入門「横浜事件」

 太平洋戦争中の言論弾圧虐殺事件。治安維持法等で次々に検挙し拷問し虚偽自白させた事件。

1「事件」と検挙された人々

事件一覧
「米国共産党員事件」
「世界経済調査会事件」と「ソ連事情調査班事件」
「泊事件」あるいは「共産党再建準備会事件」
「改造社」事件
「政治経済研究会 昭和塾」事件
「中央公論」事件
「日本編集者会 日本出版社創立準備会」事件
「日本評論社」事件
「満鉄調査部」事件
「愛国政治同志会」事件

「米国共産党員事件」
 アメリカで労働問題を研究していた川田寿・定子夫妻が1942年9月11日に神奈川県特高警察に検挙された事件。日米開戦による「交換船」の帰国者の中にスパイ、あるいは国際共産党の司令を受けている者がいるのではないか?と疑いをもった特高によるでっちあげ逮捕だった。
 川田の勤務していた世界経済調査会、川田と関わりのあった者を次々と検挙していった。 高橋善雄(世界経済調査会・ソ連研究班 獄死)、川田茂一(川田兄)、木佐森吉太郎(野村證券企画部)、大野辰夫(東亜研究所員)、青木了一(満鉄東京支社)、小屋敷国秋(写真家在米当時川田と交流)、大河内光孝(アパート管理人)

「世界経済調査会事件」と「ソ連事情調査班事件」
 「米国共産党員事件」で逮捕された高橋善雄が所属していた世界経済調査会が組織していたソ連事情調査班の関係者も逮捕された。
平舘利雄(満鉄東京本社)、西澤富雄(満鉄東京本社)、益田直彦(ソ連研究班長)、関口元(元世界経済調査会)、諸井忠一(世界経済調査会英研究班)

「泊事件」あるいは「共産党再建準備会事件」
 「ソ連事情調査班事件」で逮捕された者の押収品に「スナップ写真」があり、それに写っていた人々を共産党再建の謀議をはかっていたとでっちあげ逮捕した事件。
細川嘉六、益田直彦・平舘利雄・西澤富雄(ソ連事情調査班事件で逮捕)、西尾忠四郎(満鉄東京支社 保釈後死亡)、木村亨 (中央公論社)、相川博(前改造編集部員 日本海事新聞記者)、小野康人(改造社)、加藤政治(前東洋経済新報社 東京新聞記者)
 泊(富山県朝日町)は、細川嘉六の郷里で著作「殖民史」(1942年)の印税が入ったので、配給制の不自由な時代だったので出入りする編集者等を誘った慰安旅行。
 細川嘉六が改造に執筆した論文「世界史の動向と日本」(1942年8月、9月)が内閣情報情報局の検閲をパスしたにもかかわらず大本営報道部により発禁にされたことから、細川と改造社は特高から「注目」されてもいた。

「改造社」事件
 細川の論文を掲載した改造社の関係者を逮捕した事件。
 相川博・小野康人(共産党再建準備会事件で逮捕)、水島治男(元改造編集長 科学振興社)、青山鉞治(改造社員 海軍報道部嘱託)、小林英三郎(改造編集部次長)、若槻繁(前改造編集部次長)、大森直道(前改造編集長)

 

「改造社」のサイドストーリー
 青山鉞治がメンバーだった同人雑誌「五月」の那珂孝平(英工社)が逮捕された。

 

「泊事件」のサイドストーリー
 泊の慰安旅行に参加予定で参加しなかった浅石晴世(中央公論 獄死)を逮捕した。浅石晴世が政治経済研究会のメンバーだっのでそちらも「注目」される。細川嘉六の「殖民史」を手伝った新井(姜)義夫(中央亜細亜協会)も逮捕される。また、新井義夫の関係か?崔応錫(東大医学部助手)も逮捕された。

