CHARISMA第T話




「通常ソフトウエアの開発者が機械語のレベルまで知った上でシステムを開発することはほとんどないんだ、 それにより生じるギャップを、セマンティックギャップと言うんだな」
「そしてそのギャップを埋めるために様々な機能が活用されると言うわけだ」
「そしてそれの代表的な物がオペレーティングシステムという基本ソフトウエアやコンパイラに代表されるプログラミング言語処理系なんだよ」
 暗く静まり返った教室に響きわたる教授の声。
 その教授は教壇に座り自分がまとめたノートを読み上げる。
 そして時折立ち上がり殴り書きのように黒板に書く。
 先ほどからその繰り返し・・。
「ふあああああ」
 静まり返った教室で大欠伸をする。男が一人。
 そしてぼーーっと外を見る。
 大学の教室から見える光景は空には雲一つ無い快晴の空、空には何の鳥かは分からないが何羽か飛び交っている。 平和な光景そのものだ。
 ああーーー、何でこんなクソいい天気にだいがくのこうぎなんぞ受けなければならんのだ!
 と文句をたれてもしょうがない。この授業は出席を取るので単位のためにはしょうがないのだ。
「・・・・」
 あ、そうだ、自己紹介がまだだったな、俺の名前は鈴木当夜(すずき・とうや)  私立文系大学、西北大学の経済学部の一年生。
 バスケサークルに所属している。
 どこにでもいる普通の大学生だ。
 西北大学のレベルは・・・まあ上の下ぐらいだ。一応それなりの大学である。 名前は文系の奴なら誰でも知っている程度。
 ちなみに今は11月の中旬。そろそろ寒くなってくる時期だ。
 これから本格的な冬が到来なんだよなー。まあ暦の上ではもう冬に入っているらしいけど、 まあでも一番過ごしやすい時期かも知れない。

 うーん、それにしても静かな所だなここは。
 西北大学のキャンパスは片田舎の所にある大学なので周りにはビルなどと言うものはなく辺り一面に住宅街が広がっている。
 だから都会特有の世話しない雰囲気もないし、事件などと言う事とは無縁ののどかな雰囲気の所なのでぼーーーっとするにはもってこいなのかも知れない。

ちなみに今やっている授業というのはコンピューターアーキテクチャという科目、 授業内容はハードウエアとソフトウエアのトレードオフをどうとかという講義だ。
 コンピューターというと理系のイメージが強いが今現在は文系でも積極的に取り入れられている。
 だけど・・・・・・
 ハッキリ言って何を言っているのかよーわからん。
 要はコンピューターを完璧に使いこなさればいいんだろ? 聞くところによると今の就職はそれが重要らしいがな。
あーでも暇暇、暇だねぇ。

 ん?大学の授業を真面目に受けろ?
 あのなぁ、大学の講義というのはつまらない講義はとことんつまらないんだよ。
 基本的に講義をする人間というのは専門科目はその大学の俺の場合だったら経済学部の教授、それ以外は常勤講師、非常勤講師というのがパターンだ。
 一応コンピューター関連だが専門科目に指定されている。
 教授の授業というのは得てしてつまらない物が多い。 ハッキリ言って教授という地位にあぐらをかいている上に熱意がない。
 だが地位とは凄い物でどの大学の教授も年収は1300万は保証されているらしい。
1300だぜ?そこらの家庭よりよっぽど高収入だ。
 大学の教授というのは自分の研究のための施設を大学から提供して貰う変わりに講義を行うという物だ。
 だからなのかどうか知らないが教授には変わった人間が多い。
 端的に言えば自分にしか興味がないんだな。
 何せ自分の研究室に所属している学生の名前も良く覚えていないと言っていたからな。
 試験をするのも面倒くさい教授もいるので出席さえしてくれれば単位をくれるという人もいる。
 まあ学生にとってはそんなやる気のない人の授業なんて受けたくないし、簡単に単位を取らせてくれるのはありがたい。どうせまともに聞いていないし。
 この授業も教授が教壇の所に座ってほとんど動かないで自分のレポートを読み上げているだけだ。
 そんな科目にやる気が出るか?出ないだろ。
 現に出席は取るので出席人数は多いが寝ている奴や喋っている奴、携帯をいじっている奴の方が圧倒的に多い。

