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家の近くに実在するバス停です



星屑の停車場にて  2006.7.21改定





1.永劫回帰


今日の星空はとってもきれいだ
おまえのところも晴れていたら見上げてみろよ
カシオペアやプレアデスが頭上でふるふる震えている
白鳥座の十字架は西の空に沈んで行こうとしている
もうすぐ冬だ。真っ白な雪が、汚いものも優しいものも
みんな埋めてしまうんだ
俺はちっぽけな屑、俺も埋めれや
今日の少女は赤みが少し増したようだ
赤方偏移って奴か?
ピンクのワンピースをまとった少女はどんどん遠ざかっていくのだが
いつかまた帰ってくるんだそうな
そんなことを永遠に繰り返しているうちに
古いモノクロの映画フィルムのように
擦り切れてしまわないだろうかね
宇宙の熱死推進に青春を賭けてきた俺としては
永劫回帰を証明する近年の天文学者の観測結果は不満
よって宇宙はいずれ擦り切れると仮定してみる


2.星屑の停車場


世界の果てへの旅の途上
星屑の停車場で膝を抱え
私はバスを待っています
来るはずのない青いバス
道は草むらの中に消えて
草原は海中に溶け込んで
夜花を照らす星々の灯り

貴女の姿を見失ってから
ずいぶん時が経ちました
遥かな岸辺の波打ち際で
化石している鳥達の飛影

永遠に触れた旅の思い出


3.ファイヤーブレィド


初雪が舞う峠をバイクで飛ばしながら、ぼんやりと過ぎた事柄を反芻していて
一瞬、小さな宇宙が脳の内側で開闢し、危うく谷底に転がり落ちそうになった
どいつもこいつも自分のバイクが路上の王だと信じているが
俺の黒い鉄馬はCBR1000、通称ファイヤーブレードだ
時速300キロに迫る高速で追ってもピンクのワンピースの少女は遠ざかっていく
減速が十分に間に合わなかったコーナーを
身体を倒し、黒いアスファルト面を這うように旋回していく
バトルスーツの膝やステップが火花を放ち
日本刀の刃が放つ閃光で光の道筋が作られた
金魚鉢の中の金魚のような俺の永劫回帰
想像しただけでぞっとして、逆上の果ての神殺しを演じかけたわけだが
むろん神様なんてとっくに死に果てているわけで、刃は空を切り
俺は存在しないも同然の、時空の歪みのような男なので
傍目にはカマイタチが虚空をよぎっただけ
すなわち存在しないも同然の出来事だったりするわけだ
微かな記憶の糸を辿り
藁色の髪のひまわりのような笑顔を、思い浮かべてみようとしても
影絵芝居に灯す光源は見つからず、夜は更けていくわけで
とても、もう一度とは言えない
シジュポスのようにはいかない


4.ゼロの夏


しんしん降り積む雪の夜空に
夏の形見の花火をひとつ
打ち上げてきました
えいえんに失われた
ゼロの夏

送電線をたどって
坂道を登りつめても
遠い記憶の中で微笑んでいる
桜色のワンピースのあなたは
もうどこにもいなくて
誰もいない夜空に灯した光の花束は
誰に届けられることもなく
消えていったのです

さようなら
20世紀


5.さようなら


さようなら
クロンシュタットの同志たち
1921年3月、クロンシュタットの水兵や市民たちが
共産党の専横に抗して自由と民主を訴えた
ロシア革命最大の市民蜂起を知っているかい?
水兵たちが臨時革命委員会を組織すると
パンの配給にも飢え
独裁と抑圧の黒馬を見てきた市民達は
全市を上げて果敢な反乱の火蓋を切った
しかし、刻々と絶望的な様相を見せる戦況の中
トロツキーの軍隊に囲まれた彼らの都市から
世界に発せられた自由市民ラジオのことを知っているかい?
本当の道義を説き、援軍を求める彼らの祈り それは
真っ暗な夜空で燃え尽きた、愛する人々への桜草の花束だった
ここにもピンクのワンピースの少女の姿があったそうだが
彼らを助けられる者は世界中のどこにもいなかった

さようなら
永続革命・世界革命を唱えたトロツキー
義ある者たちを討ち、自身の理念の為に権力の座を得ようとしたが、
1940年8月20日、メキシコにてスターリンの差し向けた暗殺者の手により没
えいえんなんてなかった
彼の瞳の奥にもピンクのワンピースの少女が宿ったことがあるのだろうか

さようなら
今、日本というこの国で、
経済苦を主因とする、毎年3万人を超える自殺者達
どいつもこいつも光の速度で遠ざかるピンクのワンピースの少女を捕まえ損ねた
厳冬の札幌では、万策尽きた失業者が
天使の羽に抱かれる夢を見て死ねたのかどうか
俺は知らない

6.鉈を一本もってこい


風の強い夜だ 星がふるふる震えている
草原の千の舌がざわめき 電信柱をたどっていくと
地平線で、人の形をした巨大な塔が燃えている
おいお前、なたを一本もってこい
明日という名の空ろな祈りを、打ち据えた無の一撃を
なたを一本もってこい


7.消えろ、すべて


俺は宙に浮いている
下水溝を流れていく
紙くずのように風の中に消える
雨がしとしと降れば 電線はしとしとにじみ
死んだ女の声が聞こえる
たくさんの声が雫になって
落ちてくる 木霊する 響き渡る
落ちていく どこまでも どこまでも
無底の闇の奥深くへと

桜色のワンピースの少女が
雲間から日が射さないかと空を見上げている
街区とチェルノブイリの禁止空間を隔てる鉄条網に沿い
妹の影は荒れ果てたモノトーンの映像の中に
桜色の染みのように灯っている
日の影は無い
無造作に野積みにされた放射性物質のドラム缶
滴り落ちる粘液が冬枯れの野を潤し
空のふいごが通ると、ドラム缶の風琴が聖歌の一節を奏で
妹の澄んだやわらかい歌声が重なって、一瞬
天地を繋ぐ壮大なコラールが生まれでようとするが
再び激しい雨が通ると、跡形もなく消え
桜色の染みも消えて、野に影もなく
枯野を激しい雨が叩き
鉄条網を打つ激しい水しぶき
野に影もなく

アスファルトは水を吸わない
水は黒い鏡面の上を流れる
俺は宙に浮いている
或いは下水溝を流れていく

消えろ
すべて


8.放電


星屑の停車場で
あなたに電話してみました
海の声も 風のそよぎも 眠っている
深夜の国道
どこか遠い所で
放電するような音が聞こえています
オヤスミナサイ コノヨル




大雪山の桜草


注 作中で少女が妹に変容するのは、個人的な萌え体質と詩人ゲオルグ・トラークルの「グローデク」へのオマージュが込められていますが(グローデク=第一次世界大戦の激戦地。死んでいった兵士達を宥めるマリアとして、末期の詩「グローデク」には、彼が一線を超えて愛した妹が出てきます。ここグローデクで衛生兵のトラークルは狂死。妹も後を追い自害)、作品として、一言一句無関係です。俺が妹だと言えば、そうか妹なのかと、納得すればいいだけです。笑。要するに、トラークルとは直接の関係は無いのですが、すごい詩人なので、読んでいない人は是非、読んでもらいたいなと。


2006うおのめ夏祭り(第7回うおのめ文学賞・詩部門)エントリー作品です


作 
ダーザイン(武田聡人)   ホームページ「えいえんなんてなかった」へ

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