BATTLE ROYALE 外伝


第二部
中盤戦


17

 ようやく雲も消えて月がでてきた上空を一機の飛行機が飛んだ。かすかだが、その音も聞こえていた。
 窓の外の暗い空から視線を地上にもどすとポニーテールの後ろ姿が目に映った。
 利夫は同じく窓から外を覗くポニーテールの彼女の横に並ぶように立つと、「怖くないか?」と声をかけた。
 少し高い声をだして彼女が答えた。
 「大丈夫よ。ありがとう。まだヘーキだから。――――沢村くんは、続きやってて」
 「……そう、か。悪いね。じゃ、あと少しだけ」
 彼女、園村包実は窓の外を身をかがめながら伺っていた。園村は腰のところに政府からのありがたくないプレゼント、タリク7.65mmをスカートにはさんでいた。
 その拳銃は利夫の支給武器であった。が、今は弾が入っていないので脅し用ぐらいにしか使えないが……。
 彼女は今のところ誰も近くに気配は感じていないようだ。
 利夫は向き直って、もう一度見まわることにした。
 二人は今、矢ノ島公園事務所の中にいた。エリアで言うとG=02。例の消防署を出てわずか東に200メートルほど進んだところだ。時刻はすでにプログラム開始から二時間以上たっており、最初の出発地点、G=01もすでに禁止エリアに含まれているはずだった。利夫の腕時計は午前二時を少し過ぎていた。
 とりあえず建物を一緒に出るはめになった二人は、その建物が消防署だったことを知った。こんな西の端にあるのに”中央消防署”なんだな、と思った利夫だったが、この白紙の地図には西側にも島が続いていたことを思い出して納得した。おそらくここには書かれていない西側にも同じ規模の土地があるのだろうと推測した。たしか舞知が島が大きすぎて真ん中で分割したとか言ってたし。
 何も書かれていないこの地図には大事な情報も抜けていた。それはこのマス目がいったいどの程度の面積なのか。さっぱりわからなかった。とにかくこれではらちがあかないので、ちゃんとした地図を手に入れようと思っているうちにこの公園事務所を発見した。その事務所に誰もいなかったようなので注意しながら中に入った。するとそこにこの公園の観光案内の看板があって(残念ながら言葉で書いてるだけで絵ではなかった)、書かれた文章の中からこの島が四キロ四方であることがわかった。利夫たちが動ける範囲はその半分だから、おおざっぱに考えても一マスあたり百五十メートルから二百メートルぐらいのものだとわかった。この公園事務所は消防署からすでに三百メートルほど離れていると利夫は推測していたので、最初の禁止エリアには関係ないだろうと思っていた。
 この事務所に入ってまずしたことはその確認と、武器の内容の確認だった。まず利夫は自分の支給武器を見てみた。すると中に拳銃と説明書が入っていて、その拳銃がイラク将校用タリク7.65mmだとわかった。その説明書によれば、ベレッタM70セミ・オートマチック・ピストルの構造をそっくりコピーしたもので、メカニズム等は全く等しい。……とは言われてもベレッタなんて利夫は知らないが。それよりも注目をしたのはグリップのところに大東亜総統の横顔がレリーフされてることだ。こんなものを握りながら戦えだと!? ふざけやがって。
 とにかく利夫はそれだけを確認すると今度は園村の武器を見てみた。彼女がデイパックの中から取り出したものは折りたたみ式の小型ナイフだった。二人はそれらの武器をどうするか決めかねていたが、利夫が当初感じていたクラスメイトへの不信感(この場合園村に対してだが)を払拭するために、弾は抜いておいた方がいいだろうと考えた。そして弾を自分が持つと銃本体は園村に渡した。利夫が考えたのは、たとえまったくやる気がなかったとしても銃の存在はお互いにとって脅威になりうる可能性があったのでそうしておいた。こんな状況ではなにがきっかけとなって発砲することになるかわからないからだ。誰か他の人間と遭遇することがあれば、最悪脅し用として使えるし(実際利夫はそんな風に使いたいとは思っていない)、もし何かの誤解が生じて園村と利夫がやりあいになっても、銃を発砲するまでに時間的なワンクッションがあれば、それまでに誤解を解くこともできるかもしれない、と利夫はそこまでのことを読んでそうした。――――利夫は緊迫する場面になればなるほど持ち前の冷静さを有効に発揮できるようだ。ナイフは園村が持つのも怖いというので利夫が預かっておいた。
