BATTLE ROYALE 外伝


第三部
終盤戦


44

 「どこへ行く?」
 そう言ったのは鈴村だった。
 ドキッとして慶子は一瞬身をすくませた。
 とりとめのないことを考えこんでいた慶子は気がつかなかったが、菜種が斜面のところまで行き、下へ降りようとしていたところだった。
 それを見つけた鈴村が声をかけたのだった。
 鈴村の愛想のない言い方に少し驚いた表情を見せた彼女は立ちすくんでいた。
 「どこ行ったって安斉さんの勝手でしょ」
 横から冷たい言葉を言い放ったのは屋敷さよだった。
 「気にすることないわ。行ってくれば?」
 さよがそう菜種に促すと戸惑いながらも再び斜面を下って行こうとする。
 「待てよ……。勝手な行動を取るなよ」
 するとさよが再び振り返って、
 「あなたに指図される覚えはないわ」
 「勝手な行動を取るな、って言ってるだけだろ。どこに行く気なんだ? ……危ないかも知れないだろ」
 本人の意見は差し置いて、さよと鈴村が言いあった。
 睨むようにしてさよは鈴村を見る。それからふう、とため息をついて、
 「……トイレに行きたいのよ。そうでしょ、安斉さん?」
 すると菜種はコクコクッと首を縦に振って逃げるかのように斜面を降りていった。
 「チッ……だったら初めからそう言やあいいのに」
 ぶつぶつと独り言のように愚痴をこぼしていた。
 ムシムシとした暑さのせいだろうか。誰もがイライラしていた。
 それは七月の今とあっては仕方がないことなのだが、本来なら夏休み初日で今ごろはプールか旅行でもしているはずだったろう。そういう慶子も今週の日曜日にはバードウォッチングに行く予定だった。恋人の川田を誘って、親友の鮎川真尋と一緒に……。
 皮肉なことに鳥のさえずりがチチチと鳴って聞こえた。史上最悪のバードウォッチングになりそうだった。
 でもどうだろう、ここに章くんがいても楽しかったかしら? どっちにしてもあまりはしゃぐこともないだろう。昔のように浮かれていることもないだろう。章くんのことが心配。でも章くんのことが今はわからない。
 何か不吉な予感がしてならなかった。黙っていると気がおかしくなってしましそうになる。
 その時、鈴村が「あっ」と声を上げた。そしてすぐに押し黙る。
 どうしたのだろう。
 「鈴村……。どうかしたの?」
 先に声をかけたのはさよだった。この状況に少々侵食ぎみだった彼女は何か変化を待っていたのかもしれない。それともさっきの気まずい空気を少しでも変えようとしていたのだろうか。
 「あいつだ……」
 それだけ言うと鈴村は必死にある方角を凝視していた。
 「あ、あいつって……例の?」
 「あいつだ。間違いない。絶対今のはあいつだった!」
 「ヤダ。こっちに来てるの?」
 「もう見えなくなったけど――――俺は見間違えたりしないぞ。あいつだけは!」
 「な、何よ。誰なのよ!」
 あとはもう聞き取れないほど小さな声で独り言のように囁いている。ブツブツと何か苦言を言っているようだ。
 それにさよが腹を立てていた。だが、本人には直接言わずに慶子に向かって喋りだした。それも聞こえよがしに。
 「何!? なんなのあいつ。急にだんまりしちゃって。頭おかしいんじゃない? ネ、そう思うでしょ大貫さんだって。バッカみたい」
 急に話を振られた慶子は返す言葉が見当たらず、言葉が詰まった。しかし彼女の暴言は止まらなかった。
 「だいたい見張りのつもりなのかしら、あれで。銃はどこ行くにも絶対離さないし、なんかあったらこっちに向けて脅かすようなこと言うし――――」
 「や、屋敷さん。あんまりそんなこと言わない方が――――」
