あれ?どうして私、ここにいるのかな?

あれれ?私、空飛んでる?えっ?どうして!?どうして!?どうしてなの?

でもなんだろう・・・この感覚、身体が軽くなったみたい。

あぁ・・・眠くなってきた。

なんだかどうでもいい気分・・・・・・・・・

 

 

 

=====警視庁捜査零課事件簿「週末」=====

 

 

「お〜い、こっちのダンボール持ってきて」

先輩のkaji巡査長が僕を呼ぶ。

今日は零課で捜査資料の整理。いろんな資料が出てくる。

我々の所管となる事件が発生するとそこの捜査本部から根こそぎ捜査資料を持ってくる。

 

 

事件を闇から闇へと解決させるためにアシがつきそうになる資料は全部零課で保管してしまう。

そのため大規模な事件が発生し我々に指揮権が移るとなると複数の所轄署はもとより、

本庁の部署、場合によっては警察庁、さらに各省庁等にまで手を広げなければならない。

おまけに僕の所属は異星人犯捜査係。調査や捜査の為に国家公安委員会の管轄以外の、

科学技術庁の宇宙開発事業団あたりには頻繁に足を伸ばさなければならないし、

その他の関係各所にも行かねば仕事は進まないし、

あちこちをたらい回しにされても捜査の協力を求めなければならない。

こうして事件を解決しても表向きは迷宮入りとして処理される。

いったい僕たちの苦労はいつどこで報われるのだろうか・・・

 

『あいたっ!』

後ろから何かで叩かれる。振り向いたら・・・kaji先輩だった。

その手には丸めた書類が。さてはそれで叩いたな。

「ほらー!こっちのダンボール持ってこいって言ったじゃないかー

今日はこの資料全部整理終わるまで俺たち帰れないんだからさ・・・」

先日解決した「はぐれ火星人によるお台場襲撃未遂事件」の捜査資料が

ダンボール詰めされて4トントラックに満載されている。

これを降ろして以後の捜査活動に使えるように整理整頓しておかなければならない。

折りしも今日は金曜日、明日明後日は非番だ。今日中になんとしても片付けなければ、

僕に非番はやってこない。あぁ・・・やはりこの苦労は報われる日は来ないのだろうか・・・。

 

今日の退庁は午前様になりそうだと覚悟を決めて仕事をしたせいだろうか、

逆に整理ははかどって、なんとか終電に滑り込むことができた。

 

駅を降り、コンビニで買い物をする。

今日もコンビニ弁当。肌寒くなったこの季節、おでんなんかも買ったりして。

あー・・・なんかわびしい。激務の零課だけれども仕事以外の充実することって最近ないなー。

と、そんなことをとりとめもなく考えながらも、家が見えてきた時だった。

 

「キャッ、や、やめてください・・・やめてください」

と、少女がいかにもその筋の人に絡まれていた。どうみても顔見知り同士には見えなかった。

捜査零課で仕事をしているせいだろうか、最近はこういうのを見てみぬ振りできなくなってしまった。

たとえこの状況が自分に不利だとしても。

気が付いた時にはおでんと弁当を投げつけ、飛び蹴りを食らわせていた。

しかし、ほぼ綺麗な直線を描いていたおでんと弁当の袋は当たったと思った瞬間、そのまま後ろへと。

今は当たった様にみえたんだけどもなぁ・・・紙一重だった。

跳び蹴りもスッとよけられてしまった。

あぁ・・・全然当たってない。今日はツイてないなぁ。

後は簡単ながらもこの方法だった。

『警察だ、まとめて事情を聞くぞ!』

この一言。大体の奴らはそのまま逃げていく。今回もそうだった。

あー・・・よかった。逆に抵抗されて刃物や銃でも出されたらどうなってただろう・・・僕。

 

