角川ゲームコレクションEX 機動戦士ガンダム G-GRAPHIX 0079より 富野由悠季ゲームプレイレビュー オリジナル優先か、 リアリティ優先か ― 実際にゲーム中でザクを動かしていただきましたが、 モビルスーツを操作するという「遊び」に対するご感想は? 富野 まあ、こんなものでしょう、という言い方をとりあ えずはしておきます。機動戦士ガンダムというタイトルが ついているから、画面のイメージやモビルスーツの動きを こうしたのだろうというのもわかります。今回のプレステ 2版のガンダムに関して言うと、ハードの基本性能をクリ アにしているとは口が曲がっても言わないんだけれども・ ・・・・・それはソニーさんに対して失礼だから(笑)。 だけれども、かなり健闘はしている。それにスケジュール のあるところでやっている仕事という観点で言えば、本当 にスタッフの皆さんは頑張ってくれたと言えるし、本当に お疲れ様でしたと言いたい。この手のシューティングゲー ムとしても、こんな感じなのかなという気もしてます。自 分自身ではゲームはやらない僕が、こんな感じと言っちゃ うのは、アーケードゲームを若い人たちがやっているのを 見ていたからなんです。そういうものと比較したときに、 家庭用ゲームでも、数年前のアーケードゲームに近い表現 ができているじゃないか、と思えるということです。だか らユーザーの方には申し訳ないんだけれども、このゲーム をやるときはちょっと大きな画面でやった方がいいんじゃ ないのかなと思います。  ただ以前から気になっていたんだけれども、ガンダムに しろザクにしろ、二十年前のデザインのものをそのまま再 現していいのか、デザイン的な疑問というのがあるんです。 デザインの疑問について僕の立場で言うと、ゲーム用にき ちんと改善して欲しいなと思うんです。これは今回のもの だけでなくて、ずっと感じていることです。むしろ今回の ように自分の扱っている機体がどういう風に攻撃している のかということのディテールが、かなり見えるようになっ てきたときに、やはりこのゲームに合ったモビルスーツの デザインではないと思える部分があるんです。つまり、動 きを表現できるデザインになっていない。そういう部分は、 本来、きちんと改善した方が、気持ちが良いゲームができ るんじゃないかなと思ってます。  いちばんわかりやすいところで言うと、ライフルを正面 に向かって撃つというシーンがあります。ゲーム中のター ゲットとライフルの射線が合うわけです。その射線とター ゲットがキチっと見える瞬間が、プレイをしてみるとそれ ほどない。プレイヤー側として見て思うのが、自分がライ フルを撃ったはずなんだけど、自分の機体のライフルの銃 身が見えないというのは不満ですね。これは本物じゃなく て遊びごとなんだから、どうせだったら見えるようにして 欲しいし、見えるような機体のポーズを取って欲しい。な まじ、モビルスーツのテクスチャーや形が再現できるよう になったために、こういう部分にフラストレーションを感 じてしまうのです。機体に内蔵されているミサイルを撃っ たなら、その撃ったというサインが欲しい。ミサイル発射 機の後ろに穴があるなら排気煙が欲しい。空薬莢が飛ぶと いうような、自分が攻撃したんだという保証、実感が欲し いんです。ミサイルに薬莢なんかねぇよとか、そういう理 屈はどうでもいいんですよ。視覚的な表現が欲しいのです。 これだけの緻密な映像になってきたときに、そういうこと を無視しているエンジニアやデザイナーが仕事をしている という欠点が見えてきて、僕はフラストレーションを感じ てしまうのです。  例えば、このゲームではゾックのデザインをオリジナル から大きく変えてある。それはいいんですよ。デザインを 変えていただいて結構なんです。ただ、CGでセルアニメ以 上に動きを再現できるようになったなら、その動きを想定 するようなデザインにしてくれれば良いのに、プレイヤー 側から見たら、外装でカバーしすぎていて、せっかく動い ている部分が見えない。もっと言えば、ケンプファーなど の場合には、古いモビルスーツ以上に動きを表現できるよ うにアレンジしてデザインされているわけです。