線で話せない内容。確かに気軽に無線で話せることではなかった。

捜査員が全員揃ったところで吉田刑事部長の口から直接、話があった。


「被害者は北の某国からの工作員である可能性が高い」

本部となってる長岡署会議室がどよめきに包まれた。

事件は複雑になってきた。誰が何のために。特捜本部で口々で囁かれている。


半田にはわかっていた。被害者の検死結果を見れば明らかだった。

外傷もなく内蔵が消滅しているように無くなっているなんて。

この犯行が人間ワザでできるようなものではない。

課長はこれが人間の犯行でないから自分を長岡まで飛ばしたんだと。

しかし、特捜本部の結論では「工作員同士の仲間割れによる犯行」の線から

進めることになった。これにより、より政治的な判断が求められることになり、

外務省等、政府への報告が行くことになるだろう。

北の某国はどう出るのだろうか。


工作員の線は県警の公安部が警視庁公安部の指導を受けて進めていくようだ。

特捜本部の人間は牛の殺害方法と人間の殺害方法が「極めて酷似」している点から

殺害現場等を調べることになった。

刑事達のやりきれないつぶやきがあちこちから聞こえてくる。

 

数日後、零課への報告と地下駐車場に足を運ぶ。そして、1Fへと着いた時だった。

異質な雰囲気が辺り一帯を包んだ。気の流れが変ったというのだろうか。

心霊犯係の連中のように上手に説明が出来ない。

彼女たちならばこの雰囲気を上手く言えるのだろと思うと

自分のボキャブラリーの無さを呪うしかない。

ただ一つわかること。それは「この身近に異星人がいる」ことだった。

この事件が起こってる最中に異星人がここにいる。

当然、なんらかの形で事件に関わってる可能性が非常に高い。


足を止め、駐車場に移動するだけの場所で見向きもしなかった1Fを見回す。

会議室のある3Fから部内者用階段を下りて1F、廊下を挟んで交通課。

交通課から歩いて正面入り口前には受付がある。

今まで事件のことばかりで署の中を見ていなかったが、

新潟の1地方署にしては大変な混雑ぶりだった。

半田がこの混雑ぶりを見回しているのに気がついたのだろう。捜査員が近づいて、


「実はこの事件が起きる2日前ですが、行方不明だった女性を10年ぶりに保護したんですよ。

その女性が今日ウチの署に挨拶に来るってことで

こんなに混雑してるんじゃないんですかね?」


あまりにもできすぎていないだろうか?

「かの国に拉致されてたんじゃないの?そっちとの関連って・・・」


「いや〜、それはどうなんですかね。国内で保護したわけですし。もし逃げるとしても、

25歳の女性が大柄な男性3名を相手にあんな残酷な殺し方をして逃げてくるもんですかね」


この男にはどうも先入観が多いのかもしれない。のどかな新潟では良いのかもしれないが、

警視庁捜査1課でこんなことを言っていたならばスグに所轄に飛ばされていただろう。

どうもひっかかる。あまりにもおかしい。悩んでいると入り口が騒がしくなり、

カメラのフラッシュがまぶしく瞬き、報道陣の怒号が聞こえる。

一人の女性が受付を通り中に入ってくる。

半田は見てハッとした。先程からの異質な雰囲気は彼女が中心点のようだ。

何年も前の戸籍だが書類上では彼女は確実に人間として証明されている。

でっちあげの人間ではないようだ。


インヴェイド(乗っ取り)、または女性を殺害してからのメタモルフォーゼ(変身)か。

鋭い視線を彼女に向け考えを巡らせていた。そのうちに彼女は署長と形式的に挨拶をすませ、

マスコミに先導されるまま外に出ようとしていた。その時だった。

瞬間的に彼女はこちらを振り向きニヤリと笑い何か口を開いた。

そして、すぐ前を向きそのまま外に出て行った。

周りはほとんど気がつかなかったようだ、この雰囲気に。あの表情に。

気がついたとしても人混みのせいかと思ってしまっているのかもしれない。

彼女だ、彼女がこの事件の犯人だ。ひらめきだがそう思った。彼女が振り向いて口を開いた。

口は動いているがイメージが頭の中に入ってくるとでも言えばいいのだろうか。

異星人がよく使う手段だ。


「ココデツカマルワケニハイカナイ」


どんな意味だろうか。マスコミが注目してる中で証拠がほとんど無い中では手が出せない。

マスコミがこれほど張り付いていれば彼女も次の犯行を踏みとどまるかもしれない。

そういう淡い期待を抱きつつその場を後にする。まずは零課への報告と指示を請わなければ。

 

半田は駐車場の車両へ向かい、無線機を手に取り慌てて零課へと連絡する。

あいにく零課には課長、理事官は不在で、先任者は榊・吉田の両管理官だった。

手短に報告をすると無線に出た榊管理官から意外な言葉が返ってきた。


「あー、なるほどね。了解、了解。わかったよ。課長は今不在だけれども、


半田君から連絡があったら、犯人はまだ捕まえるなと伝えて欲しいって」

どういうことだろう。これ以上犯行をさせないためにも早期逮捕するべきだと思っていたのに。

しかし、課長も課長で考えがあるのだろう。そういうところは我々には及ばないところだ。

 

「了解。しかし、これがウチの管轄とわかった以上、捜査の主導権はウチの係に・・・」

 

「いや、今回も静かに闇に葬るって。我々が表に出ない解決法を選ぶらしいよ。

それと、増援は無いから、ヨロシク」


そういうと無線が向こう側から切れた。舌打ちを打つと半田も無線機を置く。  



                         


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