『大丈夫?』

絡まれていた少女に聞いた。少女は頷いただけだった。

特に外傷もなさそうだし、これならば特に問題も無いだろう。

『じゃ、気をつけて帰るんだよ。夜だし、物騒だから』

僕は何事も無かったかのようにその場を去ろうとしたときだった。

「あの・・・さっき警察って言いましたよね?」

『へ!?』

「えっと、おにいさん、警察の人ですよね?」

『うん、そうだけど、どうしたの?あの男は?』

「歩いていたら急に・・・」

「心当たりは?」

「心当たりと言われても・・・」

 

そういうとなぜか彼女は一呼吸おいた

 

「信じてもらえないかもしれませんが・・・・・・実は私、記憶が無くて・・・」

 

これはちょっとやっかいなことに巻き込まれてしまった。

見た目じゃ判断できないけど、記憶障害の子だったなんて。

でも、この辺にはそういう精神系の病院は無いし。いったいどこから逃げてきたんだろうか。

こんなに夜遅くまで歩いているということはたぶん病院側もまだこの子を保護できていないのだろうし。

仕方ない・・・駅前まで戻り所轄に対応してもらおうとするかなぁ。

 

『じゃぁ、今日は警察で話でも聞いて・・・』

 

そこまで言いかけた。彼女の態度が一変した。

 

「だめ、警察はダメ。どうしてかわからないけどダメ。連れて行かないで」

 

 

???

どうしたことだろう。僕は警官なのにそれほど反応を示さなかったのに、

警察署に行こうとしたらこれほどまでの拒否反応。彼女はいったいなんなんだろうか。

 

『う〜ん、よわったなぁ・・・』

 

こういうとき女性に対しての免疫がないと腰砕けになってしまう。

毅然とした態度が取れなかった。

 

『あの、彼女さ・・・わかった。警察がダメなのはわかった。連れて行かない。うん、絶対』

 

うん、決して何かやましい心があったわけじゃない、絶対だ。

これは不可抗力なんだ。どうしようもなかったんだ。今の状況の最善策なんだ。

ベストじゃないかもしれないんだけれども、ベターな選択だったんだ。

 

気が付いたときはその場から歩いて2分の僕の家に上げていた。

いや、本当にやましいことはない!

この近所には深夜営業の店も無い。

駅前にあるコンビニだって、最終電車が無くなってしばらくすると閉店してしまう。

とりあえずはゆっくりと事情を聞く場所がほしかっただけだ。

事情聞いて納得してもらって、あとでこっそりと所轄あたりに連絡して迎えに来てもらえば片が付く。

 

『はい。とりあえず、どうぞ』

 

狭い部屋だったが、彼女を上げる前に軽く片付けて家にあげた。

こんなことになるんだったらエロ本にエロDVDに怪しい思想本をしまっておけばよかった。

彼女を座らせてお湯を沸かしインスタントコーヒーを作る。まずは話を聞くことだ。

 

「私は・・・」

 

彼女が語った内容はこういうことだった。

自分がどこの何者かもわからない。なぜここに居るのかもわからない。

いつの間にかこの近辺に居たという。道路にある地図を見ても何も思い出せない。

このあたりには今のところ何か思い出すような手がかりはないようだったが、

 

なにか意味があると思い、この付近を歩いていたという。

いつしか夜になり、この時間になり、からまれてしまったという。

きちんと外用と思われる運動靴を履いていたし、服装も病院服ではない。

だからといって、店で万引きしたような服をすぐに着替えたという印象も薄い。

古着屋から万引きしていたらわからないけど。

厚手のTシャツの上にスタジャンっぽいのを羽織り、下はジーンズにスニーカー。

見た目は確かにちょっと活発そうな感じ。

う〜ん、二十歳?いや、まだ未成年かな?身長は155前後。

髪は茶髪というよりはやや金髪に近い明るい色で肩より5センチ下くらいまで伸びている。

ボーイッシュな感じ。顔もアイドル雑誌に出てきてもおかしくないくらいかわいい。

 

って、何言ってるんだろう。

彼女の状態だが、記憶障害というのを信じるというのであれば生まれてからの記憶がすっぽりと抜けている。

話してわかったが、社会常識等は備わっているようで日常生活に支障はないようだった。

 

『え!?じゃぁ、朝からなにも食べてない?』

 

「はい・・・そういわれてみればそうですね、あんまり気にしてなかった」

 

ずいぶんと素直な少女だった。見た目と随分違って・・・天然?

