アムロに託して [原作・監督]富野喜幸 ●宇宙暦0079  人間が文明を得た時から、技術革新に将来の夢を託して進歩してきました。科学技術 によって豊かになった生活を享受することが、進歩そのものだと思うほどです。  その結果、近い将来に資源がなくなるのではないのか、という恐れを抱く時代にまで なってしまいました。これは、絶望観を生み出して、人をして生きること嫌いにもさせ ます。その逆に、投げやりになったり、ひどく楽観的になったりもしましょう。が、ど ちらの考え方も、未来にとってはよいとはいえません。  地球に住みきれなくなった人が、宇宙に人工の島を造って住むだろうという考え方は、 楽観的でしょう。人間の知恵は、もっと現実的な解決方法を考えつくかも知れません。  しかし、ガンダムの物語の世界を、宇宙移民の行われた時代に設定したのには2つの 理由があります。  科学者が可能性があるといった計画を、1つの現実として描いてみて、それが単なる 夢なのかそうでなく現実的な事柄なのかを確かめてみたかったからです。もう1つの理 由は、時代の進歩は、科学技術の進歩であるという、私たちの固定観念を物語の背景と しておいておきたかったからです。  しかし、宇宙に移民できる技術力を得たからといって、人間の本質が変わるものでしょうか?  多少の変化はあると思いますが、歴史をみるまでもなく、人間そのものが変革するこ とはちょっと考えられません。  もし、やさしさだけを残した新人類などが生まれでもしたら、恐らく、植物にでも滅 ぼされてしまうでしょう。  人間は、こんなものだからこそ、面白くもあり、物語もできるのではないでしょうか? この愛すべき人々が、戦うか逃げるしかない状態に投げ込まれたら、一体どうなるのか?  幾つかの青春像をみつめてゆくアムロという少年が、一体、人間の中に、半分以上の 人間が死んでいった異常な世界の中に、なにをみるのか? ”生きるということは何なのか?” それをアムロという少年と共に考え、私たちが迎 えるであろう未来が絶望なのかそうでないのかを探ってゆきたいのです。 ●音楽との出逢い  物語の構想がまとまった時、作曲を渡辺(注:渡辺岳夫)先生にお願いできないものか と考えました。その最大の理由は、単なる飾りもののBGMを欲しくなかったからです。 劇中曲は、0079年を語らなければならないと考えたからです。  この主旨を理解いただいた上で、渡辺先生が作曲を、松山(注:松山祐二)先生が編 曲を快諾して下さった時に、作品の半分ができあがりました。  従来、劇中曲は細分化されて、音楽としての主張が薄くなったりするものでした。そ こで、私たちは、作曲する上で幾つかのテーマを設定しました。  たとえば、アムロに対してのテーマは、1人の少年が戸惑いの中から、戦いの渦中に 投げこまれ、いつしか1人の戦士に育ってゆく流れを描く。  宇宙世紀0079のテーマは宇宙に浮かぶ人工の島の美を讃えつつ、銀河のない宇宙に浮 ぶ脅威。人間の抗争。そして永遠にあるべき母なる大地−−地球を語るものを。  ジオンの世界のテーマは人間の業を象徴する圧迫と、それに対して解放を要求する人々 のうごめきと憧れを語るもの。  このような、音楽としての語り(この2文字傍点)を完成させながらも、劇中での曲 の使い方は、あくまでもBGMとしての役割以上であってはならないのです。  この矛盾する条件をどのように満たしてゆくかで、先生と幾度かの討論を重ねたもの です。殊に、物語がシリアスなため、人のぬくもりを感じさせる音楽でなければならな いという、基本テーマが設定されるに及んで、両先生には、楽器の編成にまで大変なご 苦労をかけてしまいました。  限られた時間の中での仕事、しかも、やや趣を異にした作業に、われわれは一度なら ず不安に駆られたものです。もっとBGMらしく楽に作曲しアレンジすればよかったので はないか、と思ったのです。  しかし宇宙の広大さと、敵の存在という不安、なによりも銀河の中に人がいるという 暖かさの感じられる音楽耳にした時、ガンダムは翔び、アムロたちは戦いへと向かうし かないのだ、と感じたものです。  むろん、創作に完全という言葉もなければ、終りもありません。今や、われわれスタッフ は、アムロたちにひきずられ、宇宙暦0079年から0080年へかけての創作のペンを進めな ければなりません。そのための仕事は、まだ山ほど残っているのです。 ●?????  人類が、おのれの手で、おのれ自身を半身不随にした歴史を背負った時、少しは骨身 にしみて欲しいものだ、という希望をこめてガンダムの物語は進められてゆきます。そ れはまた、青春が持つ希望ともつながるものだと信じるのです。  振りむかなくなったアムロの見る世界が、終局で語られる私たちの未来なのです。そ んなもの、見ることができるわけない、とおっしゃる方もいらしゃるでしょう。 けれど、未来に対して絶望してもよいものでしょうか? という問いかけも含めて、ガンダムの 世界を創造してゆこうと考えているのです。  それは永遠不滅と思える神の世界かも知れません。が、それでは、救いにもなりませ ん。なぜならば、神という存在さえ人間が創り出したものだと思うからです。  では、何か? 未来とは……? それは、アムロと共に、皆さんがご自身の眼で御覧 になっていただく以外に、お伝えする方法はありません。 機動戦士ガンダム オリジナル・サウンドトラック KICA-2001より 初出は1979年か80年発売の同LPと思われ。内容から見て放映中に発売のモヨリ。