 利夫は続けてこの島の地図を手に入れようと事務所内を探した。いくつも並べられた書類の中から目的の地図だけを探すのは困難をきわめた。園村はその間、外の見張りを買ってでていた。
 結局探しまわったものの、目的の地図は見つからなかった。(地図や道路地図はあったが、矢ノ島は瀬戸内の海に小さく記されているだけだった)
 「ダメだ。この島の詳細はわからない」
 ため息をつくように利夫が園村に話しかけた。
 「そう……見つからなかったのね」
 園村も少しがっかりしたような言い方をしたが表情は落ち込んでいるようでもなかった。利夫には彼女が消防署をでたときよりも顔色がよくなっているのに気がついた。
 「元気か?」
 我ながら陳腐な台詞だと思いながらも聞いた。
 「え?」
 「だいぶ顔色もよくなってきたな。最初はずいぶん――――しかたがない話だけど、ずいぶん疲れたように暗い顔をしていたから」
 「あ……。うん……」
 園村は曖昧に肯いた。それから視線だけを利夫の方に向けていた。彼女は何か言いたいことがあるらしかった。
 利夫が園村をじっと見つめ返すと、彼女ははっと照れたように視線をそらした。
 「誰か通ったかい?」
 利夫が園村の横に来て言った。彼女の横に寄り添うように窓から外を眺めた。園村は静かに首を横に振った。
 しばらく外を眺めていた利夫だったが、なにかむずがゆい視線を感じてすっと横を見た。園村とばっちり目が合って、見つめあうかたちになった。ふいをつかれた彼女があわてて視線を窓の外に戻し、頬をほんのりピンクに染めた。彼女は利夫が横顔を見つめているのを意識しながら、髪が耳にかからないように軽くかきあげた。それから落ち着きがなくなって、眼鏡を外すと手の甲でごしごしと目をこすった。
 「あは。……こんなときでも眠たくなるのね」
 眼鏡を外した園村の素顔が正面を向いた。……少し笑って。
 そのまま彼女は焦点のあわない視線で利夫を見つめた。笑顔を残したまま。
 素顔の園村を見たのはこれが初めてだった利夫だが(こんな間近で見たのも初めてだが)、少し、ちょっとだけ彼女のことが可愛いと思った。そしてそれは園村の思惑の通りだった。
 園村は緊張と動悸で言葉が少なくなっていた。同じクラスだけど喋ったことのない、あこがれの”あの人”が目の前にいて自分を見てくれていた。やぼったい眼鏡のせいで垢抜けしてないけど、素顔は結構自信があった。どの顔の表情が一番可愛いかも、毎日見る鏡で知っていた。自分は笑顔が一番素敵だと知っていた。園村はそう思っていたが利夫がわかるわけもなかった。
 利夫は恋に鈍感な男としては何よりも先に良子で証明していた。何しろ彼は良子が同じクラスになった中学一年のときにいつも話しかけてきたことも、彼と同じ話題を持ちたくて剣道を志すようになったことも、わざわざ彼の家の道場に通うようになったのも、放課後によく呼び出して無理やり買い物に付き合わせたことも、すべて、ただ利夫に会いたい、いつも一緒にいたい、そんな気持ちでそうしてきたことにも気がつかなかった男なのだ。園村のそんな想いなど……利夫が気がつくわけもなかった。
 ふああ、と利夫はあくびをした。
 「ああ、たしかにな。それにしてもさっきまで俺たち強制的に眠らされてたのに、それとは睡魔は関係ないらしい」
 利夫は場違いな発言をして、彼女のロマンティックな気持ちをなで斬りにした。
