
第一部
試合開始
12
川上良子が出て行ってから、逆に利夫は落ち着いていることができた。
――――信頼できる。仲間がいると思うとこんな状況下でも強くなれた気がした。
ついに名前を呼ばれて利夫は立ちあがった。――――もう迷いなどない。川田と、良子となんとか合流して、できれば三島仁なんかとも会って、なんとかこのプログラムから逃げる方法を考えようではないか。あるいは、このクソったれアマァ、舞知をぶっ殺す計画でもいい。とにかくこのままじゃ終わらないぜ。
「はい。じゃあ宣誓して出て行って頂戴」
川田や良子がそうしたように、できるだけ感情を込めずに、事務的に、舞知にはちゃんと言ってるぞ、とアピールして残っているクラスメイトには、俺はこんなにもイヤイヤ言わされてるんです。だからやる気なんてありませんよ。と、伝えるように言うことにした。
それでも、ややためらいぎみになりそうな気持ちになって、一瞬言葉がでなかった。だが、やっと喋ろうとしたその時、ぐらぐらっと部屋が大きく揺れた。
遅れてごおおん、という地鳴りがして部屋中が、がたがたがたと振動し始めた。
利夫は立っていられなくなり、舞知も、後ろの兵士も、イスに座っているほかの生徒たちでさえ床に手をついたり、ひっくり返ったりしていた。激しい振動の中に怒号と悲鳴が聞こえる。利夫はわけもわからず、とにかく何かに捕まろうとしてドアのところにもたれかかったが、次の瞬間、そのドアがばたんと外れて、一緒に倒れる羽目になってしまった。――――クソ。なんだ。何が起こったんだ? 地震か?
利夫はドアと共に倒れた際に、手をしたたか打ち付けてしまった。突き指してるかも知れなかった。しりもちをついた状態でちらりと見えたのは廊下で死体になっている間壁の身体で、それが横に倒れていた。その拍子に胸のあたりから赤黒い塊がこぼれて、ぬらぬらと光っていた。
ぱらぱらと天井からも埃のような白いすすが落ちてきた。大きな揺れはおさまってきたものの、まだ余震は続いていた。
痛い利き腕の右の指と、しびれているひじを左手で交互にさすりながら、利夫はなんとか上半身だけ起こせた。
さすがの舞知もこれには驚いたようで、「何? 何なの!?」と喚いていた。こんな時だが――――いい気味だ。
しかし何とか立ちあがると舞知は、ぎろっと利夫を睨んで言った。
「もう時間が過ぎてしまったわ。あなた。出発して頂戴。宣誓は――――もういいわ」
廊下で待っていた兵士が近くに無造作に散らばったデイパックの山から一つ手に取ると、利夫にぽんとほった。どさっと利夫の近くにデイパックがころがった。これに政府支給の武器が入ってるんだな。しかし・・・ちらっと見ただけだったが利夫にデイパックをほった兵士の後ろにはゴルフバックのような大きなものまであった。いったい何をいれてるというのだ。
「はい。みんな落ち着くのよ。こんなことぐらいで慌ててはダメ。――――たしかにこれは先生も予想外だったけど、プログラムを中止するわけにはいかないの。もちろん、ルールも変えることはできないわ。――――もう次の出発の時間です。女子八番と男子九番は死んでるから、女子九番ね。あなたも宣誓はいらないからデイパックを取ったら出て行きなさい」
指名されてぎょっとした園村包実(女子九番)が、横倒しになった机に手をつきつつ、ようやく立ちあがった。しかし、そのまま放心したようにぼおっとしていた。無理もない。誰だって混乱するさ。ただでさえ――――。
「ほら! 何してるの、早く出なさい!」
剣幕をだして舞知が言ったので思考が中断された。舞知はまた銃を構えて園村包実に出て行くよう促した。よたよたと園村が前にでてドアの前に立ったところで園村と目が合った。ポニーテールの眼鏡の奥から覗く瞳があっ、と言った表情をしたが、すぐに元に戻り、いつもの、本を読んでいる(少女漫画だ)時のようなちょっと暗い感じの表情に戻った。そして利夫もはっと気がついて教室をでることになった。――――くしくも、この殺人ゲームに他の生徒と一緒に出ることになってしまい、それは利夫の想像の中になかったので、気まずい雰囲気になって、ちょっと距離を取って歩き出した。
――――なんだ利夫くん。びびってるのかい? このクラスメイトを信じてたんじゃないの? おかしいじゃない。せっかく一緒に出たんだしさ。並んで歩こうよ。お手手繋いで、はい!
ちくしょう。――――信じることができないというより、恐怖を感じる。園村は大人しくて馬鹿騒ぎをするようなタイプではない。ましてや、仮に争いになっても利夫の方があきらかに運動神経がいいし(当たり前だ。女子相手に。それに体育も休みがちで体も丈夫な方ではなかったはずだ)、負ける気はしないものの……・・・。もし、襲いかかってこられたら俺は彼女を殺すことなんてできない。相手はこちらを殺そうとしてるのに、こっちは殺すことができない。本気の戦いの中で、そう言った精神面での作用は非常に大きいと利夫は普段の剣道の心得で学んでいた。
――――油断はできない。しかしなぜだ。同じクラスメイトじゃないか。
クソ。ほんとにクソったれのむかつくゲームだ。
廊下も意外なことに窓がなく、蛍光灯の明りだけがたよりだった。道は一本道で迷うことはなかったが、先の見えなかった角をまがると階段があった。そしてそれは上に続いていて外からの光が覗いていた。
「こ、ここ地下だったんだね」
おそるおそるといった感じでまるっきりアニメ声の園村が言った。利夫はここが地下であるということは、うすうす感づいていたのだけど、園村は想像もしていなかったようだ。
しかし――――今の彼女の言葉の言い方で利夫は少し安心感をおぼえた。どうやら彼女はゲームに乗る、とりあえずは目の前にいる利夫に襲いかかるという気持ちは持ってないようだ。
「とにかく、外に出よう。まずはそれからだ」
利夫は自分に言い聞かせるように言って、階段を登りだした。そして……。
悪夢は、すぐ目の前にまでやってきていた。
【川田章吾優勝まで あと38人】