 とこう書くと俺がまるで駄目人間のように見えるが好きな科目はやっていて凄く楽しいし、レポート、試験も全く苦にならない。
 むしろもっとたくさん自分で研究してみたいぐらいだ。
 高校の時より俄然学習意欲がわいてきたのは事実である。
 だが中にはそう言う科目もあると言うこと。

「・・・・」
 ・・・暇だ・・。
 一応この講義が今日の最後なんだが・・・・
 俺はちらりと時計を見る。 まだまだ時間はある。
 ・・そうだな、寝るか、今日はバイトもあるし、夜勤じゃないけど午前一時までの準夜勤だ。
 俺は机に突っ伏して寝ようとする。
「こら」
 俺の頭をピンとデコピンした奴がいた。
 無論デコピンした奴は誰だが分かっている。
「何だよ輝ーーー」
「何だよじゃないでしょ、前期もこんな感じでさぼっていて・・結局試験期間に慌てふためていたの忘れたの?」
 俺にデコピンかまして輝と呼んだこの女性。
 光川 輝(みつかわ・あきら)俺と同じ西北大学の経済学部の二年生。年は俺より一個上だ。
 ちなみにあきらとは男のみたいな名前だが本人はれっきとした女性。
んで俺はその輝と現在付き合っている。
「その時はよろしく」
 俺はまた寝ようとする。
「よろしくじゃない!」
 ペシ
 俺は叩かれてしまった。
「ふーんだ、再履組」
 俺は悪ずく、ちなみに再履とは科目の単位を落とし、もう一度履修することを言う。
「私は他に取りたい科目があったから去年はこの科目取らなかったの」
「それに前期必須科目落とした奴に言われたくないね」
ぐっ、痛いところをつきやがる。

 ちなみに大学にはまず専門科目、一般共通科目に大きく二つに別れ、そしてまたそれぞれに必須科目、選択科目、自由科目と三種類に分かれている。
必須科目は卒業するのは絶対に必要な科目。
 選択科目はいくつかの中からとってその単位を取らなければならない科目。
自由科目はとっても取らなくても別にいいもの、再履修するのも自由だ。 いわゆる選択も必須も落としたら再履修しなければならないと言うわけだ。

 とまあ鈴木当夜の大学講座はひとまずこれで終わりとしよう。

「だって、あんまり面白くないからな」
「まー、それはいえてるけど」
 俺らはちらっと教授を見る。さっきと全く同じ体制で講義をしている。
「そういえば輝はまだ授業があるんだっけ?」
 俺は輝に振り返る。
「うん、後一時限だけある」
「分かった、俺は部室に行ってるわ」
「オーケイ、そうだ、ね、当夜」
「ん?」
 思い出したように俺に話しかける輝。
「今日はどっか遊びに行かない?」
「あー、ワリ、俺今日バイトなんだ」
「えーーー」
 むくれる輝。
「そんなむくれんなよ、明日はどうだよ?確か輝もバイト無かったよな?」
「無いけど・・・・今日じゃなきゃ嫌なの!」
 ま、まずい・・・・。
 俺は心の中で冷汗をかく。
 輝がこういうときは大体イベント絡みのことなのだ。
 女はやけにイベント事にこだわる。そしてそれを無視すると恐ろしい制裁が待っているのだ。
 ま、まずいぞ、なんか俺忘れてたっけ?
「ひょっとして当夜・・・・今日が何の日か忘れたの?」
 うう!輝の冷たい視線が痛い!
「え、えーと、お前の誕生日・・・は9月だろ・・・まだ先だし・・えーと、えーと」
 答えに迷っている俺に、はーーとため息を付く輝。
「あんた・・自分の誕生日も忘れたの?」
 誕生日・・・・・誕生日!
「そうか・・・・そういえば確か今日は11月18日・・俺の誕生日だな」
「そうかじゃないでしょ、何自分の誕生日忘れてんのよ」
「忘れてはいないけど・・・この年になって誕生日とかあんまり意識したこと無いな、いつの間にか過ぎているって感じ」
 俺の言葉にまたもやため息を付く輝。
「全く、男はこういうことに無頓着なんだから、あーあ、せっかく当夜を驚かせようと思ったのに・・」
 う!輝が沈んだ顔をしている。女にこういう顔をされると男は何か自分がとんでもなく悪いことをしたんじゃないかという考えに取り付かれるから質が悪い。
「だから悪かったって、明日なら大丈夫だから、な?」
 俺は輝をなだめようとする。
「バイトは夜の九時からだからさ、今日は何かおごるよ」
 それにようやく輝は機嫌を直したようだった。
「まあいいけど」
「よし!それなら決まりだ。デートは明日で」
「はいはい」