 だが、彼女は言った。
 「あ……あたし。……ずっと見てたの。……沢村くんのこと」
 「え?」
 「あの……なんて言うか。……ずっと、ちょっと、カッコイイなァって。……沢村くんのこと……想ってて……」
 園村は利夫の視線に耐えれずに下を向いてしまった。今や頬だけでなく、顔全体が赤くなっている。
 が、しかし利夫がばっと立ち上がって完全に無視した。
 「あれは……」
 窓の外を凝視していた。
 園村はちょっと、いいやだいぶふくれっ面になって、しかたなく外を見た。
 「あ、岩瀬くんよ」
 ぼさぼさ髪の岩瀬が猫背になりながらとろとろと歩いていた。
 おおぶりなアーチェリーを持つ姿に、利夫は一瞬それが親友の三島仁かと思ったのだが、園村の言ったことの方が正しかった。
 「仁かと思った」
 「三島くん?」
 「いや、あれは岩瀬だ」
 だからそう言ったじゃない、と園村は心の中で毒ついたが、もちろん口には出さなかった。
 園村は当然、彼は無視するものと思ったが利夫は、「行こう」と言った。――――あら、あたしは無視しても彼は無視しないのね。もしかしてソッチの気があるのかしら。そんなのはあたしがいつもよく読む漫画だけの世界だと思ってたけど。
 園村はちょっと彼を睨むようにして利夫の後を追った。
 「危なくないかしら。あたしはちょっと……いやだなぁ」
 それは二人きりのままの方がいいという意味もあったが、ほんとにいやな予感もした。そして、たしかに彼女の予感の通りやめておけば、これから悲劇は起こらなかったのだが……。
 「仲間を――――集めようと思うんだ。俺」
 ちょっと立ち止まって利夫が言った。利夫の目はとても真剣だった。
 自分の好きな男の意見は、それは絶対的なものと言ってもよかった。園村は利夫にずっとついていければ、たとえ最後に彼に殺されるようなことがあってもいいと思っていた。――――この絶望的なゲームの中で愛する男に殺される女。それも悪くないと思った。だが、しかし現実は甘くはない。
 「岩瀬!」
 利夫が事務所をでたところで声をかけた。できるだけ刺激しないように落ち着いた声で。
 利夫の想像の中では、岩瀬がそれに気がついて会話が始まると思っていたが、岩瀬はなんのためらいもなくすっとアーチェリーをこちらに向けて構えると撃った。
 空を切って矢が事務所の入り口の扉のところに刺さった。ちょうど出てきた園村の頭の真上だった。りんごのないウィリアムテルだ。
 な――――に。
 何も思う間もなく岩瀬が次の矢をつがえた。
 「待て! 岩瀬! 俺たちはやる気なんてない!」
 びゅん、と利夫の頭を掠めた。
 「そっちになくても、こっちにはあるさ」
 歪んだ口元から声をだした岩瀬の台詞はあきらかに戦闘開始を告げていた。
 しかし、それでも利夫は言った。
 「待て、待ってくれ。ほんとだ。俺たちはやる気なんてないんだ。――――少し、話をしないか。――――もうちょっと落ち着いてから……」
 「落ち着いてるよ。俺は」
 ぎりっと弓を引いた。矢が真っ直ぐ利夫を狙っている。
 「岩瀬。どうしたんだ、お前。――――そんなやつじゃなかっただろう」
 子供をあやすように利夫がやさしく言った。
 しばらく岩瀬は沈黙したあと、「俺はもう人を殺したんだ」と告白した。視線が下を向いて、利夫の目線をさけた。
 「だから! 俺はもう誰かを殺すのにためらったりしないぞ」
 今度はきっ、と利夫を睨んで言い放った。
 「だ……。誰を殺ったんだって!?」
 今の岩瀬には聞いてはいけない禁句だった。
 岩瀬の顔がにやっと歪んだ。ピクピクと頬を痙攣させている。利夫の言葉に見事反応して、引きつった笑みがこぼれた。
 「まず佐藤だ」
 驚いた。利夫が知ってる限りでは岩瀬と佐藤はとても仲が良かったはずだ。それがどうして!? それに……それに”まず”だと!?