 「ほっんとあったまきちゃう。女相手だからって優越感にひたるのはよしてほしいわ!」
 「おい!」
 突然声を荒立てて鈴村が立ち上がってこっちを見た。
 「勘違いするなよ。お、俺はお前たちを生かしてやっているんだぞ。俺は、お、お前たちを殺すことだってできるんだぞ」
 がちゃり、と銃口をこちらへ向けて二人を睨んだ。その顔には怒りの表情が現れている。焦りと緊張からか、汗が噴出していた。その横で財間は蒼白な顔をさらに蒼くさせている。
 しかし彼の挑発にヒステリックになって反応したのはさよだった。
 「勘違いですって!? ……ハァ、あきれた。あんた何様のつもり? それで脅してるつもりなの? あんたいっぺん人間やり直したら? あんたみたいな屑にお前呼ばわりされたくないわね!」
 「な、んだと。……お前――――」
 「あーもう! どこまで馬鹿なのあんた! そんなもん持ってなきゃまともに会話することもできないの? そうやって力を誇示しないと対等に喋ることもできないわけ?」
 「俺は――――」
 「だからクラスでもいじめられるんじゃない。そんな暗い性格が嫌われていることに何で気が付かないの? 見ているこっちがイライラするわよ」
 「い……いじめられる方が、悪いとでも言うのか」
 「そんなこと言ってないでしょ。悪いのはいじめをする方に決まってるでしょ! だけどあんたにもいじめられる原因を作る要素があるから周りがイライラするんじゃないの、あんたを見て。やる勇気もないくせに殺すだとかどうとか言わないで欲しいわ!」
 「屋敷さん、あんまり過激なことは……」
 思わず慶子は口をはさんだ。
 さよの言い分も一理あるが、それはそれで言い過ぎだと思った。
 見ると、顔を真っ赤にして鈴村が彼女を睨んでいた。まずい、と思った。
 「鈴村君も……。そんなムキにならないで。屋敷さんも言い過ぎよ」
 だが、今度はギロッとさよがその鋭い目で慶子を睨んだ。
 「……何よあんた。いい子ぶって。――――さすが優等生は言うことが違うわね。そうやっていつまでもいい子ぶってればいいわ。どうせいざとなったらあんただって平気で人殺しでもなんでもする気なんでしょ!」
 ――――そんなことはない! それには慶子もさすがにカチンときた。だが、それを口にできるだろうか。そんなことを言っても水掛け論で今の状況では説明にならない気がする。
 普段の慶子ならそれでも気を静めて中立な立場を取ったかもしれない。これが授業の合間で、ふとしたことがきっかけで始まった口喧嘩ならそう大事にもいたらずにすんだだろう。とにかくこのまともでない環境の中でなければもっとマシな、冷静な判断や考えをすることもできたかもしれない。だけど今は殺し合いの真っ最中だった。ある意味最初に裏切った者の勝ちの世界で味方は自分一人だった。
 「あなただって……そう思われてるわよ!」
 つい言ってしまった。
 夏の暑さがそうさせたのか、先の見えない苛立ちがそうさせたのか、とにかく慶子はそう、言ってしまった。
 みるみるうちに彼女の血液が上昇していくのがわかり、怒りの表情が醜くみてとれた。慶子とて、それとたいして変わらない表情をしていたかもしれない。
 そう、誰もがイライラしていた。
 ひと波乱ありそうな厭な予感がしたが、結局その後は何も起こらなかった。意外なことに、鈴村が二人の間を割ってはいるように下に様子を見に行ってくる、と言い残して斜面を下っていったからだった。
 彼女との間に、見えない空間が広がっていたけど、それでもその場を動こうとはしなかった。ここにいた方が下手に出歩くより危険が少ないというのはまだ、どこかに残っていた。それに彼女の方も、自分が苛立っていて冷静でないのがわかっているから、それ以上何も言わずに心に押し込めていたのかもしれない。