見た目からだとなんか跳ねっ返りの強そうなちょっと反抗期っぽい子のイメージがするんだけどな。

朝から何も食べてないといわれて、非常食として棚の奥に残しておいたカップラーメンを食べた。

コンビニも既に閉店している時間、贅沢は言ってられない。

僕からしてみればこのカップラーメンもごちそうなんだけどね。

こうなることならばおでんもコンビニ弁当もヤツらに投げつけなければよかった。

後悔先に立たず。今じゃアスファルトが美味しく食べてくれていることだろう。

 

『ふぅ、さてと・・・食事もしたし・・・・・・』

 

トイレに入る振りして立ち上がり、所轄に電話しようとした。でもできなかった。

 

「あの・・・その・・・もしもお邪魔じゃなければここに少し置いてもらえますか?」

 

『はぁ!?』

 

とんでもない申し出だった。彼女として迎え入れるのであればまだしも、

記憶障害のある、推定脱走少女を置いておく訳にはいかなかった。

 

『でも、君の記憶を戻すには病院で治療しないと。先生達もきっと心配している』

 

「どこの病院ですか?私って誰ですか?これから私どうなっちゃうのですか?」

 

泣きこそしなかったものの、ちょっとぐずってしまっている。

これをどうにかして所轄に渡すなんて僕にはできなかった。

異星人相手には強硬な姿勢で臨むことの出来る僕だったけれども、少女相手に大苦戦の最中だった。

 

いや、本当に下心なんて無いんだ!あの、ちょっと、半狂乱まではいかないが、

錯乱してる彼女を今から所轄に渡してヤツらが適当に手近な病院へ丸投げされるなんて。

なんとなく寝覚めが悪い。なにか期待してるわけじゃないし、するわけじゃないんだ!

僕だってこう見えても刑事なんだし。

 

はぁ・・・・・・結局はこうなってしまった・・・・

部屋にある唯一のベッドに彼女を寝かし、僕は寝袋で寝ることにした。

本当は衝立とかでさえぎってあげたかったけどそんな物は僕の家に無く、

壁に釘を打って、ロープを張ってシーツをかけて目隠しでも作ってあげようとしたら、彼女に断られた。

そこまで気を遣わせたくないと。シャワーも貸してあげたけども、

替えの服が無いから申し訳ないけどそのまま同じ服を着て貰うしかなかった。

普段は趣味でカメラをいじっているけども、さすがに彼女がかわいいからと写真を撮る気になれなかった。

 

『じゃ、電気消すね』

結局、ついてたも目隠しもなんにもないまま寝ることにした。

僕は彼女の方を見ないように立ち上がり、部屋の電気を消した。

元々それほど明るい部屋じゃなかったが消すと暗闇が広がる。

部屋が暗くなってしばらくするとすすり泣く声が聞こえた。

彼女だろう。ベッドから窓越しに空を覗くとぼやけた月が見えるはず。

きっと彼女も不安なんだろう。そりゃ、自分が誰かわからないなんて考えられないだろうし。

僕が出来る限りなんとかしたい。今はそう思う。

明日の土曜日から月曜日までは非番。なんとかして彼女が誰だか調べてあげたいな。

非番だけども調べてみよう。

 

 