 「他にも誰か――――」
 「お――――待て。――――お! あった。これこれ」
 岩瀬はポケットから何やら金属でできた鎖を取り出した。
 「ちょっと記念にな。良子サンからもらったよ。――――勝手にな」
 ――――銀のネックレス。
 利夫には見覚えがあった。
 良子の十五歳の誕生日。良子がどうしても欲しい、と言って利夫がやったものだ。ちゃんとお返しするから。そう言って良子は利夫からそのネックレスをもらいたがった。その銀のネックレスは利夫が今は亡き母から幼い時にもらった大事なものだ。昔、わずかな数だけある母の記憶のうちの一つ。『トシちゃんに大事な人ができたらこれをあげるといいわよ。これ、お守りにもなるのよ』やさしかった母が唯一利夫に残してくれた物だった。利夫はそんな大事なネックレスの話を初めて人に話した。その相手はもちろん良子だ。すると良子がそれをとても欲しがった。ずっと、これだけはいくら良子でもやれない、と言っていたのだが、ついに今年の良子の誕生日に根負けしてあげてしまった。(良子は利夫より一ヶ月だけ年上だった。ちなみに良子の誕生日は約一ヶ月前の六月。――――おいおい、俺、明日誕生日じゃなかったっけ!? いや、もう今日か!? すっかり忘れてたぜ)――――まあ、たしかに利夫にとっても良子は大事な人になりつつあったのだから、いくらか先払いしておいてもいいか、と考えていた。
 そう、だから見間違うことなんてありえない。岩瀬が手に持っているのは『母の形見』だ。
 どくん、と心臓が鳴った。利夫の心臓が飛び出そうなぐらいどくんどくんと活動しだした。ふわっと身体が浮き上がるような感覚になったのは血が上昇したせいだろうか。今度はばくばくと心臓が全開で活動を始めた。
 「犯してやったよ。何度もな。ヤッテ、ヤッテ、やりまくってやった。俺のあそこが擦り切れるぐらいな」
 「なん、だと!?」
 「良子サンのアソコ。とっても気持ちよかったぜぃ。へっへっへ」
 「な、に――――」
 愕然と利夫は立ち尽くした。さらに岩瀬は続けた。
 「知ってるか、沢村? 良子サンの肌ってさ。めちゃくちゃやわらかくて触りごこちいいんだぜ。お前ら、まだ恋人関係じゃなかったんだろ? ああ、でももうやってたのか? 良子サン、俺が犯した時は処女じゃなかったぜ」
 どす黒い激情の渦が体の心からぐわっと湧きあがって脳に到達した。――――なんだと!? なんだと!? 何を言ってるんだこいつ。何を言ってるんだ!? 良子が? 良子をどうしたって???
 「うひひひひ」
 岩瀬が厭らしい声をあげて笑った。
 岩瀬は良子が処女であるということ以前より検討をつけていた。だてに『良子ファン倶楽部』をやってるわけではない。つまりは岩瀬ではなく佐藤が彼女の処女を奪ったのだが(もちろん死後に)、利夫と良子が普段から仲がいいのを知っていたから妬いてそう言った。
 利夫は岩瀬の言ってる言葉の意味が理解できなかった。いやもちろん言葉はちゃんと聞こえているし、内容もわかってはいるのだけど、それを理解することを意識が拒んだ。
 良子に……良子になにをしたというのだ。――――あれは、あれは良子にあげたとても大事な、大事な母親の形見なんだぞ。こいつ……良子に、何を、した!?