 そして一時間語、講義をも終わる。
「じゃあ当夜、私は授業に行って来るから」
「分かった、おそらく体育館でバスケやっていると思うから」
「ん」
 そう言うと俺らは別れた。
 俺はクラブハウスへと向かう。

 ここ西北大学は片田舎にあるのでキャンパスはなかなかの広さを誇っている。
 無論クラブ活動もそれなりに盛ん。でも凄い強いという部活はないがリーグで16部中3部昇格を果たしたりする所もありなかなかの強豪の所もある。
 ただ俺が所属しているバスケットボール同好会は「部」ではないので「公式戦」にはでない。
 サークル同士で作る交流の試合や一応「公式戦」に分類される試合もある。
 でも近日中に試合の予定はない。練習はしているがサークルでは出席率は半分と言うところだ。
 と言うよりその半分で固定されている。
 それに大学は三年生ぐらいになると就職活動で忙しくなり、四年生になると卒業研究で忙しくなる。
 なので主に活動の中心は二年生だ。
 でも俺らのサークルはそんなに先輩後輩の間からは厳しくない。最低限の礼儀さえわきまえていれば特に何も言わない。

 おっと、そうこうしている内に体育会クラブ棟が見えてきた。
 ちなみにクラブ棟は体育会クラブ棟と文化会クラブ棟に別れている。ちなみにここのクラブ棟は三階建てでかなり綺麗に出来ている。
 一つの部室の広さも10畳ぐらいあり普通に広い。
 ちなみに俺と輝が所属しているバスケットボールサークルは二回の奥の方にある。
 俺は階段を上ると部室のドアを開く。
「ういーっす!」
 俺は中にいる三人の男を確認すると声をかける。
「うーす、何?もう授業終わり?」
「ああ、終わった」
 部屋の中にいる三人の男。俺のサークル仲間。文学部の宮本、教育学部の芝崎、そして俺と同じ経済学部の秋山だ。
「今日は部活するの?」
 宮本が俺に話しかけてくる。
「ああ、体ごなしにね」
「ちなみにみんなは何してんの?」
「ん?まあ部活まで時間はあるし、テレビ付けながら麻雀してたんだよ、当夜もやろうぜ」
 俺は時計を見る。まだ部活が始まるまで一時間以上ある。暇つぶしにいいか。