 そして入れ違いに菜種が帰ってきた。自分がいない間に何が起こったか知らない彼女は、
 「あはは、紙がないから葉っぱで手を拭いちゃった」
 と至って呑気なことを言っていた。
 そして彼女のおかげで緊張が少し和らいだのが唯一の救いだった。なんとくなく慶子は彼女のことが好きになった。
 その時、ばささっと近くの木の葉が揺れて、小鳥たちが一様に空へ飛び出した。
 慶子はその小鳥たちを目で追いながら、ああ、あれはヒヨドリだ。ムクドリまでいる、と思わず観察していた。ムクドリが四国地方にいることは非常に珍しいので慶子は半ば、今の状況を忘れて見入っていた。
 だが、そんな簡単に現実を忘れさせてもらえるはずもなく、次に聞こえた連続的な銃声とまばゆい光を放つ、フラッシュマズルによって現実に引き戻された。
 驚いて飛び上がったのはさよだった。
 「何、今の!?」
 困惑した表情で銃声がした方角を見る。ちょうどこの場所へ登ってきた道を下っていった先にある方角だった。
 「下のほうだわ! 道を少し下ったあたりじゃないかしら」
 「そういえばさっき鈴村君が降りていった方角じゃ……」
 「そうよ! あれは鈴村の持ってたマシンガンだわ!」
 一瞬、躊躇してさよは三人の顔をみやった。様子を見に行くには……ちょっと危険すぎる。
 また、どぱぱぱっと激しい音がして木の天辺あたりの木の葉が小刻みに揺れるのがわかった。上に向かって発射しているのだろうか。流れ弾がこっちに飛んでこないか心配になった。
 「い、いざとなったら、安斉さんのを使えば逃げられる、よね……?」
 そう言ったさよが慶子に見せたのは例のスタングレネードだった。
 「もし、変なやつがここにきたらこれを下に投げてあたしたちは逃げましょうよ」
 ドキドキしながら喋っているのがわかる。彼女とて、強気なところはあるけど怖いのだ。
 緊張と興奮した熱気で体温がどんどん上昇するのがわかった。汗もさっきから噴き出っぱなしだった。さっき水を取りすぎたのが原因かもしれない。
 「鈴村君が来ても……投げた方がいいんじゃないかしら……」
 ぼそっと独り言のように財間が言った。
 「だって……あの人……わたし、なんだか怖い」
 「あ、そ、そうね。それがいいかも。たまにはいいこと言うじゃん――――じゃ、あ、その、地雷もここに仕掛けておく?」
 財間が地雷だけの入ったデイバックを自分の前に押し出した。ぽつんと一つだけ意味ありげにそこに置いている。だが、その上に一緒に緑色の四角い物が置かれている。それは地雷を制御するリモコンだったはずだ。
 「リモコンは――――あなたが持ってればいいわ。元々あなたに支給された武器だし。――――安斉さん、これ、あたしたちが一個づつ持っててもいいよね?」
 そう言ってさよは菜種にスタングレネードを掲げて見せた。どうもこういうときには女同士の方がまとまりがいいようだ。さよのリーダーシップに少し感謝した。
 菜種はぺたんとまるで腰が抜けたかのように座りながらゆるゆると首を縦に振り続けた。この子はびっくりしたり驚くようなことがあるととたんに大人しくなってしまうようだ。そう言えば髪を染めたり、目立つような格好をする割には、いわゆる不良と呼ばれていた野ノ原さんや保坂さんたちとは付き合いがなかったように思う。どちらかといえば委員長の川上さんらとよく一緒にいたと思う。きっと根は真面目な女の子なのだろう。
 そこで慶子はふと思い出した。何てことだろう。今思い出したクラスメイトは全員死んでいるじゃないか!