アニメで もやっているアレンジを、CGだからこそ正確にすべきだと 思うんです。「オリジナルが第一なんだ」と言ってくださ るファンの方々は本当にありがたいんだけれども、あれか ら二十年経ったんだということと、ゲームの精度も十年前 とは違うということをもっと分って欲しい。プレステ2の レベルになったときに、20年前のままのデザインでいいと は僕は思えないんです。オリジナルのガンダムで言えば、 二本足歩行が正確にできるデザインのモビルスーツがそん なにあるとは思えないし、ザクだってちょっと怪しい。足 の裾が広がりすぎている部分があります。僕はプレステ2 のレベルでそれを無視するのは許したくない。結局、オリ ジナルを大事に思いすぎているところがあるし、仕事の都 合でデザインを変えてはいけないということもあるらしい のは知っています。でもそれは、物を作る心としてはとて も酷いことだと思うんです。そういう部分こそがクリエイ ターの腕の見せ所なんだから、デザインは変わってもイメ ージは変わってないだろうと言えるようなものを作ってい ただきたい。そういうことが、物を作るということの、い ちばんの戦いなんじゃないかなと思います。 CGで表現される モビルスーツの限界 ― オープニングムービーのクオリティも高いですし、ゲ ームとしても健闘しているように思えますが。 富野 CGについて、最近もうひとつ思いついたことがあり ます。まさに今回のゲームのCGムービーのことであり、さ らにいえば『G-セイバー』でもいえることなんです。それ は先程のデザイン論も関係するのですが、CGでの映像はあ まりにもリアルに表現できるために、モビルスーツという もののリアリティが瓦解しつつあるということです。綺麗 であればあるほど、テクスチャーにこだわればこだわるほ ど、あの巨大なサイズの二足歩行兵器は現実的でないと観 客に気付かれてしまう。CGの映像を見ればわかるとおり、 プラモデルが動いているようにしか見えないというのは、 動かし方が間違っているのではないんです。ああいう動き ができるデザインではない、ということなんです。アニメ でやっている分には、まだいいんです。アニメというのは、 どんなに緻密に描いても、結局は漫画絵だからです。カリ カチュアライズの絵である限り、それほど違和感を感じな いで済む。それが、こういったリアルな質感のCGで表現さ れた途端、明確でないにせよ違和感を覚えてしまう。アニ メの絵とCGとは、根本的に違うものなんですよ。これにな ぜ気付いてくれないのか不思議でしょうがないんです。  最近、僕は覚悟したことがあります。それはCGで映像が 作れるようになったときに、何がいちばんの最大目標なの かということなんです。これは究極の企業秘密であり結論 なんですが、ここで喋れます。なぜなら、極めて一般的な 言葉でしか言えないからです。それは「映画的に作る」と いうそれだけです。ただ問題なのは、映画的表現とはどう いうことか、これは説明できません。あまりに広義的すぎ るからです。ただ、少なくともガンダムに関して映画的で ないということは、先程から言っているモビルスーツのデ ザイン的な問題がまずあります。これだけ本物らしいもの が動くとき、あのデザインで動くのか、という問題を解決 しなくてはならない。腕とか脚が重すぎるんです。あれだ けの質量のものが、宇宙空間でああいう機動ができるわけ がない。メカニックなものが宇宙空間で動くには、理由が 必要なんです。期待の性能、機能が動きを表現できるよう にデザインされていないということです。だから、デザイ ンをバージョンアップさせなくちゃならないんですよ、と いうことです。  例えばオープニングのCGでいえば、背景の建物を大きく して、ガンダムとザクの全長が三メートルくらいかな、程 度の比率にすれば、リアルな映像として見えるかもしれま せん。巨大感が出ていないから問題なのではないんです。 まったく逆で、巨大感があるからこそリアルに見えないん です。これは、CGの質感でやられたから、明快にわかった ことなんです。