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鉄子救出編第三話

Capture the Container





 ラプンツェル第二シークエンス 2分前……

 二機のVTが、ユジャイRB基地に向かって、爆走していた。
「綾女さん、ちょっと待ってくださいよー」
「ぐすぐすしている場合ではないぞ、このままでは、コンテナの中の隊員が酔うてしまう」
「それだけ揺れてたら、多分、一緒だと思いますよー」
 互いにやりとりされる、電波を介した会話は、舌っ足らずな方は勿論、時代がかった方も少女のものだった。
 それも明らかに年端のいかない声。
 操る機体はプロミネンスM1と、イエロージャケット。
 それぞれ、PRFとRBの主力第二世代機である。
「なにを言う、彼らもVTパイロット、これくらいの揺れ、さしとて問題になろうはずがないぞな」
 いきなり矛盾した事を言っているその声に、二人の操る機体の『マニュピレーターにつり下げられたコンテナ』から通信が入る。
「いや……緩衝剤に包まれたコクピットと、つりさげられたコンテナの中を一緒にされても困るんだが……」
 げっそりとした声からは、かなり疲労の色が濃い。
「泣き言を言うな、RED FOX准尉、RAJ軍曹やC.W曹長は元気なのであろ?」
「……いや、どう考えても死にかけてる」
「情けない、もうしばし待て」
「……まあ、待たなきゃならんのは分かってるんだが……突撃の時は言ってくれ、覚悟する」
「ならば、今がその時ぞ。20秒かからん」
「……了解、全員、伏せろっ!」
 最後に、通信していた相手でなく、自分と同じく、コンテナの中で揺さぶられている隊員に号令をかけるのと同時に、ザッ、と短いノイズが入り、通信が途切れる。
「皆さん、大変そうですね」
「仕方ない、こっちもすぐだ、行くぞ!」
「はいー」
 目の前には、半ば、地面に埋まるように作られた、灰色の建造物。
 イエロージャケットが右手に構えた355-sbを発射したかと思うと、壁に空いた穴に、コンテナをたたきつけた。
「綾女さん、乱暴すぎますませんか? こちらまなみ、皆さん、生きてますかー?」
「……何故か生きてる……これより我々は、ラプンツェル、第二シークエンスを発動する」
「了解ー」
「さて、妾たちは逃げさせてもらうぞっ!」
 目の前の建造物の巨大な扉がきしみを上げて開き、自分たちの操る巨人と、同じものが現れるのを横目で確認する。
「はいー」
 そのまま転身、サブカメラを背後に向けて、逃走する。
「それにしても…」
「…?」
「まなみたちの出番ってこれだけなんですね」
「まあ、仕方ない、あとは、かぼちゃの馬車にお任せするぞな」
「それはお話が違いますけれど…」
 ちょっと疲れた声で会話をしながら、二機のVTはその場を去っていった……

 RBサイド ユジャイ前線基地 イエロージャケットコクピット内

「こちらジャガイモ中尉、敵、二機はそのまま反転して逃走、深追いの必要は無いと思われる。侵入したコンテナの確保を頼む。どうぞ」
「本部了解、諸君らはただちに帰還せよ」
「了解」
 言って、ジャガイモ中尉は通信チャンネルをひねる。
「敵に交戦の意図はないらしい。帰る事にしよう。サク軍曹」
「だったらなおさら、ここで仕留めといた方がいいんじゃないか?」
「陽動の可能性もある。それに、コンテナの方も気になる」
「ん……りょーかい」
 その言葉と同時に、再び通信チャンネルをひねる。
「さやか軍曹、帰還だ」
「了解……」
 短いやり取りの後、ファンクションキーで通信をオフにする。
「今回は鉄子曹長の出撃は見送ったが…もしかしたら、失敗したかな…?」