 慶子は軽く眩暈がしてこめかみに手を当てたが、それは疲れからくるものだとはとても言い切れなかった。いったい今、どのくらいの人が死んでしまったのだろう。昼過ぎの放送ではあと十数人しか生き残っていない計算になっていた。まだ一日もたっていないのに、このペースは――――どれほどのものかわからないが、早いのか、遅いのか。いいや、ペースなんてどうでもよかった。この戦いに希望はあるのか、それともまったくないのか。それも章くんがいれば、いつものようにひょうひょうとして答えてくれるのだろうか……。
 「来た! 鈴村だ!」
 さよが叫んだ。
 慶子もぱっと下の道を見た。さっき渡されたスタングレネードを持つ手につい力が入る。
 不思議なことに鈴村は手に何も持っていなかった。そして、これはちょっとあまりにも哀れな表情で泣きながら、しかもよれよれになってこっちへ走ってくる。まるでおもちゃを取り上げられた子供のよう……。ママー、ママー。
 そんなイメージが一瞬の内に浮かび上がってきたが、その鈴村の後ろから飛び出してきた人物に目を奪われた。
 仁村俊幸(男子十七番)が、鈴村が持っていたおもちゃを奪い上げてこちらに向かって追いかけてきた。鈴村が持っていた短機関銃スコーピオンは何故か仁村の手に渡り、その銃口が元持ち主を狙っていた。
 そして次の瞬間にはスコーピオンが咆えて鈴村を光の束が襲った。
 ぎゃ、と唸り声をあげて鈴村が慣性の法則にしたがったままもんどりうって前転した。
 仁村が叫んでいる。
 「テメー!! 見つけたぞ! いきなり襲ってきやがって!」
 一気に追いついた仁村が鈴村の目の前に銃をかざしていた。鈴村は今にも小便を漏らさんばかりに、蛙がひっくり返ったような格好をしている。
 わあああああ、と鈴村が泣き叫んだ。それと同時にさよが、
 「今よ!」
 とスタングレネードを下に投げた。投げたと同時に自分は反対側の斜面に向かって自分のデイバックを拾って走り出した。
 慶子もつられるように慌てて手に持った閃光手榴弾を投げた。が、安全ピンを抜いてなかった。だが、気にする間もないのでそのまま後ろに走り出した。見るとさよはもう斜面から姿を消し、財間も意外と素早く斜面の近くまで逃げていた。……が、一人だけ口を半開きにしたまま放心している彼女がいた。
 「何してるの! 早く!」
 へなへなと座り込んだままの菜種の腕を取り、無理やり引っ張り上げた。それでようやく彼女も立つことができ、引っ張られるまま慶子の後をついてきた。菜種が自分のデイバックを取り忘れていることに気が付いたが、それを指摘する間はなかった。後方でまばゆい光と、激しい爆発音が瞬いた。
 つる草を伝って斜面を一気に下る途中で一瞬四角い物が視界をよぎった。地雷用のリモコンではないかとぱっとわかった。財間が斜面を降りる途中で落としたのだろう。が、ここの斜面は傾斜がきつく、降りるというよりは滑り落ちると言った方が正しいので拾う間はなかった。
 下まで降りると当然、洞穴の前に出た。それも洞穴というより祠と言った方が正しいのかもしれないが、そんなことは今はどうでもよかった。
 下では先に降り立ったさよと財間が立ってていた。さっきは素早い行動を見せた彼女もリモコンを落とすなど、やはり動揺しているに違いなかった。さらにさよの様子が少しおかしかった。足を捻ったのだろうか、しきりに足をさすっては引きずるようにしていた。すらっと背の高い彼女が、妙に姿勢を屈めていたせいで普段より小さくみえた。
 「ここは一本道だから先に早く下っていかないと見つかったら終わりよ。いきましょう」
 と威勢良く言ったはいいが、彼女は足をだいぶ痛めているようで、なかなか思うように歩くことができていなかった。虚勢は張っていてもそう強くはなれないようだ。
 慶子は彼女に手を貸してあげようかどうか迷ったが、菜種ともしっかり手を繋いでいたため、これ以上手を貸すことはできそうになかった。菜種はすっかりおびえて慶子の手を握り、「離さないでね」と心細い声でくりっとした大きな目を震わせながら何度も言った。
 アーチ状の松林をカーブして道なりに行くと二股に分かれた道まで来た。右手に登っていけば先ほどのところへ行く。当然、皆左側へと進み、多少広くなっていく道幅の隅を自然と歩いていた。道はさらにくだりながらゆっくりと左にカーブしていき、その先は急激に右手へユーターンするように曲がって見えなかった。曲がり角には腰ぐらいまでの草や背の高い木々が茂っている。そのせいで下の道は見えなかった。
