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横浜事件第3次再審最高裁審理に関する法学者声明
1 横浜事件第3次再審請求は、再審公判第一審の免訴判決(横浜地方裁判所2006年2月9日判決。公刊物未登載)及びそれを支持した控訴審判決(東京高裁2007年1月19日判決。判例タイムズ1239号349頁)に対する上告審が、現在、最高裁判所第2小法廷に係属している。
私たちの有志は、戦時下最大の言論弾圧事件、あるいは戦前の司法の諸悪を凝集した事件といわれる横浜事件の持つ歴史的、社会的意味にかんがみ、また、法的にも救済の必要が痛感される事件であることにかんがみ、司法自らがこの事件と誠実に向き合うことの必要性を痛感し、これまでも「横浜事件の再審開始を求める研究者声明」(2002年12月18日)、「横浜事件再審控訴審判決に対する法学者有志の緊急声明」(2007年1月19日)を公表してきた。
前者においては、共産主義運動という事件自体の不存在、拷間・強制による事件の捏造、治安維持法自体の悪法性に加えポツダム宣言受諾後に同法を適用することの不当性、請求人らの名誉回復の不完全性を、後者においては、このような事件の性格を省みることなく、有罪判決確定後に治安維持法の廃止と当該事件に対する大赦の措置があった事実のみを根拠とし、請求人側の主張を聞く姿勢を欠いたまま、再審裁判所が免訴判決を言い渡し、それを支持したことの不当性を指摘した。
私たちは、ここに改めて本件の問題を指摘し、最高裁判所の慎重な審理、それを踏まえての口頭弁論の実施、そして原判決の破棄を求めて本声明を公にするものである。
2 再審一・二審判決は、再審公判が「審級ニ従」って審判されるとの文言(旧刑事訴訟法511条)を唯一の根拠に、再審公判も通常審の公判とほぼ同等の手続であるという論理を取り、それ故に訴訟条件たる免訴規定についても、原則として再審公判にも当然適用されると判断した。その上で、いわゆるプラカード事件最高裁判決(最大判1948年5月26日刑集2巻6号529頁)を引用し、通常審と同様、再審公判でも訴訟条件事由の判断が実体判断に先行することを前提に、免訴事由の存在を根拠に免訴判決を言い渡した。
しかし、訴訟条件事由に関する判断が実体判断に当然に先行するかについて、少なくとも、無罪判決を言い渡しうる程度に審理が熟しているような場合、実体判断を先行させることは許されるとの見解も、現在ではきわめて有力である。従って、訴訟条件判断が実体判断に先行すべきことは、必ずしも白明とはいえない。
その上、仮に通常審では訴訟条件事由の判断を実体判断に先行させるべき必然性があるとしても、再審の場合、確定後救済手続であるという特殊性への考慮が必要である。
しかも、再審は、誤った確定有罪判決を受けた請求人を救済するための制度であり、そのために二重の危険の利益を放棄して再度の事実認定を求めることを請求人に許容した制度である。従って、再審において優越されるべき利益は、誤った確定有罪判決からの救済に向け、請求人に改めて当該事件の実体に関する主張・立証を許容することに他ならない。
そして、形式裁判でも有罪判決を免れるという被告人の具体的利益を観念しうる通常審と異なり、再審において訴訟条件事由を根拠に実体判断を拒むことは、国家の一方的な都合で請求人の実体判断の主張に対する利益を奪うに等しく、請求人の裁判を受ける権利(憲法32条)の観点から見て、重大な問題を孕んでいるというべきである。
かかる再審の特殊性を看過し、再審公判が審級に従うとの法形式のみを根拠に、再審公判でも訴訟条件事由が当然適用されるとして免訴判決を言い渡し、またはそれを支持して控訴の利益なしというのは、余りにも法の形式的側面のみを見て実質を見失ったものといわなければならない。
3 横浜事件は、戦後の一連の歴史研究が明らかにし、私たちの有志もすでに指摘し、さらに、本件即時抗告審である東京高裁2005年3月10日決定(判例タイムズ1179号I37頁)、横浜地裁1949年2月25日、同控訴審たる東京高裁1951年3月28目判決、同上告審たる最高裁1952年4月24日判決(いずれも公刊物未登載)など、裁判所自体が当時の特高警察の拷間の事実を認定したことにも表われているとおり、特高警察官の拷問によるフレーム・アップであり、事件の実体の存在自体がきわめてあいまいな事件であった。
このような観点から見たとき、本件は、すでに無罪の実体判決を言い渡しうる程度に、機が熟している。のみならず、無罪判決を言い渡してこそ、帝国憲法の下においてさえ、議会内外で激しい反対論が展開され、「憲法の精神に戻る〔ママ〕ことの最も甚しいもの」で「現代立憲政治の下において、世にも稀な悪法」(美濃部達吉)と批判された治安維持法の負の遺産を司法自らの手で清算し、その犠牲者に対する救済を全うすることができ、歴史への責任に応えることとなるのである。
以上の点を踏まえ、私たちは、最高裁判所が、本件一・二審判決のような形式的判断にとどまることなく、口頭弁論の実施を通じて請求人の主張を直接受け止め、それを踏まえて原判決を破棄することを改めて求めるものである。
2008年2月28日
尚この文書は横浜事件再審ネットワークでスキャンしたものですので文責は当ネットワークにあります。2008年2月29日
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