 鉄子サイド ユジャイRB前線基地、地下施設内

「……」
 出撃していくVTを見送る形になった鉄子はあてがわれた自室へと戻る途中だった。
 その時、
『敵、コンテナより侵入者3名、陸戦部隊は第一種戦闘態勢の後、ただちに迎撃の用意、それ以外は、第二種戦闘態勢、各員、火器の携帯を急げ、敵の疑いのある者に対しては発砲を許可する。繰り返す…』
 耳に入るのと同時に、腰の二丁の銃を引き抜く。
 PRF制式採用拳銃、LDSオーガン2061。
 右手の銃の残弾を確認してから、左手の銃の残弾を確認。
 普段は自分の機体に、予備食料などと一緒に入れておいたのだが、今日に限って腰のホルスターに入れていた。
 セフティを外す。
「私はあくまでVTパイロット…命令されていない限り、歩兵の相手をする必要はありませんが…」
 積極的に戦うつもりはないが、少なくとも、ここから自室までの道行きが、普段より危険になった事は確かだ。
 なによりVTパイロットはむしろVTに乗っていないときの方が死亡率が高い。
 待機中の爆撃や戦闘による死亡の方が、作戦行動中の死亡より、圧倒的に多いのだ。
 VTの強靱な装甲と優秀な脱出装置は、ごくごく希なラグや、コネクションエラーと呼ばれる脱出装置の故障以外、作戦中にパイロットの生命を…
「…っ…!?」
 そこまで考えたところで、鉄子は一瞬、めまいを感じた。
(余計なことは考えるな、今は、潜んでいるかも知れない敵に、神経を集中しろ……)
 深呼吸を一つ、周囲を伺いなから、慎重に自分の部屋への道をたどる。
「…………」
 一歩一歩。慎重に踏み出していく。
 あと20メートルで部屋につく、10メートル、5メートル…
 どこからも、銃撃の音は聞こえてこない、時々、陸戦部隊がかけていく足音は聞こえるが、それだけだ。
 とうとう自室のドアまで来て、ようやく鉄子は息をつく。
 左手の銃だけをホルスターに収め、ドアノブを…
「鉄子……少尉?」
「!?」
 アサルトライフルを構えた、3人の男が、鉄子の左手、10メートルの位置にいた。
 本当ならば、確認する間を惜しんでトリガーを引くべきだったのだろう。
 しかし、名前を呼ばれたことから、敵であるとの認識が薄れ、咄嗟に体が動かなかった。
 本当ならば3発は打ち込めたその瞬間に、ようやく一度だけトリガーを引く。
「……っ!」
 屋内での発砲音は想像以上に鼓膜を打ち、壁に穴を穿っただけとはいえ、その場にいた全員の動きを鈍らせた。
 敵の数を確認、装備はPRF標準装備陸戦部隊と同じ物…
 しかし、彼らの身のこなしが、必ずしも陸戦部隊のそれではない事に、彼女は気付いた。
 鉄子が優秀な兵士だから看破できた、という訳ではない。
 両手を比較的大きく取って、武器換装を速やかに行う事を念頭においた、所作。
 気配などに頼らない、視線を集中させる間合いの取り方、
 そして……
 敵を取り囲むように、位置取りする動き。
 これらのコンバットブルーフは、一発の銃弾が生死を分ける、普通の歩兵同士の戦闘では、かえって命取りになりかねない。
 しかし、『一部の特殊な武装』で戦う者たちにとっては、直そうとして直せるものではない、癖だった。
 その特殊な武装とは……
(VTパイロット…?)
 そんな感慨が、もう一瞬、鉄子の動きを鈍らせた。

 PRFサイド ユジャイRB前線基地 地下施設

 その「もう」一瞬が、明暗を分けた
「ラプンツェル、確保っ!」
 使い慣れないアサルトライフルにトリガーに指をかけないまま、目の前の鉄子に突きつけて、C.W曹長の声が快哉を叫ぶ。
 それは敵中にしては、いささか大きなものだったが、わき上がる高揚は押さえようもない。
「こちら、RED FOX准尉、ラプンツェル確保に成功、魔女の婆さんに見つからないうちに、迎えをよこしてくれ」
 通信機に向かって言う、RED FOX准尉の声も明るい。
「よかった…」
 ほっと一息つきながら、RAJ軍曹が周囲を警戒する。
「……っ、さすがにさっきの発砲で気付かれようです、急ぎましょう」
 鉄子の両手の武器を取り上げて、一行は足音の反対側へと進んでいく。
「私など……被検体など捕虜にした所で、あなたたち、PRFの作戦に、利益はありません。ここで、殺しておいて方がいいですよ」
 目の前の鉄子が言う。
 むしろ、親切心から言った。
 自分を盾にした所で、陸戦部隊が攻撃をためらうとは思えない。
 もしかしたら、味方の手にかかるよりは、敵の手にかかって死んだ方が、納得できる……そんな事を考えたのかも知れない。
 それは、彼らの知っている鉄子と重なる所と重ならない所、それぞれを持っていた。
「鉄子少尉、それは違います」
「私の階級は曹長です、誰と間違っているかは知りませんが…」
 落ち着き払った声で言う、、RED FOX准尉に鉄子が少し訝しげに答えた。
「間違えていません。詳細は省きますが……まず、これは、PRFのミッションではありません」
「…? ならば海市島の……」
「それも違います、一応、一部の例外を除き、参加者はPRFの隊員なんですが……」
 少し、考えるそぶりを見せた、RED FOX准尉の言葉を、C.W曹長が引き継いだ。
「我々は、あなたを救出に来たんです」
「……? なにを……」
「侵入者発見、地下、ハンガー側だ!」
 陸戦部隊の声と銃声に、その奇妙なやりとりは引き裂かれた。