「政治経済研究会 昭和塾」事件
 近衛文麿が政権を担当することに備えてつくった政策研究立案機関。そこで若い人材育成を意図したのが昭和塾。
 浅石晴世(中央公論 獄死)、高木健次郎(日本製鉄)、勝部元(日本製鉄)、由田浩(古河電工)、小川修(古河電工)、森数男(大東亜省総務局調査課)、板井庄作(電気庁長官官房)、白石芳夫(糖業連合会調査課)、和田喜太郎(中央公論 獄死)、山口謙三(日本鋼管)

「政治経済研究会 昭和塾」事件のサイドストーリー
 また、高木健次郎の日本製鉄関係から渡辺公平(日本製鉄八幡製鉄所)が、勝部元の日本製鉄関係から中沢護(日本製鉄)が、山口謙三の日本鋼管関係から大林良二(日本鋼管)が逮捕された。板井庄作に本を売ったという関係で佐藤静夫(古書籍商)も逮捕された。

「中央公論」事件
 浅石晴世や木村亨が中央公論だったためその関係者も逮捕された。
 浅石晴世・和田喜太郎(政治経済研究会事件で逮捕)、青木滋(青地晨 前中央公論編集次長 翼賛壮年団報道部次長)、小森田一記(元中央公論編集長 日本出版会)、畑中繁雄(中央公論)、藤田親昌(中央公論編集長)、沢 赳(中央公論出版部次長)

 

「中央公論事件」のサイドストーリー
 小森田一記の関係から酒井寅吉(朝日新聞社)が、沢 赳の関係から桜井武雄(農業問題研究者)が逮捕された。

「日本編集者会 日本出版社創立準備会」事件
 小森田一記・青木滋(中央公論事件で逮捕)がメンバーだったため関係者が逮捕された事件。
 松本正雄(前日本評論編集長 日独文化協会)、美作太郎(日本評論編集長)、彦坂竹男(前日本評論社編集局次長)、藤川覚(前岩波書店編集部)

「日本評論社」事件
 「日本編集者会 日本出版社創立準備会」事件で逮捕された松本正雄・美作太郎・彦坂竹男が日本評論社のメンバーだったために関係者が逮捕された事件。
 鈴木三男吉(日本評論社出版部長)、渡辺潔(日本評論社法律時報編集長)

「日本編集者会 日本出版社創立準備会」事件のサイドストーリー
 当事件で逮捕された藤川覚が岩波書店だったため小林勇(岩波書店編集部)が逮捕された。
 

「満鉄調査部」事件
 「泊事件」あるいは「共産党再建準備会事件」で逮捕された平舘利雄・西澤富雄・西尾忠四郎がメンバーだった満鉄調査部の関係者が逮捕された事件。
 内田丈夫(満鉄大連本社)、安藤次郎(上海特別市政府工業社会処)、手島正毅(満鉄上海事務所調査課)

「愛国政治同志会」事件
 「泊事件」あるいは「共産党再建準備会事件」で逮捕された加藤政治と親交のあった田中政雄(東京航空計器 獄死)が逮捕され、田中がメンバーだった当会の関係者が逮捕された事件。
 広瀬健一(政治公論社社長)、大月勘一(慰問用品販売)そのほか25名前後が逮捕されたと言われている。

 以上横浜事件での検挙者は64名から89名と言われている。

2 首謀者?
2-1 平沼騏一郎(国本社総裁 1939年首相、戦後戦犯として終身刑)と唐沢俊樹(警保局長)が東条政権を擁護し近衛文麿のカムバックを阻止する目的で行われた政治謀略。 (国本社 国家主義団体)

2-2 東条内閣は敗戦時の騒擾対策として左翼およびインテリを大量拘束する方針があった。「左翼インテリの巣」といわれた満鉄調査部が標的になった。長谷部将軍(シベリア出兵時参謀 満鉄嘱託)談

3 その後の横浜事件
 神奈川県特高警察は「功績」が認められ内務大臣賞を受け、松下英太郎(神奈川県警察部特別高等課勤務警部、戦後横浜事件の拷問行為により特別公務員暴行傷害罪で有罪確定)は警視に昇格。

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