「そういえばさ、光川とは最近どうなの?」
 突然芝崎がそんなことを聞いてくる。
「ん、何だよ突然」
「別に、世間話だと思っていいよ」
「んーーーー」
 俺は首をひねる。
「どうと言われても、別にどうもこうもないよ」
「本当かぁ?」
 芝崎は突っ込んでくる。
「な、なんだよ」
 その時俺らの様子を見ていた秋山が笑う。
「まーまー、もうそこら辺にして置いてやれよ、勘弁してやれよ、芝崎は輝ちゃんのこと狙ってたからな」
「な!」
 突然の秋山の発言に真っ赤になる芝崎。
「え・・・本当なのか?」
 我ながら間抜けな質問に余計に芝崎は紅潮する。
「ちげーよ!!」
「そりゃ・・・ちょっとはいいと思っていたけど、ちょっとだけだよちょっとだけ!」
 芝崎はそう言うとそっぽを向いてしまった。
「でもいいよなー、当夜は」
 秋山が俺をのぞき込む。
「輝ちゃんみたいなかわいい彼女がいてさ」
 そう、これが俺によく言われる言葉。
「あんまり意識したことはないなぁ、かわいくないとは思わないけど」
 ともう何回目かも分からない同じ答えを喋る俺。別に輝がかわいいとかあんまり意識したこと無い。
「くー、余裕の発言だな!」
 といきなり秋山が俺を羽交い締めにする。
「だ!苦、苦しい秋山!」
 俺はタッピング(プロレスで技をかけられたとき、手で相手の体を叩く事。降参のサインなのだ)をしてようやく解放された。
「ふー、あー、苦しかった」
 俺は気を取り直すと牌を捨てる。
「隙あり!ロン!メンタンピンドラ1!!満貫!」
「マジかよ!?」
 宮本は牌を倒す。これで親番六連勝、今日は恐ろしいぐらいの馬鹿ヅキだ。
「勝ちすぎ何じゃねーの?」
「これで6本場」
 ぼやく秋山と芝崎。ちなみに宮本に振り込んだのは俺だ。
 ちなみに六本場とは親番の時にあがると100点棒が一つ親の脇に置かれる。これが一本場、次あがったときに得点プラス300点される。
 そして連続であがる度に一本場、二本場、三本場と増え続けるって寸法。無論一本毎に300点が追加される。
「あーーついてね!」
俺はごろんとねっ転がる。宮本の一人勝ちはいいのだが負けは俺の一人負けなのだ。
「これでハコ割れだ」
 俺はぼやく。ちなみにハコ割れとは麻雀は最初のも地点が二万五千点、んで負けが込む事により持ち点を全て失う事を「ハコ割れ」と言うのだ。
 無論それは負けを意味する。
「ほらよ」
 俺は俺は宮本に金を渡す。と言っても1000円程度だが。
 無論博打が日本で御法度なのは知っているが金をかけないと麻雀は面白くない。
 その時芝崎がふと時計を見る。
「もうそろそろ、部活の時間だな」
 俺らは各自に目配せする。
「じゃ、そろそろ着替えますか」
 俺らが立ち上がり着替えようとしてズボンを降ろしたその時部室のドアが開く。
誰が入ってきたのかと視線を移すと。そこにはなんと輝がいた。
「あ、輝!女子の方は隣だろ!?」
「分かってる!ほら当夜!」
 そう言うと輝は持っていたペンを俺に投げる。
「あ!俺のペン」
「当夜が私と別れる時あんたがポケットから落としていったの。私が気が付いたときにはもういなかったから、渡しに来たの」
「ああ、悪いな」
「ん?」
 その時輝がふとテレビの方に視線を移した。
 そこではアナウンサーがニュースを話している。

「それでは次のニュースです」
「今年の6月に起きた東京大学医学部の女子大生田中恵さん(当時19歳)が交際していた男に殺害された事件ですが」

「ああ、確かあったなこんな事件」
 ぽつりと呟く宮本。

「今日東京高等裁判所は遺族側の控訴を退けると発表しました」
「その理由として高等裁判所山田幹生裁判官は「加害者に精神的疾患があった」と棄却の理由を述べ、これにより少年Aの無罪が確定しました」
「と言うことなんですが、どう思われますか?」
 女子アナウンサーは隣に座っている何やら学者らしき人に話しかける。
「そうですね、これはまた少年法への波紋を広げる結果となってしまったと言うことですね」
「日本国内の精神疾患を抱えた事による無罪判決は初めてではありませんからね、有名所で言えば宮崎氏の誘拐殺人事件。これも本人が精神疾患を抱え結局は無罪になりましたからね」
「しかし、遺族の怒りというのはこれではおさまらないのではないでしょうか?」