翌日、僕は彼女を連れて本庁に向かった。

一晩ゆっくりと寝たからだろうか、彼女も夜の時よりも幾分落ち着きを取り戻している様子。

これならば本庁のデータベースへアクセスして、

捜索願が出ている女性や、病院から脱走し行方不明になった女性を捜せばすぐにでもみつかるだろう。

こうやって知り合ったのも何かの縁だ。最後までなにか手助けをしたい。

この提案に彼女も喜んでくれた。

「本当ですか?ありがとうございます」

あー、素直。この素直さだよね・・・。かわいいなぁ、見た目とのギャップがまた。

『そろそろ行こうか』

 

それにしても、あー・・・僕ってなんだオバカだったんだろう。

僕には拒絶反応は示してないけど、警察署には拒否反応示していた。

僕が警察官って不良どもを追っ払った時に言ったからてっきりわかっていてくれてると。

職場に行くと言ってそのまま一緒に来てくれているから、大丈夫かと思ったけども、

やっぱり、彼女は本庁にどうしても入ろうとせず、この付近で待っていると言う。

仕方がない。ムリヤリ連れ込むわけにもいかない。

彼女にはこの辺で時間を潰していてもらい、2時間後この場所で会うことにした。

『じゃ、ちょっと待っていてね、スグ調べてくるから』

入り口でIDを提示する、先程まで目と鼻の先で彼女とのやりとりをみていたからだろう、

「なんだコイツは?」という目で僕を見ていたが、IDを見せると警察官だとわかると敬礼をしてくれた。

警官はIDを確認して僕が零課の人間と認めると態度が豹変した。

「なんだ・・・お宮係だったんですか。どうりでちょっと・・・・・・いや、失礼。」

明らかにこっちに冷ややかな視線を送っていた。僕たち二人をどう見ていたんだろうか。

 

本庁のデータベースを検索したものの彼女に関することと思われる事項は出てこなかった。

病院からの捜索願いや家出少女の捜索の類で彼女に関係することは出されていないみたいだった。

それとも宗教からの脱退者なのか?薬漬けだから記憶に障害とか。

今でこそ、あの宗教やあそこの教団は一時期ほど活発に動いてるわけではないが、

未だに危険をはらんでいる団体だろうし。う〜ん、でも彼女が誰だかわからないんじゃしょうがないなぁ。

公安の人達だったらわかるかな?でも、あの人達暗いからなぁ・・・。

警視庁のデータベースじゃだめだった。僕は警視庁を出て代々木署の零課に向かうことにした。

零課のデータベースからならば、本庁に置いてある情報以外にもなにかわかるかもしれない。

それに零課の端末からこっそりと他部署のネットワークデータベースにこっそりとアクセスもできる。

 

土曜日の午後、電車の中は混雑してない。

地下鉄の移動中、彼女と立っておしゃべりをしていたけれども、彼女から不審そうな箇所はみつからない。

話も今のところ不整合な部分も見あたらない。どうやら本当に記憶障害のようだ。

本当はこうやって自分が何者かっていうこと探しているよりも、

病院でなんらかの処置をして貰った方がいいんじゃないのかな?と思ってしまう。

 

電車の連絡が良かったせいだろうか、20分足らずで初台の駅に到着した。

でも、やけにウチらのこと怪訝そうに見ていた人多かったな・・・

警視庁のデータベースじゃ手配されてるわけでもなかったんだけども。

僕と彼女が釣り合わないからかな?・・・う〜ん、もしやカップルと見ていたのかな。

それならばちょっと納得。

 

 

のんびりと歩きながら代々木署に向かう。うぅ・・・こんなシュチュエーションっていいなぁ。

隣にいる相手が僕の彼女だったらなぁー。

いや、訂正訂正、これだけかわいいんだもん、彼女が僕の彼女だったらなぁー。

・・・・・・・・・いや、くだらない仮定話はやめよう、惨めになるだけだ。

当たり前ながらそんな僕の思いを余所に彼女は顔をキョロキョロと動かして風景を見ていた。

 

