BATTLE ROYALE 外伝


第一部
試合開始


 何か考える間もなく、あっという間に二分が過ぎた。
 ぎりっと、歯ぎしりの音が聞こえて、それが自分の口元から発声されたものだと気がついて自分でも驚いた。利夫は握りこぶしをしたままでいた自分の手が、真っ赤になるほど強く握られていることに動揺を隠せなかった。
 ――――ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。――――むかつくぜ。このどうしようもない状況、プログラムそのものはたしかに気に入らないが、あの舞知ってやろうも気にくわねえ。かならずぶち殺してやるからな、覚えておけよ。
 利夫は怒りに支配された思考の中にもなんとか、この舞知にいっぱい食わせてやる方法を考えた。――――どうしてやろうか。そういえば武器が支給されると聞いた。それを受け取ったらとってかえして舞知に……。
 「はい、間壁くん。宣誓の言葉を言って出て頂戴ね」
 間壁春人はドアの前でしばらく同じ姿勢のまま身体を硬直させていた。うっうっと引きつるような呼吸をして、泣いたような表情をしながら間壁が側にいた兵士に突然体当たりした。銃が転がって他の兵士がさっと銃を構えなおして間壁に照準をあわせたが、舞知が手を横にしてそれを制した。――――兵士から奪ったのはスミスアンドウエスンM19・357マグナム。リボルバーの銃だった。それをやっとのように拾い上げると舞知に向けて構えた間壁が言った。
 「ぼっ、僕は……。頭はよくないけどっ。……動きが鈍くて、のろまだから、みんなからは、あんまり、好かれて、いないかも知れないけど――――」
 間壁はそこで言葉を切って、舞知を睨んだ。正直言って驚いた。間壁は、たしかに自分で言う通り決して運動神経のいいほうではない。明るいだけがとりえの――――だが、気はやさしくていいやつなんだ。ちょっと本人に気が弱いところがあるだけで、みんなも嫌っているやつはいないはずだった。今、彼は泣いていた。
 「こ、こんな殺し合いは、殺し合いなんて、僕にはできない! 僕は、このクラスメイト全員と仲がよかったわけじゃないけど……けど、けど……僕はこのクラスが好きなんだ!」
 間壁がそこまで言うと、舞知は何事もなかったかのように、「撃て」と言った。
 後ろにならんでいた兵士たちがいっせいに射撃して、間壁の身体がドアの向こう、おそらく廊下のところまでドアごと吹き飛んだ。
 唖然とした。
 轟音が室内の空気をしばらくの間震わせていた。こおおお、と耳には聞こえてくる。銃声はやんでいるが耳鳴りが激しく、他の音は聞き取れなかった。その間にまた舞知が何かしら喋っていたが、もちろん聞こえてこなかった。
 利夫の席からは開けっぱなしのドアの向こうが見えて、そこに間壁の遺体が転がっていた。首をうなだれるようにして壁を背にもたれかかり、そこらじゅうに赤い染料をこぼしたように、血が広がっていた。見た目も起こった出来事も、なにもかもが最悪だった。
 ちらっと『絶望』、という字が頭をよぎった。――――最悪だ。本当に最悪だ。
 「余計なことを喋る前に相手を殺すのも、敵に勝つ方法よ。ふふ、いい見本になったでしょ? ――――彼は無駄話が多すぎたわね。男のお喋りはみっともないわ。――――じゃあ、次。女子十八番の人、準備しとくのよ。間隔は宣誓の時間を含めて二分しかないんだからね」
 もう誰も喋らなかった。もう誰も余計なことはしなかった。ただ、前を向いてじっとしているか、下を向いて顔を両手でうずめていたり……とにかく、誰も何もしなかった。順番が呼ばれ、あの宣誓をしていくと静かに教室を出ていった。震えながら、脅えながら、あるいは泣きながら。男女関係なく。その間に三島仁も教室を出ていったが、彼はまったく利夫の方を見なかった。宣誓をしている時でさえ。――――いや、彼は誰とも目をあわさなかったのかも知れない。何を考えているかは読めなかった。
 ――――数分が過ぎた。
 「えっと、次は男子の二十一番。――――ああ、彼はそこで死んでるわね。ええと、じゃあ女子にいってぇ――――」
 と、その時、むくっと立ちあがった男がいた。利夫の位置からは見えなかったがなんとなく気配でわかった。――――ぎょっとしていて舞知が見ていた。
 「あ……あらぁ。生きてたんだぁ。……なに? 今まで死んだふり?」
 都ゆきひろだった。彼は舞知に背中から撃たれて血を流していながらも、立ちあがって前に進み出た。撃たれた彼女とは違って急所には当たってなかったのかもしれない。――――しかしそれにしたって重傷にはかわりないはずだ。よろよろとようやく、といったふうにして都は舞知の目の前に出た。
 「……必ず、復讐してやる。覚えておけ」
 後ろの兵士の銃がぴくりと動いた。
 「俺は殺し合いをする。俺は殺し合いをする。俺は殺し合いをする。やらなきゃやられる。やらなきゃやられる。やらなきゃやられる」
 早口でそれだけ言うと、都はドアの前に立った。歩くだけでもつらそうな状態だった。
 「ふふ、まあいいわ。覚えておくわよ。あなたが優勝して再び会える時を楽しみにしてるわ」
 舞知の捨て台詞を聞き流して都はドアから出ていった。そして驚いたことに彼は遺体となった間壁の手に握られていたスミスアンドウエスンを奪うようにして拾うと死角へと消えていった。
 「あはは。彼。やる気よぉ〜。みんなも注意しとかないとねぇ〜」
 歪んだ時間が刻一刻と流れていって、もはや室内の空気は本当の意味で最悪のものになった。
 あんな目の前でやる気を見せられては……俺も、あるいは私も、やるしかない。そんな空気が場を支配した。
 それでも尚、利夫はそんなことはあってはならないと思っていたのだけど、足がどうしてもがくがくと震えて、また歯がぎりっ、と鳴った。

【川田章吾優勝まで あと38人】


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