とおきまりのセリフが続いている。
 ハッキリ言って俺はこの手の評論は好きではない。別に評論が嫌いではなく偉そうに喋ってばっかりの評論家が気に入らないのだ。
 言うのは誰だって簡単、結果論を論じるのは馬鹿だって出来る。それをさももったい付けて喋るから腹が立つ。
「この頃・・俺らとあんまりかわんねー奴の犯罪が多いよな」
 俺はみんなに話しかける。
「そ、それがばりばりの不良じゃなくて見栄え普通に奴らだからな」
 秋山が俺に同調する。そして俺はまた続ける。
「精神的に幼い奴が多くなったんだよ、精神的に幼いからむかつくとすぐに行動に移す、子供と同じさ、だが質の悪いことに体は半分大人だからな、知能も発達しているし、尚質が悪い」
「でもさ・・・・」
 その時芝崎がぽつりと呟く。
「俺、こういうときいつも思うんだけど・・世の中これだけ悲惨な事件があふれているのに・・俺らは平和だよな」
「・・・・」
 俺らは静まる。
「だって・・俺は今までこんな事に巻き込まれたことないし、想像が付かないよ」
 芝崎の言葉に秋山も同調する。
「確かに、非現実的なのは確かだね」
「だけどさ」
 宮本が反論する。
「実際被害にあって見ると・・・・・だと思うぜ」
「うん・・・・」
そこでまた静まり返る。
「ま、ここで議論してもしょうがない、体育館に行こうぜ」
「そうだな」
「輝は部活出るんだろ?」
「うん、出るよ」
 俺の問いに笑顔で応える輝。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
 俺らと輝の間に沈黙が流れる。
「あのさ、輝」
「何?」
「・・・・・・・・・俺ら着替えるんだけど」



「おごるって言ってたから何かと思えば・・マックーーー?」
 ぶーたれる輝。
「奢るんだからぜーたくいうな!」
「それに俺だってバイトの給料日前だから金があんまりねぇんだよ」
「ま、いいけど」
 あれから俺らは部活を終えて講義中の約束で二人で食事をしに来ている。
 んでさっきも言ったように、俺も懐が寂しいのでマックに落ち着いたというわけだ。
 俺らはカウンターでバーガーとポテトを注文すると二階席に向かい、席を取る。
 んでいつもの通りに会話が弾み高校時代の恋愛に話が登った。
「当夜は高校時代もバスケやってたんだよね?」
「ああ、まあ二回戦ぐらいの弱い所だったけど、一応レギュラーだったよ」
「輝もバスケ部だったんだよな」
「うん」
「高校楽しかった?」
「楽しかったよー、いつも仲のいい男女6人で行動してたの。色んな所に遊びに行ったりしてた」
 と笑顔で話す輝、だが少しだけその顔には憂いが漂う。
「・・・・どうした?」
「・・・・・・・」
 輝は少し考えた後、俺に視線を戻した。
「・・・・・当夜になら話してもいいか」
 輝は真剣な顔で俺を見る。
 困惑する俺、輝のこんな表情を見るのは初めてだ。
「・・・あのね・・・私の男友達で・・・相川って奴がいたんだけど・・・」
 そこで一瞬黙る。