だから、もうこの形態のモビルスーツ論と か巨大ロボットじゃないものを作らなければならない時代 が来たのかもしれない、ということに気付いて欲しい。だ からこそ、俺にも新しい仕事が絶対にできるぞ、とゲーム やCGの人たちにも思って欲しいんですよ。 ゲームの「お楽しみ」と 「物語性」 富野 だけど今回のゲームは、背景とキャラクターが、そ のシーンに乗っているという表現では、我慢できるレベル に来ていると思うから、こういう話もできるんです。シュ ーティングゲームとしても、ターゲットを狙って撃つとい う根本的な部分は変えようがない以上、こんなものだろう なと思えます。ただね、もうちょっとアーケードゲームに あるような爽快感が欲しいなと思う。敵一機を倒していち いちガッツポーズというのも恥ずかしいんだけども、何か そういうのもあっていいんじゃないかな。遊びがないとい うか、シリアスになりすぎているんじゃないかと思えます。 もちろんアーケードゲームにある、お金を投入してくれた ことに対する誇張されたサービスというのは承知してます が、ゲームというのは正に勝った負けたでしょ? その表 現をするのに、シミュレーションゲーム的なシューティン グゲームという見え方のリアリズムで全部をやってしまっ て良いのか、ちょっと疑問ですね。ゲームというのは爽快 感があって欲しい。勝ったときは勝ったときで、褒めて欲 しい。だからオジサン的なことで言えば、自分で好きなキ ャラクターを選んでおいて、例えばセイラさんならセイラ さんに「トミノ監督、エライ!!」って褒めてほしいな(笑)。 それがうるさいって奴は、消せばいいだけのことなんだか ら。そういう選択のセッティングは今のソフトの容量なら できるんだから、それを億劫がってもらっては困る。そう いうアイディアなり、人を楽しませる心がなくて、あのオ リジナルガンダムのこのシーンを何とかかんとかっていう のは、ゲームとしては僕は面白くないという部分はありま す。これは原作者だからとか、そういう演出をしたことが あるからというのではなくて、僕だったらやっぱり、ララ ァが「オメデトー!!」とか言ってパンツ見せてくれるとか さ(笑)、そういうのがいいな。 ― それだと一晩中でも遊んでしまいますね。 富野 だってゲームってそういうものじゃない! だから、 こういうことです。デザインを変えたくないということも 含めて、開発者に遊び心がないと思えるんです。ゲームと いう遊びごとに対する本質をつかんでいるとは思えない。 これだけ綺麗な絵で出せるようになったら、それこそララ ァのパンツの模様まで描ける。でもちょっと前までは、そ んなことはできなかったんだから。この話をね、冗談だろ うというふうに捉えている人がいるんだったら、開発から は外れて欲しいなと思うんですよ。じゃあパンツ出せば良 いんだってなるのも困るんだけどね(笑)。遊び心がどこ にあるのか、それから遊び心というのはかなり幅が広いん だよっていうのを想像できる人でなければやっぱりやって ほしくないんです。  シューティングゲームだから破壊するという映像を作ら なければならないという意味では、見ていてあまり気持ち の良いものじゃないんです。気持ちも良くないから、克明 に破壊される映像を出して欲しいとも思わない。じゃあど うやって遊び心を充足させるようなシューティングゲーム にするかといえば、ガンダムの中にもヒントはいくつかあ るんです。例えば、敵のパイロットに直撃させてしまった ら「それはやりすぎだ」ということで、ペナルティが加わ るような展開だってあるかもしれない。極端な話、ザクな りガンダムなりを撃とうと思ったら、コックピットがガバ ッと開いて、例えばアムロなりが両手挙げて「ゴメンナサ イッ!」っていったらそれはそれで勝ちとかね。ガンダム ではあんまりやって欲しくないけど場合によっては良いん です。ゲームなんだから。これがとても重要なことなんで すけど、物語性なんです。それともうひとつ重要なことが、 何度も言いますが、プレステ2の精度になったらこれがで きるということなんです。そういう部分の能力を無視して、 旧来のままのシナリオのシューティングゲームを延々と繰 り返しているというのが、僕には欠点として見えてくるんです。 ― ジャンルとしてシューティングを選択するというのは、 ガンダムのゲームとしては正しい判断であると? 富野 それはもう間違ってないし、極端な言い方をすると それだけでも良いと思う。ただし、ムービーなんか入れて る暇があるんだったら、ゲームのシーンの中での物語を作 ることに配慮して欲しい。ゲームにムービーを入れるとい うのは、この十年の中でゲームの世界がやっている方法論 でしかなくて、ゲーム自体のクオリティは上がっていない わけだから。それならばむしろ、ゲームのシチュエーショ ンを表現することにエネルギーを使う方がよほど良いでし ょう。例えば、索敵という機能があるんだったら、それは ムービーの中にあったゲームに必要な情報は、すべて索敵 という行為の中に取り込めるということですよ。むしろそ こに、見逃したら致命傷になる情報があるとか、足音が変 わったことに気付かなかったら、そこに敵が潜んでいるか もしれないし、地雷原なのかもしれないよという、ゲーム 性に関わる物語が描けるはずなのに、そういうことをやっ てこなかったわけです。単純に言えば、ムービーというの は映画でやればいいんです。結局、ゲームの中にムービー 的な物語性を入れることのできる脚本家だとかプログラマ ーがいないだけの話なんです。僕は基本的にゲームはゲー ムであるべきだと思っているから、そうして欲しいんです よ。例えばね、お前らどんなシーンを作ったんだと聞いた とします。これですと見せられたら、単なるだだっ広い平 原だったと。こんなの作ってどうすんだ! となりますよ。 でも平原を歩き始めたら、そこで見落としたものだとか目 を付けたものが全部、当たり、アタリィ! と反応があっ たら、チクショウやっぱりそうだったのかってなるじゃな い。それこそが楽しい。そのためのコンピュータゲームで しょう? それに、これは広い意味でシミュレーションゲ ームになり得ると思えるんです。僕はシミュレーターとい うものを一元的に捉えるのか、色んな要素を取り込むのか 取り込まないのか、という問題でしかないと思うんです。 これだけゲームを皆で作ってきたんだから、そろそろ複合 的なゲームというものがあってもいいんじゃないかと思い ます。 誰がゲームを面白くするのか 富野 これからゲームを作りたいという人たちには、映像 で物語るということについて、もっと基本を勉強して欲し いなと思うんです。これはゲームとは関係のないムービー レベルで作っている人たちにも以前に言ったことなんだけ れども、驚くほど動く映像を作るという、作り方の基本と いうものを知らなさすぎるというのを感じたんです。せっ かくプレステ2みたいに映像を売り物にしているのだった ら、映像の中にもっと面白い仕掛けや面白い表現ができる はずなのに、僕の世代の例えで言えば、絵の表現が、まだ サイレント映画の時代だな、という感じなんです。一見、 精度が上がっているようなんだけれども、むしろこれだけ の絵が描けて、動かせるようになり、バックグラウンドを 360度再現できるようになっているのに、まだ「絵を描く」 ということの結果でしかなくて、プレステ2のもつ能力に 見合うだけの物語性はないんじゃないか。また逆に、それ をゲームとして利用するというところまでクリエイティブ なことをやっているのかと言えば、やっていないと僕には 思えるんです。  そういうことで言わせてもらえれば、開発者の思考回路 がどっちに振り分けられるかで、オペレーターのままで終 るのか、億単位のお金をゲットできるのかということなん です。そして問題なのは、だったらお前が作るのが先か、 こっちが作るのが先かという話なんですよ。僕もまだ評論 家になるつもりは毛頭ないし、現場に居させてもらえるな らば、あと五年か三年、生かさせてもらえるならば、そう いうものも作りたいなと思うようになりました。 ― それは富野監督がゲームを作ることがあると・・・・・・? 富野 いや、ここまでは一般論の話ですよ。でもそういう ことがないとはいえないし、やる気もあるということです。 ここから先は企業秘密だよ(笑)。 ― 本日はありがとうございました。