BATTLE ROYALE 外伝


プロローグ

 この大東亜共和国は世界から見ても先進国で、裕福なイメージを保たれている国であったし、戦争はしないという憲法を自ら掲げている国だったから『平和』を象徴するような国と言われてもおかしくはなかった。
 準鎖国体制をとっているので貿易がさかんとは言いがたいが、国民総生産は他国より秀でていたし、本来農耕民族の出身であるから、穏やかな国民性が窺い知れるところはいくつもあった。ことを荒立てない穏便な安全主義の体制が時に他国(特に米帝と呼ばれるアメリカ)には物足りなくうつるようではあるが、まずまずの安定した国家であると言ってよかった。
 現在の大東亜共和国というのは百年にも満たない歴史の浅い国であったが、なぜか国内では数百年の歴史があると言われ、その閉鎖された国家の体制により、国民に真実が伝えられることは少なかった。
 そうしたわずかな”歪み”を持つこの国は、理不尽なルールがはびこっており、その悪意に満ちた”常識”を正当化することにより、国民に絶対的な服従心を子供の頃から教育として教え、一種の立ちの悪いファシズムの典型のような国を築き上げた。
 その中の代表的な”常識”の一つに、この国唯一の徴兵制の制度があった。いや、徴兵制とも呼べない戦闘実験シミュレーション。『プログラム』があった。毎年、全国の中学校から無作為に選ばれた三年生、五十学級にそれぞれ最後の一人になるまで殺し合いをさせると言うもの。殺害方法。優勝までの軌跡など、各統計を取り、それを帝国防衛の為の戦闘実験としておこなっている。
 その必要性たるや、過去に幾度となく是非が問われ、そのたびに弾劾にあったりもしたが”プログラム”は過去一度も中止されることもなく、繰り返されてきた。
 また、このことは小学校四年生向けの教科書からも掲載されており、中学生になっている少年少女はすでにその事実を知らされている。
 今年もまた、新たに全国から中学生が選ばれることになるのだが、開催時期及び場所、そしてその内容にいたるまでほとんどのことは明かにはされておらず、また、そういった特集を組んだ記事、テレビなどの放映はタブーとされていた。というか、そんなことをすれば政府からありがたい鉛玉を容赦なく頭に頂くことになるので実際問題、そんなことは不可能だった。他にも禁止事項のいくつかに、廃退音楽(ロックと呼ばれるようなもの)などもあるがそれはまた別の話。
 とにかくこの国の中学三年生にとって、もっとも恐怖となっているのがこの”プログラム”であることには変わりがなく、毎日脅える、ということはないものの、漠然とした不安感に悩まされている生徒たちも多い。
 ただ、それでも刻々と流れる月日に忘れているわけではないが、無意識のどこかに置き去りにされていることがほとんどだった。
 七月に入ってほとんどの中学校が来週から夏休みということもあってか、たいていこの時期の中学生は全体的にだらけてやる気がない。授業中は睡眠時間か世間話の時間。先生も疲れてて、早く夏休みに入ってしまわないかなあと思ってる始末。唯一、元気をだすのがプールの時間ぐらい、というのでは生徒も教師も共通していた。
 学校の先生というと夏休みは非常に暇を持て余しているというのが一部の例外を除いて実情であるが、今年のこの時期、大東亜共和国のプログラム担当官は下準備に大変忙しかった。今年も例年通り実施される戦闘シュミレーションの開催の為に寝る間も惜しんで働いていた。その中のある担当官は特に今年のプログラムは大変であった。その担当官は今回が初めてではなかったのだけど、この重大な任務に抜擢されていた。
 そしてついに今年もプログラムがやってきた。コンピュータで無作為に選ばれた全国の中学三年生のクラス。兵庫県神戸市立二中三年C組がその中の一つに選出され、会場のセッティングや下準備の細かい所の修正が行われた。
 実はその中の生徒の一人に今回のプログラムに優勝し、怪我で入院、留年後、来年もまたプログラムに当たるという非常についていない生徒がいた。彼の名前は川田章吾。現在十五歳のごく普通の中学生だ。彼の自慢の長髪は短く刈り込まれ、左眉の上や全身に傷を残すこととなり、来年には一つ下の同級生となる香川県城岩町立城岩中学校3年B組のクラスメイトに恐れられることになるのだが、それもまた別のお話である……。


次へ

トップへ