
「いらっしゃいませ、ようこそワールドホテルへ」
受付嬢は営業スマイルで自分を迎えてくれた。
俺は辺りを見渡す。
「ここのホテルスイートにアウス・シャビテッツという奴が宿泊しているですが」
受付嬢はいささか訝しげに首を傾げる。
「・・・失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」
「これは失礼」
「ガイナンが来た・・と伝えてくれ」
〜理趣釈経〜
受付嬢は後ろへ下がる。
そしてしばらくすると出て来て、頭を下げた。
「ガイナン様。確かに、アウス様より案内するよう申しつけられておりました。」
「お泊まりの部屋は1954室です。ただ今係りの者がご案内いたしますので」
「その必要はありませんよ。部屋番号が分かれば十分」
「しかし・・」
「お忍びできたんでね」
エレベータを登り19階に到着すると、部屋の前に立ち、ドアをノックした。
「そして一人の黒人の男が姿を現す」
「こんな所に呼び出すとはな、ヘルマー、秘書名義で泊まるとはお前らしい」
ヘルマーは俺の指摘に苦笑する。
「偽名はまずいからな、ま、君とはそうおおっぴらに会うこともできないからな」
「スイートはホテル側にとっても上客。管理もしっかりしているから、こういうお忍びで合うには一番適している。ホテル側も秘密厳守で対応してくれる」
「まぁそこに立ってないで入り賜え」
ワールドホテルといえばこの星では5本の指にはいるほどの高級ホテルだ。星外からの要人の利用も珍しくない。
俺が通された部屋はまさに豪華の一言だった。アンティーク中心に構成されたこの部屋は、豪華でもない、しかし質素でもないと調和のとれた配置を行っていることは俺でも分かった。
ヘルマーは本来は別の用件で来日しているのだが、そういう時を利用してEPR通信で話すより直で話した方がいいときは、こうやって別名義で逢っている。
「忙しいところ済まないな」
「なに、お互い様だよ」
ヘルマーはソファに腰掛ける。
「どうだ?ガイナンクーカイとしての生活には慣れたかね?」
「まあまあだ、兵器だったあのころに比べたら、まるで天国のような暮らしだよ」
少し皮肉を込めて返す。
それを悟ったのかそれ以上は何も聞かなかった。
「そうだガイナン、興味深い情報が手に入ったよ」
「興味深い情報?」
「彼女が目覚めたよ」
「彼女・・・お前が進めている例の最高機密の計画とやらか・・」
「アーキタイプは損失したと聞いたがな」
「そう怪訝な顔をしないでくれ。彼女が開発されていることは多くの人間が知っている事だよ。だが本来の目的のために作られた彼女の真の制作者は今はこの世にはいないがね・・」
「・・・・じゃあ」
「そうだ、今行っている行程は彼女を本来の姿へ戻しているのだよ」
「本来の姿・・・・・ウ・ドゥか」
「そうだ、アレを再び目覚めさせてはいかんからな」
「分かっている・・・で、それだけか?」
「いや、これぐらいだったら通信で話せるだろ。今日は直接これを渡したかったんだ」
そういうとヘルマーは、書類を俺に手渡した。
「こ、これは!」
「前々からお前が欲しがっていたライフリサイクルの被験者の特別保護の承認書類だ。枢機院院長の直筆の命令書。これがあればどの惑星でも政府よりも強い超法的処置が執れるようになる。お前が引き続き行うライフリサイクルの被験者の人権確立へかなりの武器となる」
そういうとヘルマーはため息を付く。
「全く、手に入れるのに凄く苦労したぞ。」
「すまない、恩にきる」
「まあいいさ・・・」
ヘルマーはチラリと時計を見る。
「本当ならゆっくりしたいところだが、今からここの大使等を招いた食事会があるので急遽参加しなければならないのでね、これで失礼するよ」
「相変わらず多忙だな」
「あそうだヘルマー、後もう一つ頼みがある」
「なんだね?」
「サザビーズの招待券をミルチア政府の名義で発行してくれないか?」
「サザビーズの?何か競り落としたい物でもあるのかね?」