「今日の部室で見た女子大生殺しの殺人犯・・その相川って奴なんだ・・」



「ただいま・・」
 俺は家のドアを開けぽつりと呟く。
 ここは輝と飯を食べた所の最寄り駅から電車の二駅の所の近くにある俺の家、2LDKの小さなアパートだ。
 俺と母さんと親父、三人家族が住むには少し狭いが小さい頃から家に両親がいなくいつも一人だったのでさほど気にならない。
 え?俺の両親は何をしているかって?
 親父は刑事をしている。華の警視庁捜査一課の人間らしいが詳しいことは良く知らない。
 母親はとある研究所の研究員。チーフを務めていると聞いたがそれも良く知らない。
 どちらも一度仕事にかかったら一週間も二週間もかかる仕事だ。
 まあだからといって家庭崩壊しているわけではなく俺も一応ぐれずに育っている。
 両親の仲はいいみたいだし、これといって問題もない。まあいい意味でドライなんだな互いに。
 だが今日は家に誰かいるらしい、玄関にぬっと久々に見た顔が出てきた。
「おお、当夜、お帰り」
「父さん!帰ってたの?」
「ああ、さぼりださぼり、んでたださぼっているのも何なのでかわいい息子の顔を見に来たというわけだ」
「ふーん、よくいうよ、二週間も家留守にして置いて」
 俺が父さんと呼ぶこの男。鈴木和宏(すずき・かずひろ)身長は俺とほとんど同じ。一応刑事らしい。
「冷たいなぁ、実の父親に向かって」
「本当は俺より母さんに会いたかったんだろ?」
「大丈夫だ、母さんには週に一度ちゃんと会いに行っている」
「・・・・」
 父さんは思いっきり腕を伸ばして伸びをする。そしてソファに座り込んだ。
「父さん、何かあったの?」
 突然の俺のつぶやきに父さんは驚いた顔をして俺を見る。
「・・・・何で分かった?」
「父さんが家に帰ってくる用件は二つ、無事事件が終わったか、何らかのトラブルがあったか、様子から見て後者だと思ったから」
「・・・・」
 父さんは押し黙るとはぁーと小さなため息を付いた。
「やれやれ、簡単にそんなことを素人の息子に見抜けられるとは・・・刑事としてやばいかもな」
「ま、終わったことだから喋っちゃうけど、ほら、今日東京大学医学部の女子大生が殺害された事件を知っているか?」
 !!!父さんの口から出てきた事件の名前に驚く。輝の友達が起こしたというあの事件・・・。
 父さんは俺の顔色の変わりようにいささか不思議そうに俺を見るが話を続ける。
「当時、あれを担当していたのは俺でね」
「すぐに犯人は逮捕されたんだが、どーーも腑に落ちない部分があって、仕事の合間を縫ってちょこちょこ捜査を進めていたんだが」
「・・・・・・・・相川・・・登・・・・」
「!!!!!」
 父さんはソファから飛び起きる。
「な、何故その名前を知っている!!」
 父さんは俺を睨み付ける。俺はそのあまりの迫力にちょっと押されてしまった。
「答えろ!その名前をどこで仕入れた!?」
「・・・・」
 俺はじっと父さんを見つめる。
 そう・・・もう気付いたかも知れないがこの事は・・・・・輝に頼まれたことなのだ。
 俺はあの後、輝と約束を交わしたのだ。
 これは一か八の賭けだったのだが・・・俺は警察に関してはあまり詳しくないのだが殺人事件などの大きな事件は必ず 警視庁捜査一課の人間が担当すると聞いたことがある。
 しかもかなり話題となった事件、人員もそれなりに多く割いたと聞いたし、父さんは確か警部、それなりの地位にいるはずなのでひょっとしたらその事件に 携わっているのではないかとカマを掛けてみたのだが・・・、どうやら見事に成功したようだ。
 俺は輝の事を父さんに話した。
 予想通り父さんは俺の話に乗ってきている。
「当夜!輝ちゃんを今日・・・・はもう遅いから無理だな。明日・・・・明日だ!明日・・・輝ちゃんを家に呼んでくれるか!?」
「管理官の方はどうにかしてみる!どうだ?」
 父さんの提案に俺は黙る。そして父さんに提案してみる。
「輝が協力する以上は捜査に参加させてくれる事が条件だし、輝もそれを望んでいる」
「・・・・」
 父さんは一瞬呆気にとられる。
「・・・成る程、それを含んでのことだったのか・・・」
「ご名答・・・」
「・・・・」
 父さんは考え込む。
「・・・・良かろう、だがこれだけは覚えておけ、殺人事件に携わると言うことは自分も殺される覚悟無ければ勤まらない、ガキの遊びじゃないんだ、 ドラマみたいに格好良くはないし、俺の同僚も犯人に刺し殺され奴もいる・・それでもいいのか?」
「構わないさ」
「ふう・・・・」
「大学の方は大丈夫なのか?」
「ああ、俺も輝も講義はあるけど出なくてもいいやつだから・・」
 父さんは目をつぶり腕を組んで考え込んでいる。そして意を決したように目を開いた。
「・・・・分かった、その覚悟がどの程度のものか知らないが、明日の昼、輝ちゃんを交えて話がしたい」




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