今度も無理強いはしない、彼女にはこの辺で待って貰うことにした。

2時間後にここで待ち合わせをして僕は零課に入っていった。

入り口には誰も立ってなかった。これが本庁と所轄の違いかな〜なんて漠然と思う。

土曜日の午後、一般社会ならばのんびりとした時間が流れているころだ。

警察は24時間365日。コンビニエンスな商売とは言え、こういう時もあるよね。

 

『おつかれさまでーす』

代々木署の階段を下り、零課へと顔を出す。

「おーす、あれ?非番だろう?仕事でもしにきたか?」

上司の半田警部が自分の席で必死にパソコンで書類を作っていた。

昨日まで行っていた出張の報告書でも書いていたところだろうか。

『いえ、ちょっと・・・』

「ちょっと、何だ?」

部屋には係長しかいなかったこともあり、ペラペラと昨日の一件を話してしまった。

怒られることはなかったものの係長は明らかに不機嫌そうだった。

「お前の対応が悪い!所轄に渡さないで自分だけで探そうとするその考えが間違いだ」

それから説教が始まってしまった。

「まぁ、渡さないならば渡さないで、身柄はきちんと確保していろ!今だって時間潰しにこの辺を歩いているのはいいが、

道に迷ったり、なにかまた事件に巻き込まれたらどうするんだ?」

『”また?” 係長はなにか事件に巻き込まれて記憶無くしていると?』

「いや、それもわからん。実際にその彼女にあったワケじゃないしな。ただ、記憶無いのにフラついてるってのがなぁ・・・

その記憶がないっての本当かどうかもわからないし。家出少女が嘘ついてるってこともありえるしな。

それよりも、今調べておくから、お前は彼女を放さないでおくんだな」

『放さないでおくって、そんな。彼女とかじゃないんですから』

「そんなんだからダメなんだ、お前は彼女が誰か調べるんだろ?ならばそれまではお前が彼女を守ってやらないと、ほら!」

係長はバインダーで僕の尻を勢いよく叩いて送り出してくれた。

でも、僕もだいぶ妄想しちゃったか・・・深読みしすぎたな。

 

人間そう言う風に言われるとそんな気になってしまうものである。

だんだんと彼女が何かに巻き込まれてしまったのではないかと思ってしまう。

2時間後に約束したもののこうなってくるとそれも破られてしまうのではないかと心配になってきた。

僕は不安で焦りながら必死に彼女を捜し回った。

自分の足を使って探し回った。駐輪場に置いてあったkaji先輩の自転車を使ってだけど。

彼女はこの辺の地理には疎いはず。初台の駅から署までの歩いてきた道のりか駅前くらいだろうとあたりをつける。

それにオペラシティの中に入られると一人で探すのは困難を極めてしまう。迷路のようなあの建物・・・キビシイなぁ。

15分・・・20分・・・30分・・・・・・時間は刻々と過ぎていく。

約束の時間まであと1時間ある。しかし、現れる保証はどこにもないなんて思えてきてしまう。

焦る僕を余所に時間は無情にも止まることはなかった。

そんななか、携帯が鳴った。係長からだった。期待を込めて電話に出る。

「警視庁のデータベース以外で捜索願や病院からの保護依頼ってのは出ていない。本庁のデータも更新されてない。

これから本庁のスパコンに侵入して何かあるか探してみる、そっちは見つかったのか?」

『いえ、まだ見つけていません』

「お前しかわからないんだ、いいか、絶対に探すんだ、わかったな」

電話は一方的に切れた。なんだかんだ言って係長も手伝ってくれている。僕も彼女を捜さないと。

念のためと大回りをして東京オペラシティの回りを走ってみる。

道路の向こう側にはピーポ君のイラストと一緒に『出すなスピード 散らすな青春』の看板が。

あっちは僕たちが間借りしてる代々木署ではなく、新宿署の管轄。

向こうの署の方で作成して置いてあるのだろう。こんな時はあのマスコットの笑顔すらも憎々しい。

 

コンビニ、その上のファミレス。どっちにも居ない・・・いったいどこで時間を潰しているというのだろうか。

 

あの電話からどれくらいたっただろう。着信履歴や時計を見るのももどかしい。

表通りをやめて、裏路地に入る。普段は住宅密集地として人通りもそれほど無いところ。

目を皿のようにして辺りを凝視していたら・・・見つけた!彼女だ!