「今日の夜、サザビーズで古代武器を中心としたオークションが開かれる事は知っているか?」
「いや、初耳だ・・・・ああ、成る程。珍しいな」
「何、この頃がんばっているようだから。ボーナスでもと思ってな」
「フ、かまわんよ、それぐらいならすぐ出来る」
「ファウンデーション名義だと何かと世間の目が厳しいんでね。ミルチア憲章で人権が確立されたとはいえ、未だにライフリサイクル法の適用者に対しての差別はなくらならないからな」
「銀河によっては法整備すら整っていないところもあるぐらいだ」
俺の愚痴を聞いてヘルマーは苦笑する。
「ま、吠えさせたい奴は吠えさせておけばいい、所詮は見栄とひがみだ。気にするほどのことでもない」
「分かっている」
「ではまた逢おう」
サザビーズとはオークションハウスの老舗のことで宇宙政府では最も古い歴史と伝統を誇る所だ。世界各国から集められたそれぞれの専門分野のエリート中のエリートの鑑定士10名のリアトビリューションによって、真贋、作者名等が決められる、
名の由来はロストエルサレムに人類が本拠地を置いていたときのオークションハウスの名前から拝借したらしい。
先日行われた下見会であいつが喉から手が出るほど欲しがっていた拳銃をたまたま見つけ、密かに目を付けていたのだ。
俺はサザビーズの入り口に立っている従業員に招待状を見せる。
「・・・ミルチア政府のガイナン・クーカイ様ですね。ようこそサザビーズへ。当ハウスは貴方を歓迎します」
その従業員は恭しく頭を下げる。
俺の名前が聞こえたのか、入り口の側にいた何人かが密かに俺を指さして、なにやらひそひそ喋っている。喋っている内容は大体想像が付くがね。
「オークション会場は二階になります。招待券のお持ちの方の席はご用意させていただいていますのでそちらにご着席下さい。当ハウスに備え付けてある物は全て自由に使って下さっても結構です。今日ご用意したワインは絶品ですので後でご賞味を」
「それではオークションをお楽しみ下さい」
オークションハウスの中はきらびやかだ。赤いカーテンがしかれた床に、黒の壁とそれに光る金のメッキの縁。華やかな衣装に身を包んだ紳士淑女達が談笑を交わしている。
オークションは一般にも開放されているが、その値段の高さは一般人に手が出ないほど高い、やはり参加者は業者か上流階級の娯楽となっている。
俺は側にいたトレイを持ったウエイターにワインを一杯もらう。
俺はそれを口に付ける。
華やかな甘さと、程良いのどごし。アルコールがするすると俺の体の中に入ってくる。確かに上等なワインだ。
俺はオークション会場に入った。人はかなりは入っている。そりゃそうか。もう開始5分前だ。俺は席に座るとカタログを開く。
俺が目を付けているマカロフは24品中12品目。ま、順番は可もなく不可もなくといったところか。
その時、拍手が起こる。俺はステージに目をやる。そこには既に進行役が立っていた。
進行役は深々と頭を下げる。
辺りはしんと静まる。
「このたびはサザビーズにお越し頂き有り難うございます。皆さんご存じの通り!今夜行われるオークションは古代武器セール!」
「今回はサザビーズへの商品登録要請があった106の品の内!!当ハウスが誇るトップクラスの鑑定士の厳しい目をくぐり抜けることに成功した24品が今回の商品としてカタログに記載されました!!」
進行役は手を振り上げる。会場からは歓声が起こった。
「今は全てデジタル化してしまい、軍や警察で使われている兵器は機能性のみを追求したとても味気ない物となってしまいました」
「確かに性能は素晴らしい、人を殺すために作られた武器ならば、その存在だけで言うのならば決して間違ってはいないでしょう、いやむしろ本来の姿かも知れません」
「しかし!!ここにお集まりの皆様はそれを良しとしなかった!武器に芸術性を見いだし!古代の暖かみが残るラインを追い求め、お集まりになったのです!」
ここでまた歓声が起こる。