 慶子はさっきの二人はどうなったのだろう、と気にはなっていたが、とにかく今は逃げることが先決だった。しかしそれでもちょっと気になって後ろを振り返ってみた。つられるように一緒に歩く菜種も振り向く。
 そこから見える範囲には誰もいなかったが、ゆるい登りになっている道から二人の内どっちかが追いかけてきやしないだろうかと思った(何故か二人そろって追いかけてくることはないだろうと思った)。菜種がすぐ横で、「怖いよ、怖いよ」を連発している。よく見るとうっすら涙目になっていた。
 「大丈夫……大丈夫」
 ほとんど自分に言い聞かせるように慶子は言った。それからパスッと気の抜けた空気が鳴ったような音が続けざまに何度かして、さらにどさっと何かが倒れるような音が背後からした。
 もう一度前を向き直した時には先頭を歩いていたはずの二人の姿が無く、代わりに曲がり角の茂みの中から男子生徒と思われる人物が上半身だけを出して立っていた。だが、コンタクトレンズのない慶子にはその姿がはっきりとは見えない。
 「きゃあ!」
 菜種が悲鳴をあげたのとまたもパスッと音がしたのがほぼ同時だった。
 悲鳴をあげた際、慶子に寄りかかってきた菜種のせいで二人はよろけて脇のしげみに身体を半分突っ込んだ。しかしそのおかげで音の鳴らない銃からの攻撃がかわせた。
 その時見えたのだが、先頭を歩く二人は地面に突っ伏していた。心なしか、赤い物が地面に広がっているのは気のせいだろうか。
 どういうこと!? あれは――――撃たれた!?
 いややはり撃たれたのだろう。二人の身体が肉の壁となって慶子と菜種を守ったのだ。なんて最悪な盾なんだろう!
 そしてガサリと茂みの中から男が姿を現した。
 「なにあれ!?」
 菜種がすっとんきょうな声をあげて呻いた。
 ボロボロに破れたシャツに赤黒い斑点がそこらじゅうに付いており、妙に顔の白い男子生徒が立っていた。いや、慶子が事前にその人物に会ったことがなければそれは本当に白い顔をしていると思ったかもしれなかった。その顔には白い仮面が付けられていた。
 斧こそ持っていなかったけれど、それはまさに慶子が見たジェイソンの姿だった。
 ジェイソンの持つ銃口がすっと慶子の方へと向いた。慶子はこわばったまま動けずにいた。
 「ひぃぃぃ!」
 隣で奇声をあげたのは菜種だ。その姿をはじめて彼女は見たのだ(と言っても慶子も二回目だからといって見慣れたわけではなかったけど)。さらに慶子の腕をぎゅうと握り締めた。強い力に慶子の腕がきりきりと痛んだ。だが、そのおかげで慶子の意識が逆にはっきりとした。とにかく、逃げなくては!
 ほとんど抱きかかえるぐらいの勢いで、慶子は菜種の腕を取り、いちもくさんに来た道を戻った。
 なぜか次の攻撃はなかった。
 全力で走りながら、ぱっと一瞬だけ後ろを振り向くと、距離がどんどん開いている。銃のマガジンを交換しているのかもしれない。相手はその場所からほとんど動いていない。なぜか以前のように走って追いかけてくることもなかった。とにかく、ラッキーだった。
 二人はこの時必死だったので、当然わかるわけもなかったが、先頭を歩いていたさよと財間はまだ生きていた。その証拠に弾を込めなおしたあとに発射された弾丸は、まずさよの頭部を貫き、そこでようやく彼女は息を引き取った(腹部と肺を撃たれてまともに呼吸すらできなかった状態で、むしろあっさりと殺してくれたのは苦痛を長く伴わない分、いくらかマシな死に方だったと言えるであろう。もちろん、これまでの生徒達と比べて、ではあるが)。財間の方はというと、胸を最初の一撃で食らっていたのでうつぶせに突っ伏したのだが、急所には当たっていなかった(それでも胸を撃たれたのだから重症なのだけど)。口から胸から血を噴きながら四つんばいになって立ち上がろうとした彼女はその姿勢でさよと同じく頭部を撃ち抜かれた。
 どっと頭から倒れ、お尻だけ妙に浮いているおかしな状態で固まってしまったが、もはやそれを恥らうこともなかった。もちろんそれを見て笑う者など誰も、そこにはいなかった。

【川田章吾優勝まで あと12人】


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