 

なんてことはない、彼女は署の裏手にある図書館の一階でうろうろしていた。

彼女は僕のことを見つけると駆け寄ってきた。僕の疲れている姿を見て捜していたのを気づいたのだろう。

「どうしたんです?まだ時間には早いですけど・・・わ、私のこと何かわかったんですか?」

上ずった言葉の最後には期待が込められていた。でも、彼女の期待にこたえられなかった。

『いや、そうじゃないんだ。僕の上司も少し手伝ってくれてるけどなかなか見つからない。

ちょっとゆっくりと話そうと思って探しにきたのさ』

僕は努めて言葉を選んで話しかけた。彼女はあっさりとOKしてくれた。

自分の記憶が見つかるまでは不安なんだろう。

僕は係長に電話を入れた。

『係長、彼女と合流しました。これからちょっと食事でもしてきます』

「あ〜・・・・・・そうか。こっちも見つからなくて連絡しようとしたところだ。

俺も彼女と会って話がしたい。一緒に食事でもするか、カレーだが」

 

やっぱり・・・。食事という時点でカレーというのは目に見えていた。

そうなると署から初台の駅に行く途中のカレーハウスと決まっている。

僕は彼女を連れて署に寄ってからカレーハウスに向かうことにした。

彼女もお腹が空いているだろうし、僕も自転車をこいで疲れたし。

 

署の前に着いてしばらくすると係長も署の方から出てあるいてきた。

「うぅー、陽も傾いてきてちょっと風が出てきたな、肌寒いなぁ。

カレーでも食べて暖まるか。」

 

係長は署から出てきて開口一番これだった。係長のカレー好きはそこそこ有名だった。

なにしろ、家の大鍋でカレーを作ったら3,4日はカレーということなのに、

家でカレーを食べてるにもかかわらず出勤しての昼食はカレーハウスのカレー弁当だったり、

事件で零課に詰めている時の夜食どころか朝食すらもカレーなんて日もあった。

さらにはどこで手に入れたんだか、自衛隊や米軍のレーションのカレーを食べてる日もあった。

新潟県警へ捜査協力に行った時も県警側の人間を引かせたに違いない。

係長が異動になっても近くにカレーハウスがないとゴネてしまうんじゃないかと思う時がある。

 

「で・・・彼女は?」

係長が僕を見ながら訪ねた。

『何言ってるんですか、係長、ここにちゃんと居るじゃないですか、ちゃんと彼女を連れてきましたよ』

と、隣にいる彼女と目を合わせて笑った。でも、係長は笑っていなかった。

「お前・・・もしかして・・・・・・・」

係長は険しい顔で僕を見ていた。係長もベタベタなボケをする。

『何言ってるんですか、係長、カレー2人前ごちそうになります』

係長に言うと係長は頭を抱えた。そんなにカレーをおごるのがイヤなのだろうか。

大きなため息をついてゆっくりと口を開いた。

 

 

「・・・・・・・・・・おい・・・カレーハウスは中止だ。瑞希警部を呼んできてくれ、あと管理官も。」

『へ?それって・・・どういうことです?』

「どうやらウチらの出番のようだ。お前にはどんなにかわいい彼女が目に映っていても、俺には見えない。

これがお前のいたずらだというのならば話は別だ。だが、違うんだろ?幽霊か、透明人間か・・・どちらにしろウチらの出番だ」

 