「そして当ハウスが用意した24点の品は!その高尚な趣味をお持ちである皆様を満足いただけることを確信いたしております!!」
「それでは商品ナンバー100−25456−45715、名銃、アルスPブレンド!!」
「それでは1000よりスタートいたします」
こうしてオークションが始まった。
数々の名品が次々と落札されていく。落札した面面はどれも嬉しそうだ。
そしていよいよ
「次に出品するはステンレス製のマカロフ!当時、ヴィエフ社の子会社にマカロフ社が発表した伝説の処女作!!」
「後に天才の名を欲しいままにしたマカロフ社の社長アレクサンドロス=マカロフが設計デザインしたこの拳銃は当時発売されていた全ての拳銃の性能を上回る物でした!」
「しかし・・当時、子会社に過ぎなかったマカロフ社は、その拳銃の発表後、その技術をヴィエフ社に吸収され、全く同じ性能を持った銃が発売されることとなり、結局わずか100丁しか生産されなかった代物です」
「その後、独立したマカロフはその体験からか、公式には自分の処女作はマカロフ・Tエディションと発表した物のマニアの間ではこの話は有名で事実上処女作はこのマカロフとなっております」
「この曰く付きの一品は10000からスタートします」
「それでは一万!」
進行役の手が上がり、次々と値段が上がっていく。
オークションへの参加方法には色々ある。
中には俺のようにそう表だってオークションに入札したくない者もいる。そういう者は、進行役に事前に自分ののサインを進行役に伝えておくのだ。目配せであったり、指を立てたり。そのサインが出ている限り、入札し続けるものとして進行役は了解するのだ。
俺の場合は胸に付け入るブローチを外すことだった。外している限り、入札は続けると言うことだ。
「二万八千!二万八千!いませんか!?」
少し値段が降着する。それを見計らって俺はブローチを外す。それを見た進行役は二万九千をコールする。
そしてさらに値段が上がる。
そして
「四万!ハンマープラスは四万!」
オークション終了後、俺は品物を受け取りに進行役の元へと向かった。
俺が足を踏み入れた途端。周りの人間が俺のを方を指さし何かを呟いている。
(おい、あれは・・・クーカイファウンデーションの)
(ああ・・・あの代表者もライフリサイクルの生き残りでしょ?)
(ミルチア政府と癒着して、裏ではかなりあくどいことをしているらしいぜ)
(あの金だってどうせろくでもない金だね)
俺はそれを無視して進行役に招待状を出す。
「ミルチア政府のガイナン・クーカイ様ですね?」
「落札した品は、マカロフでよろしいですか?」
「ああ、そうだ」
「料金の方は後日、ガイナン様の口座より引き落とさせていただきます」
「了解した」
「これが品物でございます。この場でご確認下さい」
進行役は蓋を開ける。俺は落札物を確認すると包んでもらった。
「・・・・」
俺は品を持つと。先程陰口をたたいた婦人の一人へと歩く。
私は無言で彼女の前に立つ。
「・・・な、なに
「聞こえていましたよ、ご婦人」
突然の私の指摘に驚いたのかびくっと震える。
「陰口はその本人が聞こえないように言うことをオススメしますよ。貴方のためにもね」
俺の指摘が余程気に障ったのか、顔を真っ赤にこう吐き捨てた
「な、なによ!廃棄物のくせに!」
廃棄物という言葉に一瞬にして場が凍り付く。さすがにまずいと思ったのかその婦人の夫が彼女をなだめる。
私は彼女に会釈をするとそのオークションハウスを離れた。
その態度も気に入らなかったのか最後に何かまた吐き捨てたようだが、何を言っているか良く聞こえなかった。
廃棄物か・・・・。
見下している人間はその本人が一番見下される人間というのが俺の経験。
何も知らず、ただ富をむさぼるだけの存在になってはいけない。
俺は常々自分にそういい聞かせている。
兵器だった自分への、せめてもの意地だ。
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