 PRFサイド 同時刻 T3フォートレスVT搬送車内

「おっ、ロイ、今回はおまえも出撃か、まあ、よろしく頼むぜ」
「…………」
「よせよ、照れるじゃないか。褒めてもなにもでないぞ」
「…………」
「ま、今回はおまえのプロミネンスM1がポイントマンで、こっちはディサイダーで確実に回収するってのが目的だ、敵に軍師ジャガイモ中尉がいるって情報もあるから、くれぐれも注意しろよ?」
「…………」
 親しげに話す…というか、会話が成り立っているのが不思議なくらい無口な、筋肉の固まりのような肉体の黒人と、その相手をしている日系人を見ながら、その二人と同時に出撃の準備をしていた風音准尉が小首を傾げる。
 微かな齟齬というか、違和感を感じたのだが、その疑問に答えてくれそうな人物が目の前を横切る。
「教官、聞いてよろしいでしょうか?」
「なんだ? 風音准尉」
 先ほど、侵入部隊から受けた連絡を、彼らに伝え、スクールの体育教師のようにハンガーを見回っていた男が振り向く。
「はい、あの、先ほどからHAL-1978准尉が、カニンガム准尉の事を、ロイと呼んでますが…」
 とりあえず感じた違和感はそれだけではないのだが、一番気になったことを聞いてみる。
 答えは言外の違和感に対してのものでもあった。
「ああ、あれはカニンガム准尉の愛称だ…ロイド・A・カニンガム准尉でロイ、男の隊員で呼ぶヤツはほとんどいないがな」
「…何故でありますか?」
 慎重に、聞く。
「神様に親しげにお祈りすると、天国のパーティに呼ばれるってジンクスか゛あるよな?」
「は、はあ…」
「まあ、それと似たようなものだ」
 概ね予想通りの答えと、それとは別に、少しだけ気になったことも聞いてみる。
「そういえば、先ほどの作戦終了後からBirthroil准尉の姿が見えませんが…」
「医務室に向かった…戦闘による不詳ではないそうだが…コクピットに長時間座ってたとかならいいんだが…出撃前に、余計なこと言ってたような気がするな…」
「HAL-1978准尉、大丈夫ですかね…」
「まあ…仲良くやっているみたいだし、問題はないだろう。HAL-1978准尉は両刀だという噂は聞いた事があるが…」
「……」
 聞かなくてもいいというか、いっそ聞かなかった方がいいことを聞いた気がする。
「カニンガムにしても、ミッション前に戦闘要因を壊すようなマネはしないだろう。風音准尉ももうじき出番だ、準備しておけ!」
「はっ!」
 思考を切り替えた瞬間、タイミング良く、出撃命令を伝えるアラームがハンガー内に響いた。

 RBサイド ユジャイ前線基地 イエロージャケットコクピット内

「やはり、陽動でしたか……」
 Uターンして吉へと向かう、イエロージャケットの胎内でジャガイモ中尉が呟く。
 本部からの伝達で、自分たちの帰還ゲートのちょうど反対側から、敵のVT三機が突入したという報告が入ってきた。
「このまま迎撃かい?」
 サク軍曹の声が合わせたままの通信チャンネルから聞こえてくる。
「ええ、日付が変わるまでは、働いて貰いますよ」
「了解。あと20分ぽっち、おまけしてくれてもいいとは思うけど」
「鉄子曹長が人質にとられているそうですから、こちらはパイロット不足なんですよ」
「へえ……」
「とにかく、そういう訳です」
「ん、わかった」
 そのまま通信チャンネルをもう一機に会わせる。
「さやか軍曹、敵の侵入がありました。こちらから中央ハンガーを通って反対かせです。いけますか?」
「問題ありません」
「あと鉄子軍曹が人質に取られています。生死は問わないというのが本部の命令ですが、できれば確保してください」
「……了解」

更新形態変更のため、逐次更新していきます



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