驚きだった。係長は何を言っているんだろうと思った。彼女は僕の目の前にいるじゃないか。

彼女もこのやりとりを聞いて不安の色を隠せないでいる。

自分が事件に巻き込まれているなんてこれっぽっちも考えていなかっただろう。

付け加えれば、係長が瑞希警部を呼ぶように言ったということは心霊関係。

まさか、彼女は幽霊?足だってあるし、こうやって僕の目にはしっかりと見えている。

僕はなにがなんだかわからなくなっていた。

 

いやがる彼女をなんとか説得して零課の中に招き入れた。

「コーヒー3つ。俺はブラックで薄いやつ・・・・・・・いや、俺が作る。彼女を応接室に」

係長は取調室に彼女を通さなかった。犯罪を犯しているとは思っていないのだろう。

 

「私、なにも悪いことしてないのに、どうして?」

彼女が不安そうな表情で僕に聞いてきた。

『僕にもよくわからないんだ、でも、君のことがこれからわかるかもしれない』

僕にはこう言うのが精一杯だった。

 

係長がトレーにコーヒーをのせて持ってきた。

「さて・・・コーヒーでも飲みながらゆっくり話してましょう」

と、言うものの、係長は見当違いの方向を向いている。コーヒーも明らかに違う場所に置いている。

『係長、彼女はこっちに座ってます』

こっそりと耳打ちをする。係長は向きを変える。どうやら本当に彼女のことが見えないらしい。演技とも思えない。

「あぁ、失礼しました。なにしろ彼には見えているようですが、私にはあなたのことが見えないもので。

遅れました、私は警視庁捜査零課異星人犯捜査係係長の半田コージと申します。彼の上司でして」

係長も僕の隣に座りコーヒーを一口飲む。

「コーヒー、暖かいうちにどうぞ。担当の者が来るまでゆっくりとしてましょう。私にもどうしてよいのかわからぬもんで」

僕もコーヒーに手を付ける。彼女もこの場の空気になれてきたのか、コーヒーに手を付ける。

 

「あー、私の目には超能力のようにコーヒーカップが浮かんで見えてます。飲んでます?姿が見えずでコーヒーが減ってる。

なんだか光学迷彩とかそういうの見てるみたいですよ・・・あ、光学迷彩って知ってます?」

係長なりに気の利いたことを言おうとしているのだろうが、あまりにもマズ過ぎる。逆に彼女を不安がらせている。

今までは自分自身も人間と思っていたし、回りにいた僕も人間と思っていた。

今更「あなたは人間ではないかもしれません」なんて真剣に言われてしまった日にはたちの悪い冗談にしか聞こえない。

彼女は動揺してコーヒーを落としてしまった。

 

 

 

コーヒーカップは重力の流れに従って下へと落ちていった・・・・

しかし、地面に落ちるわけでもテーブルに叩き付けられることはなかった。

 

「よっと」

係長がとっさに手を出してコーヒーカップを受け取った。中身のコーヒーもほぼこぼれることなく係長の手に収まっていた。

 

「いっ」

彼女がしゃべって気がついた。係長がとっさに手を出してコーヒーをこぼさずに済んだものの、

その出した手が彼女の腹部あたりを押していたのだった。なんなら殴打してると言ってもよい。

もちろん、触ってる程度なのだが、係長は見えないのだろう、全然それがわからないようだ。

『係長、彼女のこと殴ってます、殴ってます!何してるんですか!』

「え?あ?  あーっ!  す、すいません、すいません」

普段はこんなことはありえないはずの係長が完全にオタオタしている・・・

係長は必死に謝っているが、彼女はそのままうつむいたままだった。

 

「・・・・・・・・・ですね」

『え?』

語尾しか聞き取れなくて僕は彼女にもう一度聞き返した。

「本当に見えないんですね」

彼女は寂しそうに一言だけつぶやいた。

 

これは僕たち二人じゃどうしようもなかった。係長なんかじゃ見えない、聞こえないから論外として、

僕もこんな時彼女にどういう風に声をかけて上げればいいのか見当もつかなかった。












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