 「それにさ。意外と良子サン胸があってさ。スタイルはいいし、顔もいいし……あっちも上手でね。俺ががんがん攻めたら、最後は良子サン、あんあん唸りだしちゃってさ。もう、腰振りまくって――――」
 「そんなわけないでしょ!」
 叫んだのは園村だった。
 「あなた! いったい、どういうつもり! 委員長が、川上さんがそんなこと言うわけないでしょ! いいかげんにしなさいよ! そんな嘘ばっかりついて――――」
 「嘘じゃないさ」
 「嘘よ!!」
 園村は放心している利夫の横にきて腕を取った。目を見開いたままの彼の腕を軽く引いて、「嘘に決まってるわ。気にしちゃだめよ」と、利夫を覗き込むように言った。利夫の瞳孔が虚ろに揺れていた。
 「嘘よ。岩瀬……が、嘘ついてるのよ。川上さん、きっと無事よ」
 「ん……あ、ああ」
 いくらか生気を取り戻して利夫がようやく返事をした。だが、目は一点を見据えたままだ。
 「嘘じゃないって。なんなら向こうを見てこいよ。――――もっとも今は禁止エリアに入っちゃったから近寄れないけどね。どっかで望遠鏡でも手に入れて遠くから良子サンの裸でも拝むんだな」
 岩瀬の言うことはほぼ真実に違いなかった。彼は良子へあげた『母の形見』をちゃんと持っていた。あれを良子がこんな状況とはいえ、人に渡すとは思えない。利夫の心の中に信じたくない現実が受け入れられようとしていた。彼特有の冷静さはさすがに今度ばかりは見られなかった。
 「いいかげんにしてよ。――――もうほっときましょ。こんな人。沢村くん。もう行きましょう」
 園村が腕を引っ張って利夫を移動させようとした。
 「おっと、そうはいかないぜ」
 岩瀬が再びアーチェリーを構え直した。
 「ウゼーよ。園村。――――死ぬか?」
 「やれるもんなら、やってみなさいよ!」
 園村は心の底から岩瀬を憎んだ。この岩瀬という男がとても憎かった。――――沢村くんを……あたしの好きな人に屈辱を与えるような、そんなことを平気でするこの男が許せなかった。岩瀬はきっと沢村くんと委員長が仲が良いのを知って言ってるのだ。真実はわからないが、あんな言い方をする岩瀬に怒りをおぼえた。――――そう、あたしだって知ってるわよ。委員長と沢村くんが仲のいいことぐらい。それも妬けるほどに。二人はとても仲がよかった。二人が一緒に下校しているのを何度見たことか。それをどんな羨ましい思いで見ていたことか。
 「じゃあ死ねや」
 びゅん、とブラックシャフトが跳ねた。矢は一瞬で園村の肩口に刺さった。その反動で園村が後ろに倒れるようにのけぞった。
 しかし、次の瞬間には利夫が岩瀬に向かって走り出していた。
 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
 体当たりをかまして岩瀬が吹き飛んだ。
 「ぎゃっ」
 仰向けにばんざいをするように倒れた岩瀬の身体の上に利夫が馬乗りになって跨った。
 「てめえ、ぜっっっったい許さねえぇ!!」
 馬乗りになったまま左右交互に利夫は岩瀬の顔面を殴った。突き指していたことなど忘れていた。ものすごい形相で怒りを叩きつけるように力の限り岩瀬の顔面を殴った。がこんがこん、と骨を叩く音が何度もして、岩瀬の鼻がぐにゃりとへんな風に曲がっていた。
 「殺す!!! 殺してやるっ!!!!」
 利夫は岩瀬を殴りつづけた。ぐっちゃ、ぐっちゃと肉が叩かれる音がして、血がそこらじゅうにむちゃくちゃに飛び散っていた。すでに岩瀬は脳しんとうを起こして気を失っていたのだけど、利夫の怒りは収まらずに、気が狂ったように岩瀬の顔面を殴りつづけた。
 「死ねっ!!! 死ねえ!! てめえなんか死んでしまえっ!! ――――おおおおおおお!!」
 叫びながら殴ることをやめない利夫に園村が体ごと腕を取りにいった。
 「やめてえ、沢村くん。ほんとに死んじゃうよぉ」
 「うるさい! こんなやつ、ぶっ殺してやる!!」
 そう言って腕を取った園村を弾き飛ばした。どさっ、としりもちをついて園村はうっ、と声をあげた。彼女の肩には矢が刺さったままだったので体全体に痛みが走った。
 園村は怒り狂った利夫をどうすることもできずにただ見つめていた。

【川田章吾優勝まで あと35人】


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